【勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一】(176)クラウンの勝算 政界筋 敬遠される球団の「命綱」
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次々と1位指名選手が決まっていく。目の前で江川を奪われた巨人は早大の山倉捕手を指名した。
①クラウン 江川 卓 投 法大
②巨 人 山倉 和博 捕 早大
③阪 急 松本 正志 投 東洋大姫路
④阪 神 伊藤 弘利 投 三協精機
⑤大 洋 門田 富昭 投 西南学院大
⑥ヤクルト 柳原 隆弘 外 大商大
⑦日本ハム 石井 邦彦 投 大東文化大
⑧広 島 田辺 繁文 投 盈進
⑨近 鉄 金光 興二 内 法大
⑩南 海 中出 謙二 捕 新日鉄堺
⑪ロッテ 袴田 英利 捕 法大
⑫中 日 藤沢 公也 投 日鉱佐賀関
川崎市の法大合宿所。約20畳の食堂に設営された記者会見場には100人以上の報道陣が詰めかけた。「クラウン、江川卓!」。モニターを黙って見つめていた江川の顔に落胆の色が広がる。
「イの一番の指名に感謝しています。これから関係ある人たちと相談します。いまの時点では行くとも行かないとも言えない」。そう言うのがやっとだった。
クラウンはその日に動いた。中村オーナーが東京・平河町の船田事務所を訪ね、坂井球団代表と毒島スカウトが栃木県小山市の実家へ直行。父親・二美夫さんに指名の挨拶。そして、根本陸夫新監督が夜、川崎市の下宿先を訪ね、江川本人と握手を交わした。
「学校の先輩として〝社会人の第一歩だから、じっくり考えなさい〟と言った。法大OBの私が監督になったことで彼とのつながりができた。血は水よりも濃いというからね」
江川サイドから最も敬遠される球団といわれたクラウンに「勝算」はあるのか-。当時の新聞にはこんな〝展望〟が掲載された。
<クラウンの中村オーナーは岸信介元首相の元秘書。船田氏は旧岸派から分派した中間派を率いている。この政界筋はクラウンにとって太い〝命綱〟になる。ただし父親の二美夫さんが交渉の主導権を取れば事情は変わってくる。第三者の意思より親族の思いの方が強く反映されるからだ>
「すべては24日に船田先生とお会いしてから。まぁ、世の流れに身をまかせ、一番いい方法を決めたい」。報道陣に囲まれた二美夫さんはこう語った。
(敬称略)