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【正木利和のスポカル】江戸時代の男の関心がわかる? 京都春画展の見方

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初公開された「妖怪春画絵巻」(部分)
初公開された「妖怪春画絵巻」(部分)

 京都市左京区の細見美術館で「日文研コレクション 描かれた『わらい』と『こわい』展」が始まった。

 国際日本文化研究センター(日文研、小松和彦所長)が収集してきた春画・妖怪画のなかから選び抜いた約150点を紹介するもので、コレクションだけで本格的な展覧会を開催するのは初めてのこと。

 日本文化を考える上での貴重な資料として、日文研は90年代から春画、妖怪画を収集してきた。石上阿希特任助教によると、20年来集めてきた妖怪画は絵巻、版画など約300点、春画も約400点にのぼるという。それらのなかから「わらい」(春画)と「こわい」(妖怪画)という相反するテーマをまぜて、前近代の日常をみるというのがねらいだ。

 同館では2年前の2月から4月の間に開催した「春画展」で8万人を超える入場者を集めた。なまなましい性描写があるため、今回も18歳未満の入館は不可だが、関係者の期待は大きい。

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 その内覧会に同僚の女性記者と出かけた。石上助教を取材したことのある彼女もまた、今回の展示を注目していたそうだ。

 前回の「春画展」は、20もの美術館と交渉したが、なかなか首を縦に振ってくれるところがなかったと聞いた。大英博物館での展示によって「春画」は市民権を得たといわれていたにもかかわらず、である。

 それが、「妖怪」とセットとはいえ、京都で再びの開催となったのだから、ポルノグラフィティーと見られていた「春画」も、ようやく文化であると見なされるようになったのだろう。

 前回の取材で意外だったのは、四分六分で女性の入場者の方が多かったということである。確かに、きゃっきゃといいながら楽しそうに話し合っている女性同士が目立っていたのを覚えている。

 そのときに感じたのは、春画というのは、ひそやかにエロスをたのしむためのものというよりも、案外こうして笑いながらみんなで見てにぎやかに遊ぶためのコミュニケーションツールだったのではないか、ということだ。

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 今回の目玉は、春画表現に妖怪などを取り入れた江戸後期の「妖怪春画絵巻」(作者不詳)、薬を飲んで小さくなった男女が閨房をのぞいて色道を修業する磯田湖龍斎の「俳諧女夫(はいかいいんよう)まねへもん」第9図、第15図などの未公開作品である。

 18禁とあって、さすがに男女の性器がリアルに描かれているものも数多く並んでいるが、妖怪春画絵巻などは、登場する妖怪の顔そのものが男女の性器だったりしている。

 そんな作品を見せられると、やっぱりおかしくて知らず知らず笑いがもれる。

 しかし、江戸のご時世といまでは時代が違う。仕事仲間と一緒に、勤務中、春画を見て笑うなどという不謹慎なことができるわけもなく、おまけに同僚が同性であるならまだしも異性ときている。

 ただでさえ、前回の春画展のさいに他紙に内覧会で筆者が作品をのぞきこむ写真が掲載されているのを先輩記者に指摘されているのであるから、その日は当方、しかつめらしい顔をして、ひとり足早に展示ケースをのぞいていったのだった。

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 最後まで見終わると、追いついてきた彼女が、こんな感想をもらした。

 「どうして性器はリアルなのに、女性の胸は適当に描いているんでしょう。豊満なほうが色っぽいのに」

 確かに、性器は男女とも丹念に描き込んであるにもかかわらず、おっぱいは線をささっとひいた程度のおざなりなものばかりなのである。西洋絵画の裸婦像が、乳房も丁寧に描かれてあるのに比べると、春画の描写はあまりにも淡泊だ。

 しかし、そんなことを聞かれても困るのである。大きなおっぱいの人が少なかった、というわけでもあるまいし…。

 それよりも当方が気になったのは、衣服を着けて交わる構図がとにかく目立つということだ。なかには、ふとんのなかでも着衣のまま、というものまである。

 結局、「石上さんに聞いてみよう」ということになった。

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 おっぱいの質問に、石上助教は即座に答えた。

 「それは、単純に関心がなかったからです」

 すがすがしいほど、きっぱりといわれると拍子抜けしてしまう。今は亡き月亭可朝さんのヒット曲「嘆きのボイン」ではないが、おっぱいは赤ちゃんのためのもの、という意識が強かったのだろうか。あるいは、日常見慣れたものであったということなのであろうか…。

 ともかく、関心がない、という理由によって、乳房は春画の絵師たちの手でいさぎよいくらいなおざりにされたのである。

 では、着衣の交わりはどうなのだろう。

 「むかしは衣服で身分がわかりました。だから、どの階級の人がどの階級の人と交わっているのかを衣服によって表そうとしたのです」

 その男性の身分が武家か町人か、女性は妻か遊女なのか…。春画のなかの衣服は、そうした身分関係を示すための小道具だったのである。

 こんな風に、江戸時代の風俗を考えるための資料となりうる春画。わらいを誘うだけではない、心して見ればまだまださまざまな事柄を教えてくれる文化財なのである。

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 「日文研コレクション 描かれた『わらい』と『こわい』展-春画・妖怪画の世界-」は12月9日まで(展示替えあり)。入館料1500円。月曜休館。

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