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【「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記】「金本監督電撃解任」の舞台裏 電鉄本社が強硬手段、でもチーム方針変わらなければ…

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会見を終え、球団事務所をあとにする金本知憲監督=11日、兵庫県西宮市(宮沢宗士郎撮影)
会見を終え、球団事務所をあとにする金本知憲監督=11日、兵庫県西宮市(宮沢宗士郎撮影)

 「金本電撃解任」で矢野燿大(あきひろ)2軍監督(49)の監督昇格でもチームコンセプトを変えない限り、結末は同じです。阪神は10日の本拠地最終戦(DeNA戦)終了後、電鉄本社の命を受けた揚塩(あげしお)健治球団社長が金本知憲監督(50)に辞任勧告。翌11日の辞任発表に至りました。同じく本社首脳の指示により、揚塩球団社長は13日にフェニックス・リーグで宮崎遠征中の矢野2軍監督に新監督就任を要請しました。一度は来季、「金本続投で矢野1軍ヘッドコーチ」が内示された直後の“差し替え要請”です。矢野2軍監督が受諾しても辞退しても、大事なことは来季以降のチームが「勝てるのか」の一点です。オール阪神は今こそ方針の間違いに気づくべきです。

 まさに激震でした。10月11日の午後1時、萎える気持ちをどうにか奮い立たせ、それでも来季に向かおうとしていた金本監督は、甲子園球場横の球団事務所で報道陣の囲み取材の中にいました。わずか数時間前にプレスリリースされた辞任発表の囲みで、小さな声でポツリポツリと語り始めました。

 --球団に辞意を伝えたのか

 「昨日(10日)の試合後ですね」

 --辞任する理由は

 「成績不振です」

 --辞任を考えたのはどのタイミングからなのか 

 「最下位が決まったくらいですね」

 わずか3年前の2015年オフ、監督就任を躊躇(ちゅうちょ)する金本監督に何度もお願いし、まさに三顧の礼をもって監督に招いた阪神球団。その大事な人の辞任発表をテーブルも椅子も用意せず、金本監督は立ったまま。テレビカメラなし、新聞社のカメラマンもなし…の完全NGシフトで行ったのです。

 「なんでテレビカメラを入れないんや。最後くらいはちゃんと舞台を整えて送り出すべきや」

 球団関係者ですら吐き捨てるような報道陣の囲み取材でした。

 そして、辞意を語る金本監督を囲む報道陣の中に異様な光景があったのです。なんと揚塩球団社長、谷本修球団副社長兼本部長、嶌村聡球団副本部長の3人が報道陣の輪の中で必死に監督の言葉を聴いていたのです。揚塩球団社長に至っては耳をダンボにして、監督発言をチェックしているようでもありました。「辞任発表」なのに実情を話されては困る…という深層心理が球団トップの背中に書いていました。

 時計の針を前日の10日に戻します。本拠地最終戦が行われるお昼過ぎ、揚塩球団社長は大阪・野田の阪神電鉄本社に呼ばれていました。球団社長を呼んだのは坂井信也オーナー(11日に退任会見済み)ではなく、藤原崇起(たかおき)電鉄本社会長(オーナー代行で16日から新オーナー)と秦(しん)雅夫本社社長でした。そこでのやりとりを本社関係者はこう明かしました。

 「揚塩君、金本監督に辞めてもらう。君が今日の試合後に伝えて、辞めてもらえ。坂井オーナーも辞めるので、心配しなくていい」

 「そうですか…。でも球団は金本監督の続投を前提にして、コーチ人事などの内示を行っていますが…」

 「それは後でなんとでもなる。金本監督では来季、もう無理やろ。任期途中(今季から3年契約)でも仕方ない。それから後任は誰がおるねんな?」

 「球団内の評価が高いのは矢野2軍監督です」

 「そうか。それなら矢野2軍監督の昇格で早くまとめなさい」

 金本監督の契約期間はまだ来季から2年残っていました。球団からの解任通告となれば、残りの年俸を支払う義務が生じますが、約4億円を支払う結果が待っている状況下でも、「辞任勧告」を指示した藤原-秦両首脳の意思は極めて固かったようです。

 金本監督の3年間は4位、2位、そして今年が最下位。成績はじり貧で、期待した若手育成は遅々として進みませんでした。本拠地・甲子園球場でも大きく負け越し、地元のファンのフラストレーションはたまる一方。本社や球団にもファンの抗議電話が殺到する日々でした。

 今年の6月、阪急阪神ホールディングス(HD)の株主総会は大荒れになりました。成績不振のタイガースを問い詰める株主たちに対して、議長の角和夫HD会長&CEOは質問に対する回答を担当の百北幸司事業本部長ではなく、わざわざ藤原本社会長に任せたのです。そして、藤原会長はその場で「真剣に考えなければなりません」と答えました。株主に対する言葉は、総帥の角HD会長への誓いの言葉ともなったのです。

 ここで体制を見直し、来季に向けた改善策を打ち出さなければ、経営責任を問われるのは藤原-秦体制となります。だからこそ時間的な猶予はなかったのです。坂井-金本体制にもうこれ以上、任せておくわけにはいかない…という心理状態が本拠地最終戦直後の突然の辞任勧告となって表面化したわけですね。

 揚塩球団社長は13日、本社の指令を受け、フェニックス・リーグで宮崎に遠征中の矢野2軍監督のもとに向かいました。そして、最長5年の長期契約を提示し、監督就任要請を行いました。

 しかし、金本監督が事実上、解任された10日の夜、矢野2軍監督は「来季も金本続投を前提とした1軍ヘッドコーチ就任要請」を受けたばかりでした。揚塩球団社長の動きを一切、知らされていなかった谷本副社長と嶌村副本部長は「矢野ヘッドコーチ」を内示していたのです。矢野2軍監督も受諾し、両首脳と来季への抱負を語り合いながら食事をしていたといいます。

 その時、谷本副社長の携帯電話が鳴ったそうです。それが驚天動地の金本解任の報…。激怒した谷本副社長は電話口で揚塩球団社長に食ってかかったそうです。目の前で起きた球団の醜態を矢野2軍監督は鉄仮面のような表情で無言で見ていたそうですね。

 そして、両首脳は監督就任要請について、揚塩球団社長に「やってられません」的に一任したわけです。つまり、今回の監督就任要請は“ヘッドから監督への差し替え要請”です。それでも金本改革の右腕だった矢野2軍監督は「鉄人の魂」を受け継ぐ覚悟で受諾するのか、一連のゴタゴタに嫌気が差すのか…。

 激動の2日間を再現しましたが、このコラムでは2週間前、金本監督の来季続投意欲が減退する可能性がある…と書きました。それは来季の優勝争いを目指す金本監督が望む(1)FA補強などの大型補強(2)10月25日のドラフト会議での即戦力投手の1位指名…にいずれも本社が後ろ向きで、コーチ人事もほとんど無風というやる気のなさ-が金本監督の心を萎えさせる可能性がある、という指摘でした。

 実際はそれでも何とかやる気を奮い立たせたようですが、最後は本社首脳の方が強硬手段に出たわけです。予兆はありました。実は3週間前あたりには本社周辺からこんな言葉が漏れ伝わってきましたね。まさに衝撃的でした。

 「金本との3年契約は失敗やった!!」

 つまり、失敗を是正するための処置が10日の夜に行われたわけです。

 しかし、本当の失敗は金本監督の采配や選手起用の未熟さを見抜けなかったことなのでしょうかね。3年前、金本政権誕生と同時に打ち出された「骨太の方針」。つまり育てながら勝つ…というチームコンセプトはどうなのでしょう。本来、優勝を目指し、勝つための場である1軍で「育てながら勝つ」という難解なテーマを掲げました。二兔を追う難しさが、指導者経験のなかった金本監督を追い込んだのです。監督もそれに気がついたからこそ、今シーズンの途中から大型補強を要望したのでしょう。

 新監督が就任してもチームコンセプトが変わらなければ、チームも変わらないでしょう。鉄人と同じ運命が待っているだけです。1軍は「勝つ」、2軍は「育成」。シンプルなチーム方針への転換がない限り、金本の無念は新監督にも降りかかります。16日に行われる新旧のオーナー交代の記者会見で藤原新オーナーが何を話すのか。大注目です。「育てながら勝つ」の継承というなら、阪神ファンにとってもいばらの道が続きますよ。

     ◇

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しようへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。ラジオ大阪(OBC)の金曜日、午後10時から「NEWS TONIGHT いいおとな」( http://www.obc1314.co.jp/bangumi/iiotona/caster.html )の『今日のトラコーナー』や土曜日午後6時45分からの「まさとと越後屋のスポーツ捕物帖」( http://www.obc1314.co.jp/bangumi/okini/ )に出演中。「サンスポ・コースNAVI!」( http://www.sanspo.com/golf/tokushu/golf-t24944.html )ではゴルフ場紹介を掲載、デジタルでも好評配信中。

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