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【新防災-西日本豪雨2年】(中)医療現場、感染対策どこまで

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 3日から4日にかけ熊本県や鹿児島県を襲った猛烈な雨。各地で土砂災害や浸水、河川氾濫が発生し、人的被害の情報も次々寄せられているが、被災地では人々の命を守るべき医療施設もまた、厳しい環境下に置かれることになる。

 それは、2年前も同じだった。

 平成30年7月7日早朝。前夜から激しく降り続いた雨は濁流へと姿を変え、岡山県倉敷市真備町(まびちょう)唯一の総合病院「まび記念病院」に迫っていた。

 「大変なことになった」。午前5時ごろ病院に駆けつけた村上和春理事長(68)は一部の機材を2階に退避させ、入院患者や職員らの安全は確保したが、ほどなくして院内は浸水。電気や水道も相次いで不通となった。

 通信環境も悪く、外部との連絡も十分にできない中、自衛隊のボートで救助された地元住民が次々と運び込まれた。「生後数カ月の赤ん坊もいた。何とか命を守ることに必死だった」。被害状況や入院患者の状態を確認しながら一夜を明かした。

 病院に救いの手が届いたのは翌8日。稲葉基高医師(41)ら被災者支援活動を行うNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」のメンバーが水陸両用車で病院の1階部分に突入した。

 雨雲は去り、強い日差しが降り注いでいた。注射器が浮かぶ泥水に胸までつかって院内に入り、村上理事長らと合流した稲葉氏は、患者の救出に向け関係機関との調整役を担った。暑さに体力を奪われながら、医師や看護師が患者の持病や症状を確認しながら運び出していく。地元住民も含めて一人の犠牲も出さずに乗り切ったのは午後8時ごろのこと。その後も1カ月ほど現地で活動を続けた。

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 真備での経験を積んだ稲葉氏は今春、新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した施設の支援に入った。

 「目に見えない怖さがあるし、やったことがないという難しさもある」。施設や病院でクラスターが発生すれば、スタッフが出勤できなくなり、人手不足に陥る一方、行政機関などとの連携事項は増える。稲葉氏は災害での経験も生かしながら、サポートを続けた。

 災害と新型コロナ。その両方の現場を知る稲葉氏は「極限の状態になる災害時に、平時のような感染防止策を取ることはできない」と率直な胸の内を明かした上で、感染対策は「できることとできないことの線を引かなければならないだろう」との見方を示す。

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 「目の前にいるけが人に、病院に入らないでくれとはいえない」と語るのは、長年、災害医療の第一線に立ち続けてきた大阪府済生会千里病院の顧問、甲斐達朗医師(69)だ。

 災害の中で、特にけが人が多いのが地震。甲斐氏も阪神大震災では、兵庫県芦屋市の病院で運び込まれるけが人の対応に追われた。

 災害時の病院は混乱を極め、消毒や検温をどこまで徹底できるかわからない。コロナ患者が多い病院が被災したり、自宅待機している感染者や濃厚接触者が負傷したりしたらどうするのか。搬送先は感染の有無や負傷の程度で変える必要があるが、それによって外部から来た患者からクラスターが発生するリスクは否定できない。

 無症状、無自覚の感染者を避けることも難しい。甲斐氏は「無症状の外来患者から感染が広がるのは、日常生活での感染リスクと同じだ。容認せざるを得ない」と話す。

 災害時の病院の対応については現在、明確なガイドラインや対応指針が定まっていない。今回の九州での豪雨は、その状況を踏まえて対処せざるを得ない状況となっている。東京大の片田敏孝特任教授(災害社会工学)は「持病がある入院患者と災害による急患の接触を避ける、感染の疑いがある人だけを診療するエリアを設けるなど、感染拡大を最小限にとどめることが必要だ」と指摘する。

 病院が被災し患者を搬送する際に備え、各病院の受け入れ可能な病床数や感染者の情報などを適切に共有することも必要になる。「あらゆる事態を想定し国や自治体が指針を示すべきだ。コロナ禍で医療現場は疲弊しており、対策のための支援も必要だ」。片田氏はこう訴えた。(鈴木俊輔)

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