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【通崎好みつれづれ】ときめき、木琴とともに

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約60年前の木琴のテキストを手に笑顔の桐田勝子さん
約60年前の木琴のテキストを手に笑顔の桐田勝子さん
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 この10年、趣味でマリンバを演奏したい大人の方のレッスンをする機会が増えた。

 2年前から通われている桐田勝子さん(69)は、岐阜市出身。小学校の入学式で配られた放課後木琴教室のチラシをみて、親に「習いたい」とせがんだ。

 昭和23年から44年まで、岐阜では市主導で木琴教室が開催され、7~8年にわたる最盛期には千人の生徒がいたという記録がある。桐田さんもその1人だった。さっそく卓上木琴を買ってもらい、お母さんお手製の布ケースに入れて教室に通い始めた。しかし、5年生になって宿題が多くなると、木琴の練習時間がとれない。進歩のないのがいやで辞めてしまった。

 それでも、20代になりパイプ付きの小さな木琴を購入する。その後結婚、それから女手一つで女児2人を育てることになった。。日々の暮らしに精いっぱいで、心置きなく弾ける環境でもなかったが、どんな時も木琴と一緒だった。57歳で長年勤めた会社を退職する前年、自分へのご褒美として、ついに憧れの大きなマリンバを購入する。子供の頃、近所に住んでいた木琴の先生のお宅がリフォーム中、立派な木琴を預かったことがある。「弾いてもいいよ」と言われてときめいた気持ちが忘れられなかった。

 インターネットで先生を探し、マリンバを習い始める。その後10年を経て、うちに来られることになった。

 年初に1度催す、私の生徒の「試演会」では、投票で「聴衆賞」を決める。また来賓の方にも賞を出してもらう。桐田さんは今年、芸大卒のプロたちを差し置いて「聴衆賞3位」、来賓による「藤井賞」をダブル受賞された。

 桐田さんは「弾けなかった時間が長いので、弾けているというだけでうれしい」と話す。そんな音楽に向き合う喜びが聴く人に伝わった。もちろん、それを伝える技術が身についたからこそのことだ。

 先日レッスンで、約60年前、合格をもらえずやめてしまった曲をみてほしい、と楽譜を持ってこられた。その曲が、今の桐田さんにとって「朝飯前」だったことは、いうまでもない。(通崎睦美 木琴奏者)

 つうざき・むつみ 昭和42年、京都市生まれ。京都市立芸術大学大学院修了。マリンバとさまざまな楽器、オーケストラとの共演など多様な形態で演奏活動を行う一方、米国でも活躍した木琴奏者、平岡養一との縁をきっかけに木琴の復権に力を注いでいる。執筆活動も手掛け、『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』で第36回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)と第24回吉田秀和賞をダブル受賞。アンティーク着物コレクターとしても知られる。

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