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【西日本豪雨1年】ダム放流、水没した相撲の町は今

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1階アリーナのコンクリートが露出した現状の乙亥会館。富本武夫館長が立つ2階の観客席の上まで水没した=愛媛県西予市野村町
1階アリーナのコンクリートが露出した現状の乙亥会館。富本武夫館長が立つ2階の観客席の上まで水没した=愛媛県西予市野村町

 携帯電話の向こうから聞こえてきたのは「ボコボコ…」という水の音。電話口の施設職員は水に流されていた。1年前の西日本豪雨で、「相撲の町」として知られる愛媛県西予市野村町では、毎年相撲大会が行われる中心施設「乙亥(おとい)会館」が、近くを流れる肱川(ひじかわ)の氾濫で水没した。(村上栄一)

■懸命の救助

 館長の富本武夫さん(68)は7月7日午前5時10分ごろ、近くの野村ダムが緊急放流すると連絡を受け、会館へ急いだ。会館は野村ダムの下流の肱川沿いにある。

 「建物に入ったらすぐ火災報知機が鳴った。地階にある機械が水で壊れたのだろうと思った」

 地階には温泉施設があり、そこの男性職員1人が流されたと聞いた。あわてて携帯電話を鳴らすと、「ボコボコと水の音がするだけ。ずっと呼びかけていたら、数分後に叫び声が聞こえた。どこにいるのかと聞くと、1階のアリーナだと」。

 駆けつけると、職員は壁に押しつけられるように胸まで水につかっていた。2階の手すりから身を乗り出して手を差し出したが、職員は腕が上がらないという。ベルトをつかんだが切れた。近くにあったロープを渡して腰に巻き付けるよう指示。もう一方を手すりにくくりつけ、消防に救助を要請。4、5人が駆けつけ、無事救助された。

 間もなく富本さんも乗用車で会館から逃げた。高台で振り向くと車が2台転覆していた。会館は2階の観客席まで水没していた。

 それから3カ月は、泥との戦いだった。連日、ボランティアが泥かきをしてくれた。「相撲関係者が一度に100人来てくれたり、福井県や静岡県の相撲選手も来てくれたりした」

 会館は毎年秋、プロ・アマが集い相撲を取る「乙亥大相撲」が行われる。同町出身の大相撲の片男波親方(元関脇玉春日)も駆けつけ、子供から大人までが盛り上がる町一番のイベントだが、昨年は開催場所を変更せざるを得なかった。

 今年も会館は使えない。 それでも富本さんは「乙亥大相撲は江戸時代に町を襲った大火をきっかけに火災を封じようと始まった。時間はかかるが、今度は水害を乗り越えますよ」。

■不信感いまも

 会館には地域おこし活動を行う「NPO法人シルミルのむら」の事務所もあったが、同じく水没した。

 法人副理事長の山口聡子さん(42)は自宅が床上浸水し、町内の仮設住宅で暮らす中、災害復旧支援に奔走。昨年9月に「乙亥大相撲を継続させたい」とクラウドファンディングで支援を呼びかけ、200万円近くを集めた。

 「この1年はあっという間だった」と話す山口さん。「住民は明るくみえるが、本当はダムへの不信感は消えていない。ここに住み続けたいけれど家を再建できない人もいる。町を出ていった人もいる」と復興の難しさを打ち明けた。

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