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【正木利和のスポカル】ビジネスエリートはアートを学べ

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「名画の読み方」や「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」など、「ビジネス」が「アート」に接近する本が目立ち始めている
「名画の読み方」や「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」など、「ビジネス」が「アート」に接近する本が目立ち始めている

 ちょっと気になっているのが、近ごろの「ビジネス」と「アート」の蜜月である。

 《論理的思考・MBAでは戦えない…》

 《世界のビジネスエリートが身につける教養》

 こんなキャッチコピーが表紙や帯にしるされたハウツー本が、書店に並ぶようになってきた。

 「ビジネス」「MBA(経営学修士)」というからには、平社員を対象にしているというわけではないのだろう。ターゲットは経営者あるいはその候補者たちであるに違いない。

 もちろん、いまは平社員でも、将来は会社経営の一翼を担うんだ、という強い希望を抱いている人も、有資格者といっていいのだろうが…。

 これはいったいどういうわけだろう。

 こうした本は、ビジネス戦士たちに、「アート」をどのように使え、といっているのだろうか。

   □    □

 一昨年の春、知り合いのギャラリーオーナーから連絡があった。米国での美術フェアでブースを借りて、ある現代美術作家の作品を展示していたところ、いま話題の人、日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン氏(64)が、その作家の作品を見にやってきたというのである。

 「買ってはいかなかったけど、関心を示してくれた。彼は熱心にほかのブースも回っていた」

 そのころ、ZOZOの創業者、前澤友作氏(43)がサザビーズでジャン=ミシェル・バスキア(1960~88年)の作品を120億円超の高額で落札するというニュースも舞い込んできた。

 一流経営者の心をひきつけるものとしての「アート」が気になりはじめたころ、ほぼ時を同じくして「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」(光文社新書)というタイトルで、著作家、山口周氏の本が出版された。

 その冒頭には、自動車のフォードやクレジット会社のビザといったグローバル企業の幹部たちが英国の「ロイヤルカレッジオブアート」という大学院大学でエグゼクティブトレーニングを積んでいる、ということがしるされていた。

 山口氏は、世界の市場が「自己実現的消費」にむかいつつあるいま、これからの経営に必要なものは「美意識」であると説く。

 「論理」と「理性」に依存しすぎると、意思決定が膠着(こうちゃく)し、判断に遅れを生ずる。また、「差別化」への恐れを生じることになる。

 だから、これからの経営者は(1)従業員や取引先の心をつかむ「ビジョン」(2)倫理などに基づき自分たちの行動を律する「行動規範」(3)自社の強み弱みに整合する「経営戦略」(4)顧客を魅了するコミュニケーションなどの「表現」、といったものにある「美意識」を価値基準に、それに照らして素早く善悪を判断していくことが要求されるようになるだろう、と指摘する。

 簡単にいえば、「説明」よりも「直感」が重要、ということであろう。

 そして、その美意識を鍛える手段こそアートに親しむことだ、というのだ。

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 かつて日本のすぐれた経営者たちには美術への造詣が深い人物が多かった。茶の湯を介した「茶会」という日本独特のサロンに有力な政治家や財界人が集まり、一服しながら語り合う合間に、自慢の美術品を見せ合うという仕組みができあがっていたからだ。

 そうした財界人には、いまの横浜銀行の前身、横浜興信銀行頭取の原三渓(1868~1939年)をはじめ、三井財閥総帥の益田鈍翁(1848~1938年)、電力王と呼ばれた松永耳庵(1875~1971年)、阪急グループを築いた小林逸翁(1873~1953年)らそうそうたる人物が名を連ねる。

 彼らは一流の目利きでもあり、その所蔵品には、のちに国宝や重文になるような日本美術の名品も数多くあった。当時の茶会は、彼らが趣味の善しあしを競いあう真剣勝負の場でもあったわけだ。

 いまではゴルフにとってかわられた茶会ではあるが、昭和のはじめまでそれが一流の財界人の会合の場として尊ばれたのは、数字でははかれない教養や感性といったものが、そのころのリーダーたちに求められていたからなのであろう。

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 しかし、戦後財界のリーダーたちは、ただがむしゃらに数字を追い求める。その結果、日本は経済大国よ呼ばれるようになったが、時を経て成熟社会をむかえたいま、数字=論理だけによりかかることの危うさが露呈しはじめた。

 このため、素早く正しい判断をするための直感力=美しいか否かを感じ取ることができる能力が、リーダーたちにも再び求められるようになってきた。

 そのことに気づいたグローバル企業は、いち早く幹部たちに「アート」の教育をはじめたということなのであろう。

 しかし、「アート」など、やみくもに学ぶことはできない。そこで、「名画の読み方 世界のビジネスエリートが身につける教養」(木村泰司著・ダイヤモンド社)といった手引書が登場することになる。ちかごろ出版界に登場してきたビジネスエリートのためのアート本には、そんな背景があるのではないか。

 「成功する経営者はゴルフ場より美術館」

 ビジネスの世界ではいまや、こんなタイトルの本が出てきてもおかしくないほどのトレンドが生まれつつある、ということに違いない。

 【プロフィル】正木利和(まさき・としかず) 産経新聞文化部編集委員。大阪新聞から産経新聞社会部、運動部、部長を経て現職。運動部歴25年目となった秋、念願かなって美術担当に。好きなものは以下の通り。富岡鉄斎の絵、ジャランスリワヤの靴、よく墨のおりる端渓硯(たんけいけん)、勇敢なボクサー、寡黙な長距離走者。当コラムはスポーツとカルチャーの話題を中心にすることからネーミング。おみしりおきを。 

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