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【一聞百見】週20万人…阪急の人気「英国フェア」伝説の仕掛け人 阪急うめだ本店ディビジョンマネージャー・桑原渉さん(52)

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「すべての基本は英国フェアにあります」と話す桑原さん =大阪市北区の阪急うめだ本店、祝祭広場(寺口純平撮影)
「すべての基本は英国フェアにあります」と話す桑原さん =大阪市北区の阪急うめだ本店、祝祭広場(寺口純平撮影)
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 大阪・キタを代表する百貨店として親しまれる阪急うめだ本店(大阪市北区)。その“顔”といえば、毎年秋に開かれる恒例の「英国フェア」だ。今年で52回目を迎える百貨店催事の草分けであり、阪急といえば英国フェア、というイメージも定着している。規模もクオリティーも他の追随を許さない名物イベントの一切を仕切ってきたのが、凄腕ディレクターで知られる桑原渉さん(52)だ。1週間の期間中、約20万人という集客を誇る“魔法”の仕掛け人に話を聞いた。(聞き手 編集委員・山上直子)

■本物志向 催場を英国に

 「なんといっても英国フェアです。イタリアでもフランスでもなく、英国。うちではダントツの人気ですが、ほか(の百貨店)では逆なんじゃないでしょうか」と笑う桑原さん。阪急の「英国フェア」が始まったのは昭和45年。大阪で万国博覧会が開かれた年の秋だった。前年に英エリザベス女王の妹、故マーガレット王女が東京の数寄屋橋阪急(当時)に来店されたのがきっかけだったという。以来、半世紀近く。桑原さんは平成16(2004)年から担当し、催事のモデルケースともいうべき存在に育て上げた。

 衣食住の物産を販売するのはもちろんだが、常連客が楽しみに訪れ、長蛇の列ができて話題になるのが、英国から招く本物のティールームだ。オーナーや職人らを招聘(しょうへい)し、催場をまるごと英国にしてしまう。「そのノウハウがうちにはあります。イコール、それは私のノウハウということなんですが」とニヤリ。特にこだわっているのが紅茶と焼き菓子のスコーンで「当初は水以外は全部(小麦粉など)輸入しました」という徹底ぶりが客の本物志向にマッチした。それを他の担当者に伝授し、いまやハワイフェア、ニューヨークフェア、北欧フェアと人気の催事は数知れず。「でも全ての基本は英国フェアにある」という言葉の中には、百貨店のいわゆる海外フェアの元祖という強い自負がのぞく。

「英国フェア」で最も大事なティールームの主役、紅茶とスコーン
「英国フェア」で最も大事なティールームの主役、紅茶とスコーン
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 そんな桑原さんも昨年、大きな試練に直面した。一昨年はちょうど50回の節目で、全力投球した結果、過去最高の売り上げを記録したからだ。普通はそんな翌年は数字は落ちる。「一か八かで視点を変え、ファンタジーをテーマに。ハリー・ポッターやピーターラビットなど、英国はファンタジーの宝庫ですから」。そこからが桑原さんならでは。ただキャラクター商品を並べるだけでは目新しさがない。日本にない、新しい要素が必要だ。張り巡らせたアンテナにひっかかっていたのが映画「ハリー・ポッター」などのグラフィックデザインを手がけた2人組のブランド「ハウス・オブ・ミナリマ」だった。

昨年の「英国フェア」で開かれたトークショーで舞台裏を語る桑原渉さん(左) =大阪市北区の阪急うめだ本店
昨年の「英国フェア」で開かれたトークショーで舞台裏を語る桑原渉さん(左) =大阪市北区の阪急うめだ本店
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 「結果的にあの世界観が味わえるとファンが大挙してきてくださった」。思い切ったチャレンジは思わぬ結果をももたらす。訪れた客はそれまでの客層とは異なる若者が多く、英国フェアは新規顧客の開拓に成功したのである。

 「会場の階段で若いカップルが座ってフィッシュ&チップス(英国のファストフード)を食べていたんです。そんな光景、いままで見たことがなかった。本当にうれしかったです」

 後日談がある。今年4月、その「ミナリマ」が大阪・堀江に期間限定ショップをオープンした。東京ではなく大阪だったのは、もちろん昨年の「英国フェア」があったからだ。モノだけでなく文化や流行も紹介する、英国フェアの面目躍如だろう。

■英国の味に自信

 「英国フェア」の仕掛け人として業界では知らない人はいない桑原渉さんだが、「実は英国フェアだけは担当したくないと思っていました」と苦笑する。

 父が転勤族で引っ越しを繰り返し、小学6年から大阪で育った。「子供のころ転校するのがいやでいやでたまらなかったことでした。そうだ、転勤のない会社がいいと」。当時も今も百貨店は流通業の花形だ。大阪に本社がある阪急百貨店に入社、千里阪急で営業や販売促進を経験する。その頃から「英国フェア」の担当者がたいへんなプレッシャーの中で仕事をしているのを間近で見てきた。「伝統と格式がある英国フェア。担当は絶対したくないなあと思っていたら…そうなるんですね」

「本物にこそ価値がある」と話す桑原さん=大阪市北区(寺口純平撮影)
「本物にこそ価値がある」と話す桑原さん=大阪市北区(寺口純平撮影)
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 平成15年に催事担当の部署に異動し、翌年から英国フェア担当に。特にヨーロッパ文化に興味があるわけでも、英国が好きなわけでもなかった。1年がかりで準備をする大きなイベントなのに、基本的に担当者は1人なのだという。失敗はありましたか?

 「数知れずあります。たとえば、最初のころですが、英国らしさ、リアリティーをもっと出したくて招聘(しょうへい)者の人数を増やそうと思ったんです。そこで、飛行機や宿泊先のホテルのランクを落とした。すると、前年も来ていた人がいて、その待遇の差に…。そりゃ、怒りますよね。実はそこまで気が回っていなかったのが実情でした」。それでも招いた人数は2~3倍になり、期間中、会場のあちこちに英国人がいるという本場の雰囲気は得難いものだった。「いろいろな意味でこの年は私にとってのスタートラインだったと思います」

 英国の「食」をフェアの強みにしたのも桑原さんだ。もともと英国料理の評価は高くなく心配する声もあった。でも、桑原さんには現地で自分で確かめた味に自信があった。英国ナンバーワンの「フィッシュ&チップス」の店を招くと、大盛況になった。

 ひょうたんから駒の出来事も。「紅茶はおいしいが、現地で食べたときにもうひとつかなあと思っていたスコーンが、日本で焼き上げるとすごくおいしくなったんです。英国の小麦粉と大阪の水がね、合うんですよ。すごいでしょ」

英国フェアで人気の「フィッシュ&チップス」
英国フェアで人気の「フィッシュ&チップス」
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■売り物は英国文化そのもの

 15年以上にわたって一人で「英国フェア」を担当してきた桑原渉さんだが、近年は、その活躍にあこがれて入社し催事担当を希望する若手社員も多いという。「人事部に呼ばれて就活の学生さんたちに話をする機会も増えました。若い子たちが目を輝かせて私の話を聞いてくれるのは、本当にうれしいことです」。昨年からは英国出張に若手を同行させ、バトンタッチを進めている。

 今年も10月9~15日に「英国フェア」が開かれる。テーマは「ラブリーロンドン」。「英国人は天気がいいねとか、おいしいねとか、すべてラブリーと表現するんです。今年は花にあふれたラブリーなロンドンをぜひ祝祭広場で楽しんでほしいと思います」

 そんな桑原さんには一つの芯がある。ただ、モノを売る物産展であってはならないということだ。「もちろん物産は売っていますが、その上にあるのがリアルな英国です。現地に行かずして本物が味わえるからお客さまが来てくださる。そしてスコーンや紅茶を作って提供するのも英国から招いた人たちです。嘘偽りのない英国がここにあることが大切なんです」

 モノだけを売るのではなく、桑原さんはライフスタイルも売る。さらにいえば、英国文化そのものを売っているのだ。

 最近うれしいことがあった。「英国のライフスタイルを従来の催事の枠を超えた新しい切り口で毎年日本の消費者に広く紹介してきた」として、英国のエリザベス女王から「名誉大英褒章」を叙勲されたのである。「とても名誉なこと。一人で担当してきたのは確かですが、協力してくれる取引先様や社内のすべての人の力があってこそ。それを忘れてはいけないと思っています」

 平成24年、阪急うめだ本店は全面建て替え工事を終えオープンした。9階の祝祭広場には大階段が作られた。催事の舞台である。「そもそも祝祭広場のコンセプトは英国フェアにある。モノだけを売る時代は終わり、モノとコトを最初に一体化させたのは英国フェアです。その自負はあります」

「次に進むためのアイデアを常に考えています」と話す桑原渉さん =大阪市北区の阪急うめだ本店前(寺口純平撮影)
「次に進むためのアイデアを常に考えています」と話す桑原渉さん =大阪市北区の阪急うめだ本店前(寺口純平撮影)
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 近年、モノが売れない時代といわれるが、祝祭広場に足を運ぶと、買い物を楽しむ人であふれかえっている。いったい何が違うのか。桑原さんはいう。「祝祭広場という環境を生かすも殺すも腕次第。いずれお客さまに飽きられるときがくるかもしれません。でも、そのときこそが勝負。次に進むために、必要な新しいアイデアを常に考えています」。消費者の半歩先を見定める視点が必要なのだ。

     ◇

【プロフィル】桑原渉(くわはら・わたる) 昭和42年徳島県生まれ。小学6年から大阪で育つ。平成元(1989)年京都産業大卒、当時の阪急百貨店に入社。平成16年から英国フェアを担当。30年からマーケティング1部、9階企画・運営部ディビジョンマネージャーに。

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