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【通崎好みつれづれ】遅咲きのオカリナ奏者

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ライブで演奏する粟辻泰史さん、紀子さん夫妻=京都市左京区の「ロンドクレアント」(寺口純平撮影)
ライブで演奏する粟辻泰史さん、紀子さん夫妻=京都市左京区の「ロンドクレアント」(寺口純平撮影)

 最近いろんなところで、粟辻泰史(あわつじ・やすし)さん(60)の名前をみかけるようになった。知り合いのピアニスト、粟辻紀子(のりこ)さん(61)のご主人、肩書は「オカリナ奏者」である。泰史さんが中学校教諭をされているのを知っていたので、定年後の趣味でオカリナを始められたのかと思っていたのだが、ライブに行きお話をうかがってみると、そう単純な話ではなかった。

 泰史さんと紀子さんは、京都芸大の同級生。当時からのおつきあいを実らせ、結婚した。芸大に通う学生は、ほとんどが「音楽家」を夢見る。とはいえ、オーケストラにはそうそう団員募集があるわけではないし、ソリストになるには努力に加え相当の運も必要だ。だから、音楽家志望の男性も結婚を決めれば固定収入が見込める自衛隊や警察などの音楽隊を目指すか、教員の道に進む人が多い。泰史さんは、フルート奏者の夢を封印して教員の道を選んだ。

 それから30年、積もりに積もったストレスからか身体が悲鳴を上げ、教員生活に終止符を打つことになる。紀子さんが「身体が第一」と促した結果だ。

 そんな憂い事の最中、ふと手に取ったのがオカリナ。穴に付いたキーを多少不自然な格好で押さえる金属製のフルートと違い、顔の正面で包み込むように構える陶器製のオカリナ。まさに身体の一部、自身の声のように感じ、すっかり魅せられた。フルートで培ったアカデミックな技術と知識を活かして演奏に向かう。

 オカリナの素朴な魅力を最大限に発揮するには、正確な音程が不可欠と、練習に打ち込む。レパートリーは、唱歌からバッハやシューベルトなどのクラシック音楽、ピアソラのタンゴまで幅広い。

 4つの教室、そして右京区鳴滝の自宅でもオカリナを教える泰史さんは「音楽家として生涯を終えたい」と話す。紀子さんは、本職のピアノに加え、当初隠し芸気分で手に取ったというアコーディオンで、伴奏を務める。和やかながら本気で作り上げるおしどり夫婦のデュオは、とっても楽しそう。今後の活動が楽しみだ。(通崎睦美 木琴奏者)

 つうざき・むつみ 昭和42年、京都市生まれ。京都市立芸術大学大学院修了。マリンバとさまざまな楽器、オーケストラとの共演など多様な形態で演奏活動を行う一方、米国でも活躍した木琴奏者、平岡養一との縁をきっかけに木琴の復権にも力を注いでいる。執筆活動も手掛け、『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』で第36回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)と第24回吉田秀和賞をダブル受賞。アンティーク着物コレクターとしても知られる。

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