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【正木利和のスポカル】売れっ子ペインターが経験した難行苦行のアフリカ記

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完成した壁画の前で子供たちと記念撮影する河野ルル(中央)=本人提供
完成した壁画の前で子供たちと記念撮影する河野ルル(中央)=本人提供

 とにかく、驚かされることばかりである。

 世界を回って絵を描くことの楽しみを見つけ、アジアの若手が集うアートフェアで昨年、グランプリを取って一躍、売れっ子ペインターになった名古屋在住の河野ルル(30)。

 ことし3月、彼女の紹介記事を書いたとき、「アフリカの貧しい子供たちのために学校に壁画を描きたい」という彼女の夢を記したが、それからしばらくして、ほんとうにかの地へと旅だったのである。

 20日ほどの滞在期間で描き上げはしたが、聞けばアフリカの暮らしは、バイタリティーのある不思議ちゃん画家にとってもなかなか手ごわかった様子。

 これは、その苦難の渡航記である。

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 まだ行ったことのないアフリカで子供たちのために壁画を描く、と決めた彼女だったが、もちろんなんのつてもない。

 夢の実現のために駆使したのはインターネット。アフリカにある小学校を探しては、独学で身につけた英語で「壁画が描きたい。描く場所を提供してほしい」というメールを手当たり次第に送りまくったそうだ。

 すると昨年12月25日、アフリカ南東部のマラウイ共和国から「一部屋描けるからきてください」という返信があったのだという。

 「クリスマスプレゼントみたい」

 渡航を5月の大阪での個展後と定めると、大阪でワクチンを打つなどの準備をして、日本を発ったのが5月30日。それから約30時間をかけて目的地のマタンダニ村に到着した。

 土を乾かして作ったレンガ造の住まいに、英語を教えるためにやってきた英国やカナダなどの女性たち、教育実習生らと共同生活をしながら、歩いて5分の小学校に通うことになった。

 ひとつの夢をかなえようとして、交通費も持ち出しでここまでやってきたのである。だから、壁画を描く学校に初めて行き、50人ほどの子供たちに紹介されたときには、感激のあまり号泣したのだそうだ。

 しかし、甘いお話はそこまで。

 実際の暮らしはそんなに甘くはなかった。

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 食事は毎日、トウモロコシの粉を練った主食の「シマ」と、ニボシとトマトの炒め物。

 「日本にもどって牛丼を食べたときは涙が出そうになりました」

 トイレは、屋外だったため用を足すには外に出る必要があった。

 しかし、そのトイレにはドアもなく、おまけに壁にびっしりハエがたかっているありさま。

 「トイレに行くときはハエなどいないんだ、と思い込むようにしました」

 心を無にするしかない。

 風呂も戸外にあった。しかし、湯船などなく、もちろんシャワーもない。

 「朝、井戸から10リットルほどの水を運んできて浴びるだけなんです」

 風呂に入るためには、朝からひと仕事せねばならなかった。

 夜は夜で、つらい思いをした。

 アフリカの冬は、夜は気温10度を切ることもある。フリースなどを着込んで眠ったが、「重いな」と思ったら、ネズミが体の上に乗っていた。

 それだけではない。シラミに刺されてかゆくてたまらなくなって、何度も部屋を替えてもらったのだという。

 あたりに店がないため、買い物するにはバスで1時間の町まで行かねばならない。それで、ボトルの水がなくなり、つい井戸水を飲んだら発熱と下痢にさいなまれるというつらい思いも体験した。

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 それでも、毎日朝7時には学校へ行き、多目的ホールの壁に絵を描き続けた。すると子供たちが「ルル」「ルル」と寄ってきてくれる。

 ときには、その子らと一緒に壁に色を塗ったりもした。現地のペンキが薄く、思ったように色がのらないせいで、午後2時に学校が終わったあとも、ひとり残って夕方まで絵を描いた。

 「高さ5メートル、横が15メートルほどの壁でした。そこにアフリカにたくさんあるバオバブの木とアフリカで見たきれいな星空を描きました。できあがったときにはみんな喜んでくれて。『ビューティフル!』っていわれたときには、『報われた』って…」

 もともと、世界一周旅行の最中に乏しくなった滞在費をかせぐために壁画を描いたのがきっかけで、この世界に入った。しかし、今回、もろもろかかった費用20万円はすべて自分もちだったそうである。

 「お金をためて旅行して好きに描くって、収入にはならないけどとても楽しいんです。多くの人に喜んでもらえるし、自分のやってることは悪いことじゃないと思うんです。もっといろいろな国や場所で描いていきたい」

 6月20日に帰国、先月末には猛暑のなか、兵庫県西脇市の日本へそ公園( http://www.city.nishiwaki.lg.jp/shisetsuannai/kouencamp/1359286909070.html )にある24メートルの壁に壁画を描きあげ、今月は東京で初個展(18日~30日、渋谷・モンキーギャラリー http://monkeycafe.jp/ )が開催されるなど、いまやひっぱりだこだ。

 たくましい生命力とあふれる好奇心で、ひとびとを幸せにする彼女の絵は世界に広がる。

▼日本へそ公園(外部サイト: http://www.city.nishiwaki.lg.jp/shisetsuannai/kouencamp/1359286909070.html )

▼渋谷・モンキーギャラリー( http://monkeycafe.jp/ )

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正木利和 正木利和 産経新聞文化部編集委員。大阪新聞から産経新聞社会部、運動部、部長を経て現職。運動部歴25年目となった秋、念願かなって美術担当に。好きなものは以下の通り。富岡鉄斎の絵、ジャランスリワヤの靴、よく墨のおりる端渓硯(たんけいけん)、勇敢なボクサー、寡黙な長距離走者、「水曜どうでしょう」について語り合うこと。当コラムは、スポーツの話題にときどきカルチャーを織り交ぜて、「スポカル」。以後、おみしりおきを。

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