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【ビブリオエッセー】頑張る人たちのいい顏、いい言葉 「絶滅危惧個人商店」井上理津子(筑摩書房)

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 著者の井上さんは女子大時代の同級生で同じ文芸部の仲間だった。年賀状でこの本を上梓したことは知っていたが、その後、産経書房で紹介されていたので、これは読まねばと思ったのである。

 紹介されているのは都内17店と横浜の1店。「絶滅危惧」とあったのでもっと寂れた商店ばかりと思っていたが、どのお店も活気がある。

 中でも気になったのが港区芝の魚屋さんだ。女将さんは「御歳八十オーバー」だが、今日も元気に毎朝5時すぎには自宅兼店舗から浅草線大門駅まで走っている。地下鉄とバスを乗り継ぎ、豊洲市場まで仕入れに行くのだ。その間、ずっと立ちっぱなし。

 ガタイのいいお兄さんやお姉さんの中へ、ひときわ小柄な女将さんはぐいぐい分け入っていく。「仕入れに行くのに、年は関係ないじゃない」と威勢がいい。お店をたった一人で切り盛りし、1日13時間半、腰かける暇もない。

 わが身を省みれば、主人が亡くなって以来、余生とばかり自分の老後だけを心配しながら、毎日を漫然と過ごしているのが情けない。

 豆腐店に青果店、書店に玩具店に駄菓子屋さん…ここに出てくるお店は戦後の混乱期を生き抜き、今に至っている。いつの間にか私の近くにも商店街はなくなり、あの店もこの店も姿を消した。著者は「さみしいなあ」と思ったのが企画のきっかけだと書いている。大学時代から好奇心いっぱいだった井上さんの、優しい目線が印象的なルポだ。

 そして今、個人商店は新型コロナという災害に見舞われ、非常事態を耐え抜いている。後継ぎのいないお店も多いだろう。なんとか乗り越えてほしいと祈りながら、この本からは、頑張る人たちに元気をもらった。

 大阪府豊中市 永田和美 64

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