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【虎番疾風録第2章】(51)「虎番」襲名

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 ドラフト会議で次々と選手たちの“人生”が決まっていく。浪商の牛島は中日の単独1位指名。ドカベン・香川は南海からの2位指名。「指名されただけでうれしいです。捕手として長くやれる選手になりたい」と声を弾ませた。そして、その日の夜、筆者の人生も決まった。11月27日の深夜、編集局で来季のプロ野球の新しい担当(12月1日付)が発表されたのである。

 〈きっと南海やろ〉と思っていた。香川とはにぎりずしを60貫も食べられた仲。ところが、部長の口から出た言葉は「ええ、来季の阪神の担当は三浦、左方、藤原。それから田所、お前や」。〈えっ、いま、田所って聞こえたけど…〉一瞬、自分の耳を疑った。きっとポカンとした顔をしていたのだろう。「聞こえたんか、返事せんかい」と叱られ、大声で「ありがとうございます!」と応えた。目の前がパーッと明るくなり、フワフワした気持ち。〈ドカベンも岡田も、きっとこんな気持ちになったんやろなぁ〉と体が熱くなった。

 1年生記者が「虎番」に-。当時としては異例中の異例。サンケイスポーツ始まって以来の大抜擢(ばってき)に身が引き締まった。もちろん筆者が優秀だったからではない。「江川騒動」がきっかけでスポーツ紙の購読者が急増、紙面も阪神の記事の量も増えたからだ。そして、この年、初の本塁打王に輝いた掛布と同学年で、岡田とも年齢が近いことが一番の理由だったようだ。〈大ちゃん(朝潮)が背中を押してくれたおかげや〉ちょっぴり感謝した。

 12月1日、さっそく「虎番」としての初仕事。東京・内幸町の「帝国ホテル」で行われた掛布の結婚式の取材である。

 招待客700人の大披露宴。球界からは長嶋、王をはじめ田淵、江夏、山本浩、星野らが招かれ、横綱若乃花、歌手森進一…。手当たり次第に“お祝いの言葉”を集めた。それが終わると新婦・安紀子さんの“お色直し”の取材。

 神前でのお式では唐織物のうちかけ「王城の宴」。披露宴では金と黒地のうちかけに、花と松を華麗にあしらった紋ちりめん「虹のかけ橋」。組みひもをあしらった振り袖「花園」。そして最後は14世紀風のイブニングドレス「バラの精」。どの姿の安紀子さんも、うっとりと見とれてしまうほどのかわいさだった。

 〈虎番になってよかった〉心の底からそう思った。

=敬称略(田所龍一)

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