PR

自宅戻ったがコミュニティ消え… 西日本豪雨半年、広島・呉

PR

修繕が進む井田さんの自宅。向かいの家3軒はすべて取り壊しが決まり、この部屋から見える景色も一変する予定だ=呉市天応宮町(山本尚美撮影)
修繕が進む井田さんの自宅。向かいの家3軒はすべて取り壊しが決まり、この部屋から見える景色も一変する予定だ=呉市天応宮町(山本尚美撮影)

 昨年7月の西日本豪雨災害で12人の死者を出した広島県呉市天応(てんのう)地区。災害から半年となり、40世帯79人が暮らす同地区内の仮設住宅から初めて、一組の夫婦が修繕を終えた自宅に戻ることが決まった。だが自宅の周辺63世帯のうち約半数は家屋取り壊しなどで地元を離れる。地域コミュニティーが崩壊したわが家への帰宅を前に、夫婦は複雑な表情を浮かべている。(山本尚美)

「人がおらんようになるけえ」

 修繕が進むわが家。しかし、警備会社に勤務する井田正宗さん(68)と妻の綾子さん(67)の気持ちは沈んだままだ。綾子さんは新しい家を「見たいとも、帰りたいとも思わない」という。正宗さんも「確かに人がおらんようになるけえ、寂しいよ」。

 昨年7月6日夜、正宗さんは夜勤のため出かけており、自宅では綾子さんが1人で過ごしていた。玄関では、13年間家族として過ごしてきた愛犬が、鎖でつながれていた。

 雨が激しくなった午後7時半ごろ。突然停電し、台所の床下収納の蓋や和室の畳が水に浮き始めた。心細くなった綾子さんは正宗さんに電話で相談。避難を決め、あわてて貴重品をまとめたが、既に屋外は「海みたいに水が渦巻いていた」。愛犬の鎖を解き、自宅裏にある正宗さんの兄夫婦宅から外を見ていたおいに助けを求めた。肩までつかる水の中を無我夢中で兄夫婦宅に向い、一命を取り留めた。

 被災後、夫妻は地区内の避難所に身を寄せた。数日後、自宅の様子を見にいくと、愛犬が洗濯機の中で息絶えていた。

うれしさと、寂しさと

 自宅は大規模半壊し、9月初めに夫妻は仮設住宅に入居。正宗さんは仕事を再開し、綾子さんは仮設住宅エリア内の「談話室」で、被災者同士で過ごすことが多くなった。そこで一緒にクリスマスの飾り付けを行い、餅つきもした。しかし、寂しさも募っていったという。

 自宅周辺は借地に住む人々が多かった。解体費用は市の全額負担のため、軒並み解体、ほとんどの住民がこの地を去ることを決意した。しかし正宗さん宅は親の代からの所有地だ。自宅を修繕する以外に道はなく、木造平屋建ての住宅の内装を一新した。

 「被災後、自宅の土砂をボランティアの人が除去してくれたときは、本当にうれしかった」と綾子さん。「後ろに行っちゃいけん。自宅を取り壊す人もつらい」と自らを鼓舞するように話す。しかし、こんな思いもあるという。「また雨が降ったら、自宅で自分がどんな気持ちになるのか想像できない。今の自分の気持ちもわからない」

この記事を共有する

おすすめ情報