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【新防災-西日本豪雨2年】(上)避難所襲う感染リスク 「密」回避へ新たな様式模索

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 日常をのみ込んだ雨が嘘だったかと思わせるような強い日差しが降り注いでいた。平成30年7月、岡山県倉敷市。街を覆った泥は粉塵(ふんじん)へと姿を変え、積み上がった災害ごみが異臭を放つ。劣悪な環境で片付けに汗を流した人々が夜を過ごす避難所は、感染症のリスクと隣り合わせだった。

 「密な状態だったが、保健師が避難所を見守り、トイレの衛生管理、手洗いの徹底などの指導を行い、感染症の拡大を防いだ」。今年6月、伊東香織市長は当時をこう振り返った。

 災害時の避難所は、感染症との闘いの場でもある。阪神大震災ではインフルエンザが流行するなどした結果、兵庫県で919人が関連死と認定された。東日本大震災ではノロウイルス感染の拡大が問題になった。避難場所確保に重きが置かれ、保健衛生環境の改善は後回しだったことが大きな理由だった。

 そんな激烈な戦場に新型コロナウイルスという新たな感染症が投入された。ワクチンも、特効薬もないこの病禍は、災害時の感染症対策の局面を完全に変えようとしている。

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 「これまでの避難所では感染拡大は防げない」。平成28年の熊本地震の被災地の一つ、熊本県益城町(ましきまち)の岩本武継危機管理課長は今、強い危機感を抱いている。

 きっかけは、今年5月に町総合体育館で実施した新型コロナ対策を想定した避難訓練だった。

 避難者の密集を避け、健康な人と、発熱者らのスペースを別に確保し、動線も分ける-。これが、内閣府が4月に各自治体に通知した、感染症流行時の新たな避難所の姿だ。

 町は通知に基づき、段ボール製の間仕切り(高さ1・4メートル)を2メートル間隔で設置。すると、被災当時1353人を収容した場所は400人ほどしか収容できないことが判明した。

 対策の実施には、予想以上に人手も時間もかかることも分かった。「余裕があるときは可能でも、被災直後や避難者が増えたときに対応できるか。とにかく人手が足りない」

 4年前、総務課防災係長として最前線で対応した岩本課長は、通知と現実とのギャップに頭を悩ませる。

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 対策を考えようにも、住民はこれまでのような避難行動をとるのだろうか。

 4月に東京大の松尾一郎客員教授(防災行動学)らが全国5261人を対象にインターネットで行った調査では、7割以上が「感染症流行が避難行動に影響する」と回答。さらに、どんな影響があるか複数回答で尋ねたところ、2割超が「指定避難所に行かない」としたほか、1割超が「災害リスクがあっても自宅にとどまる」と答えた。

 避難による「3密」(密閉、密集、密接)回避については、国が車中泊やホテルなどへの「分散避難」を提示した。しかし、これについても、過去に各指定避難所などで実施されてきた物資配給、情報伝達・共有、健康管理にどう対応するのかといった新たな課題が浮上している。

 災害の調査研究にあたる「人と防災未来センター」(神戸市)の高岡誠子研究員は、「感染を恐れ、避難をためらう人を出してはならない。日ごろから、避難所の感染症対策や、情報伝達法などを周知することが重要だ」と指摘する。

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 一方で、こんな視点もある。

 「(避難所は)被災者の尊厳を守る観点から、十分な生活環境が確保されているとは言い難い」。新型コロナ発生前の昨年、内閣府がまとめた「避難所の役割についての調査検討報告書」の冒頭の一文だ。

 床での雑魚寝、保たれないプライバシー、足りないトイレ、冷たい食事…避難所の劣悪な生活環境は災害が起こるたびに問題視されてきた。今回、コロナ対策として国が通知した避難所の間仕切りも、以前から「活用を進めるべきだ」とされていたものだ。

 これまで解決できなかった避難所の問題が、新型コロナという“外圧”で前進する可能性があるとみる関係者は少なくない。

 その一人、益城町の岩本課長はいう。「本来、避難所の健康管理は必要なことだし、消毒薬もあって当たり前。コロナの感染対策にしっかり向き合うことで、本来あるべき避難所の姿に近づくのではないか」(小泉一敏、石川有紀)

 常に自然災害の脅威にさらされてきた日本。今後は新型コロナという新たな課題も背負いながら命を守らねばならない。西日本豪雨が発生して2年。新たな防災のあり方を模索する。

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