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【勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一】(175)あっぱれクラウン 江川1位指名「巨人やったら大変や」

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クラウンが江川、巨人が山倉を指名。名前がはり出された=昭和52年11月22日
クラウンが江川、巨人が山倉を指名。名前がはり出された=昭和52年11月22日

 さぁ、ドラフト会議だ。昭和52年11月22日、東京・飯田橋のホテルグランドパレスの「ダイヤモンド・ルーム」。午前11時、金子鋭コミッショナーの開会宣言で始まった。

 まずは本抽選のくじを引く順番を決める予備抽選から。係員が台の上に12枚の封筒をばらまく。下位球団の代表者から封筒を手にした。「あぁ、これが本番やったらなぁ」と声を上げたのが阪急の上田利治監督。手には「1」の札が…。

 午前11時半、本抽選開始。1番の上田監督が台の左手前にある封筒に手を伸ばした。すぐに開封。出てきた数字は「3」。オオッ-というどよめきが会場を包む。2番目は巨人・長嶋茂雄監督。「昨日から上段の左の封筒と決めていました」。ミスターのひらめき。数字は「2」。再びどよめきが起こる。

 続いて日本ハム「7」、ヤクルト「6」。まだ出てこない…。そして、5番目、クラウンの中村長芳オーナーが引く。中村オーナーが振り返り高々と左手を挙げた。ついに出た「1番くじ」だ。

 「きのうね、夢を見たんだよ。ボクが1番くじで巨人が2番。そこで巨人から〝江川を譲ってくれ〟と頼まれる-という夢だった。まさか本当に巨人が2番くじとは…。なんだか怖い」

 1番クラウン、2番巨人、3番阪急、4番阪神…12番中日。本抽選が終わり会議は昼食。午後1時半再開した。下馬評で「最も江川サイドが敬遠する球団」に挙げられていたクラウンが、本当に〝夢のお告げ〟通り江川を指名するのか…。巨人の首脳陣がクラウンのテーブルにお辞儀をしている。譲ってくれ-のサイン? 用紙に選手名を書き込んだ中村オーナーの手が上がった。

 「パンチョ」こと伊東一雄パ・リーグ広報部長の甲高い声が響いた。

 「クラウン、江川卓! 法政大学」

 その瞬間、会場は異様なざわめきに包まれた。「やっぱり指名したか…」という失望のタメ息。「大丈夫なのか?」という冷ややかなつぶやき。そんな中でロッテ金田正一監督だけがパチパチと拍手を送った。

 「クラウンが引き当てて万々歳や。もし、巨人やったら大変や。パ・リーグの灯は消えてしまうとこやで」

 あっぱれ、クラウン!

(敬称略)

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