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【理研が語る】ミクロとマクロの世界をつなぐ 太田亘俊

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微細加工で作製したガラス流路にミドリムシをとらえた様子(スケールバーの「100μm」は1ミリの10分の1)
微細加工で作製したガラス流路にミドリムシをとらえた様子(スケールバーの「100μm」は1ミリの10分の1)
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 器用な人がサッと精密な作業を行う様子を見ると、素直に感嘆する。大学院生のとき、とても小さな臓器の切片から、さらに小さな目的の部位だけを手作業で取り出してくる様子を見る機会に恵まれたが、私にはまねできそうもないと真っ先に思った。同時に、この作業をより簡単に行う方法はないのだろうか、とも考えていた。

 人間のすごいところは道具や方法を柔軟に生み出すところにある、と私は思っている。しかも、ただ道具や方法を生み出すだけでなく、予想外の使い方をする者が現れるという点も面白い。例えば、私は大学院生のときに「キャピラリー電気泳動」という手法を使って研究していた。キャピラリー電気泳動は、髪の毛よりも細いガラス管に高電圧をかけて異なる種類の分子を分離する手法だ。私は当時、この手法を使い、神経細胞に含まれる特殊なアミノ酸を探していた。

 しかし、このキャピラリー電気泳動に予想外の使い方が生まれた。もともとは異種分子の分離を目的として生み出された手法が、時を経て、同一種の分子を濃縮する手法として使われるようになったのだ。濃縮法が洗練された結果、以前にも増して、この手法は微量試料への使い勝手がよくなった。そして私も神経細胞のアミノ酸分析を行う際に、この手法に幾度となく助けられた。

 いま私は、分子よりも大きい、細胞などを対象とする研究に向き合う機会が増えた。細胞は分子に比べて大きいとはいえ、とても小さいので一つ一つの細胞を人の手で直接取り扱うことは簡単ではない。そこで、マクロ(人間の大きさ)の世界で活動する私たちが、ミクロ(細胞の大きさ)の世界に触れやすくなるための装置が必要となってくる。その装置を生み出すために欠かせない技術の一つが、微細加工技術だ。

理研の太田亘俊氏
理研の太田亘俊氏
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 微細加工技術は半導体製造にも使われているので、普段から意識することはまれだが、身近な技術といえる。この技術は、細胞より小さな形状を作ることができるため、細胞の取り扱いに適したさまざまな装置を生み出すことができる。材料も多様で、プラスチックやシリコンが人気のある材料だが、私は頑丈で透明度の高いガラスを加工することが多い。頑丈な素材なので加工が大変な時もあるが、ガラスの透明さが細胞を見やすくし、細胞の取り扱いを行う上でもプラスに働く。

 ガラス製であることが思わぬ結果を生み、驚いたこともあった。細胞を育てることを目的として作った装置が、ガラスの頑丈さによって、細胞の破砕にも使うことができたときだ。これは全く意図していなかった結果だったため、私はその意外性に面白さを感じた。私はいま、ミクロの世界で役立つ装置を作っているが、その装置たちが思いもよらない形でマクロの世界に貢献してくれたら、とてもうれしく思う。

 太田亘俊(おおた・のぶとし) 理研生命機能科学研究センター(BDR)集積バイオデバイス研究チーム研究員。イリノイ大学(米国)大学院化学研究科で学位取得後、大阪大学産学連携本部での研究などを経て、2018年4月から現職。趣味はバドミントン。

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