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児童虐待~連鎖の軛 支援の第一人者「いい親にならなくていい」

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森田ゆりさん
森田ゆりさん

 令和元年度の児童相談所(児相)の虐待対応件数は、過去最多の約19・3万件に上った。児相の家庭介入は子供を守ることはもちろん、親が支援につながるきっかけにもなるが、家庭を支える社会の受け皿は限られ、虐待が繰り返されるケースは少なくない。根本的な対応策はあるのか。日米で約40年間、DV・虐待防止に取り組む第一人者の森田ゆりさんに聞いた。(聞き手 西山瑞穂)

 「虐待とは、人として尊重されなかった痛みや悲しみを持つ親が、そのトラウマに向き合う機会がないまま、怒りの形で子供に爆発させる行動だと考える。

 夫婦間の暴力、親族間の軋轢(あつれき)、過去のトラウマ、精神疾患といった多重なストレスを抱える親が、孤立して子育てをしている中で虐待行動は発生する。しかし、どんな理由があるにせよ、虐待はストップさせなければならない。そのために必要なのは、親の回復支援だ」

 「米国の心理学者、カフマンとジグラーによる1980年代の有名な研究によれば、虐待を受けて育った人のうち、子供を虐待する人は33%。残りの67%には自殺や自傷行為、無防備な性的関係など『自分を虐待する』人が含まれてはいるものの、子供は虐待しない。

 つまり、『虐待は世代間で連鎖する』というのは誤解を生む安易な表現で、その思い込みで苦しんでいる人も多い。実際には、早い時期に寄り添って話を聞いてくれる人がいれば、連鎖はしない。さらに重要なことは、連鎖が起きてしまった後でも回復は可能なのだ。助言や指導では重篤な虐待行動をとめることはできないが、治療的アプローチには大きな効果がある」

 「平成12年の児童虐待防止法制定時には国会議員に研修を行い、欧米のように、虐待をした親に裁判所が回復プログラムの受講を命令する制度が必要だと訴えてきたが、実現しなかった。当時はそもそも、そうしたプログラムが国内にほぼなかったからだ。そこで翌年、欧米とは違う日本の風土に合わせた心理療法『MY TREEペアレンツ・プログラム』を開発し、実践を積み重ねてきた。

 プログラムの目的は『いい親』になってもらうことではない。最大10人のグループで、それぞれが自分に正直に自分を語り、癒やされながら、子供との関係を変えていくことを目指している。心理士や保健師、看護師、大学教員など、虐待対応の経験が豊富な約60人が関西、関東、九州の複数の児相や民間団体などで実践し、これまでに虐待行動をとめることができた修了生は1200人を超える」

 「この20年間、エビデンスを意識し、学会や論文で成果を発信してきた。しかし、全国レベルでは、公的な予算をつけて後押しする動きにつながっておらず、プログラムを受けていれば救えたかもしれない親や子供が多くいることに、じくじたる思いがある。

 平成30年に東京都目黒区で船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時(5)=が虐待死した事件もその一つ。元夫の暴行を結果的に容認したなどとして、保護責任者遺棄致死罪で懲役8年が確定し、現在服役中の母親からは昨年、『私がこのようなプログラムに出会えていたら、結愛が死ぬことはなかった』というメッセージとともに、出版した手記の印税の一部が寄付された。これを『結愛ちゃん基金』とし、刑務所でのプログラム提供も目指している。

 プログラムは、児相の予算や助成金などで無償で実施しているが、毎年予算が確保されるかは定かでなく、実践者の熱意で支えられている。虐待に至った父親らのグループはまだ一度も成立していない。また、保護された中には、親が変わることを望みながら、『親に見捨てられた』と傷つき続けている子供もいる。こうした現状を改めるには、やはり、プログラムは任意ではなく、裁判所の受講命令の制度化が必須と考える」

 「多くの親は最初、虐待を子供のせいにする。しかし、抱えきれないストレスを負った親が自分を見つめるゆとりを持つと、子供も大きく変わる。自分を変えたいと強く願う親は、必ず虐待行動をとめることができるのだ」

 【もりた・ゆり】 民間研修機関「エンパワメント・センター」主宰。元カリフォルニア大主任研究員。日米で約40年間、DVや虐待の問題に携わり、回復プログラムの開発や専門職に向けた研修を続ける。「虐待・親にもケアを」「トラウマと共に生きる」(いずれも築地書館)など著書多数。

 プログラムの詳細は、一般社団法人「MY TREE」のホームページ(HP)

。プログラムの受講希望者は、各地の実施グループや、HPの問い合わせフォームで相談を受け付けている。

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