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【「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記】矢野新監督の鍵握る選手は…

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【阪神対ヤクルト】阪神・藤浪のヤクルト・畠山に対する死球で乱闘騒ぎに発展。阪神・矢野燿大作戦兼バッテリーコーチ(右)を突き飛ばすヤクルト・バレンティン=2017年4月4日、京セラドーム大阪(松永渉平撮影)
【阪神対ヤクルト】阪神・藤浪のヤクルト・畠山に対する死球で乱闘騒ぎに発展。阪神・矢野燿大作戦兼バッテリーコーチ(右)を突き飛ばすヤクルト・バレンティン=2017年4月4日、京セラドーム大阪(松永渉平撮影)

 「勝って泣く」ための第一歩は藤浪再生-。金本前監督を事実上解任した阪神は、新監督として矢野燿大(あきひろ)2軍監督(49)に就任を要請。18日に正式な就任発表を行いました。第34代阪神監督の背番号は今季と同じ「88」。3年契約を結んだ新監督は「そんなもん、もう勝負。勝って泣いたことないから、俺。それが一番いい」と、来季優勝を目指す考えを明らかにしました。1年目から勝負する新監督の最重要課題は、藤浪晋太郎投手(24)の再生です。復活か否か…で、矢野阪神の来季は天国か地獄か…の差が出るでしょう。

 金屏風の前で晴れ晴れとした表情で抱負を語る新監督。18日に大阪市内のホテルで行われた矢野新監督の就任発表には、約130人の報道陣が詰めかけました。折しもセ・パ両リーグでは、クライマックス・シリーズのファイナルステージが開催されている中での発表。それでも超人気球団の阪神に対する注目度の高さが、報道陣の数に表されているでしょう。

 ここに至るまでの経緯は平坦(へいたん)ではなかったですね。前回のコラムで書いた通り、一度は続投を示唆しながら阪神電鉄本社は最下位転落とファンの強烈な拒否反応を前に、金本前監督の解任に舵を切りました。

 10日に行われた甲子園球場での今季最終戦(DeNA戦)終了後、揚塩球団社長が辞任を勧告。そして、翌11日に突然の辞任会見が行われました。体裁は辞任でも、流れは解任です。

 辞任勧告が行われた10日夜、フェニックス・リーグで宮崎遠征中の矢野2軍監督(当時)には谷本副社長兼球団本部長と嶌村副本部長が「金本続投を前提としたヘッドコーチ就任要請」を行い、内諾を受けていました。

 電鉄本社の藤原会長-秦(しん)社長主導で進められ、揚塩球団社長ひとりが動いた金本解任の流れを全く知らされていなかった谷本-嶌村両球団幹部は、ヘッドコーチを受諾していた矢野2軍監督と会食していたといいます。

 そのとき、まさに午後9時30分。テーブル上にデザートが運ばれてきた瞬間、谷本副社長の携帯電話が鳴りました。相手は揚塩球団社長。内容は「金本解任」の一報だったのです。激怒する谷本と嶌村コンビ。その席の雰囲気を見ていたある関係者は「もう、まるでドッキリカメラかと思いましたよ。どこからか、ヘルメットを被ったオッサンが『ドッキリカメラで~す』って、出てくるのかと。世の中でこんなことが起きるのかと思った」と言います。

 一度は受けた1軍ヘッドコーチの座は跡形もなく白紙。衝撃を受けた矢野2軍監督がその3日後、今度は揚塩球団社長から1軍監督の就任要請。驚天動地の顛末(てんまつ)に翻弄されながらも、矢野2軍監督が出した答えは「受諾」でした。

 「今年2軍監督をやらせていただいて、選手に『チャレンジしようぜ。失敗しても次で取り返せばいい。終わったことに引っ張られるのではなく、次に打てばいい。抑えればいい』と、日々メンタルな部分を伝えてきた。自分が今回このような話をいただいて、逃げるというか、やらない選択をしたとき、選手に対して僕が言ってきたことがウソになりますし、僕も挑戦すべきだなと思ったのが一番大きいです」

 もう、これは矢野新監督の“男気”に阪神球団は救われたのでしょう。

 そして、18日に冒頭で紹介した通り、就任発表が盛大に行われたのです。背番号は今季と同じ「88」。契約期間は3年。一番、肝心要の目標を問われた新監督はこう語りました。

 「もちろん、もちろん勝負やん。3年後に優勝なんてみじんも思っていない。来年、優勝をもちろん狙うし、ファンを喜ばせるのに3位でいいことはない。そんな、のんきなことは思っていない。俺は本当に優勝も可能やと思っているし、そこが俺の一番の仕事というかね。勝って泣いたことないから、俺。それが一番いい」。ズバリ「来季の14年ぶりのリーグ制覇」を目標に掲げたのです。

 このコラムでもハッキリと書き続けています。1軍で「育成しながら勝つ」というチームコンセプトがいかに困難か…。金本前監督の3年間は、まさに理想と現実の間にあるギャップに苦しみ続けました。やはり1軍は「勝利の追求」で、2軍こそが「若手育成」。そういう意味では矢野新監督がこれほどハッキリと自分の考えを明らかにしたことは評価できます。

 新監督の言葉を受け取り、今後の電鉄本社-球団首脳は最大限、矢野体制をバックアップすべく戦力補強に乗り出さなくてはいけません。FA補強などはかなり立ち遅れていて、現実問題としても厳しい局面ではありますが、新監督が「来季の優勝」を口にした以上は優勝できる戦力を与えるのが本社-球団の経営陣の責務です。それが出来ない? いや消極的な姿勢となるなら、今回の監督交代劇も単なる「看板の掛け替え」で、ファンやマスコミの批判の矛先を鈍らせただけだ、という猛烈な批判が押し寄せるでしょう。

 そして、現場の最重要課題です。「勝って泣く」ために、矢野新体制がまず着手しなければならないのは藤浪の再生でしょう。今季の阪神で先発した投手は、しめて15人。先発投手陣の成績は43勝58敗でした。2ケタ勝利は11勝のメッセンジャーだけです。来季38歳を迎えるメッセンジャーに成績面の上積みを求めるのは酷ですね。

 今季7勝の小野、6勝の才木の成績アップを期待する以上に、何よりもチームにインパクトを与えるのが藤浪の復活です。

 今季は13試合に登板し5勝3敗、防御率5・32。昨年は3勝5敗、一昨年も7勝11敗と3年連続で成績不振の右腕を、2015年に14勝7敗をマークした右腕に戻すことができるのか…。もし、藤浪があのときの姿を取り戻せば、今季のチーム成績は来季、激変するはずですね。

 矢野新監督と藤浪の間には大きなポイントになる試合があります。それは昨年4月4日、京セラドームでのヤクルト戦。先発した藤浪が五回表、畠山の左肩口に死球。それをきっかけに大乱闘劇となり、ヤクルトのバレンティンとともに退場処分を食らったのが、当時の矢野1軍作戦兼バッテリーコーチでした。

 藤浪を守るためにグラウンドに飛び出した矢野コーチはバレンティンに突き倒され、逆襲のジャンピングニーパッド(跳び蹴り)で応戦したのです。コーチ就任後、初めての退場劇でした。

 自分を守るためにバレンティンに向かっていった矢野コーチの姿を藤浪は今でも覚えているでしょう。そこにあるのは感謝と信頼ではないでしょうか。金本前監督の3年間は何か自分自身をグラウンドでうまく表現できなかった右腕が、よみがえるきっかけにしてほしいものです。

 今季、2軍で調整していたとき、指導を受けていた福原投手コーチも来季から1軍に昇格します。いい時の状態も、苦しんでいる時の姿も見ている福原投手コーチが側にいるのも心強いはずです。

 コラムでも書きましたね。野村監督時代は全くダメだった今岡が、星野監督誕生と同時に「1番・二塁」に抜てきされ、その後の大活躍につながった、と書いたはずです。打者と投手の違いこそあれ、監督が交代した環境の変化を藤浪がうまく生かせれば、来季は虎投の中心軸にいるはずです。今岡の“投手編”になればいいのです。

 阪神球団は積極的な戦力補強を進める。矢野新監督はまず藤浪再生。喫緊の課題はコレではないでしょうか。

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