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【脳を知る】悪性脳腫瘍 開頭手術中に脳内に抗がん剤を直接置く「ウエハー」治療

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悪性脳腫瘍では、開頭手術中に脳内に固形の抗がん剤を置く方法もある
悪性脳腫瘍では、開頭手術中に脳内に固形の抗がん剤を置く方法もある

 私たちの脳は人体で最も重要な臓器の一つです。脳は、有害な物質が脳に侵入しないようにするための防護的な構造として「血液脳関門」という特殊なバリアを備えています。

 私たちの身体の毛細血管は、主に内皮細胞で構成されています。ほとんどの臓器の血管の内皮細胞は、あまり密着せず、細胞と細胞の間に隙間が空いており、多くの物質が血管の内と外を自由に出入りできます。それに対し、脳の血管は内皮細胞同士が強く密着し、血管と脳との間の物質の出入りは厳密に制御されています。これが血液脳関門です。

 血液脳関門は、ウイルスや細菌など脳にとっての有害物質だけでなく、薬剤やホルモンなどの物質の出入りも調節しています。このように血液中の物質は、血液脳関門により他の臓器に比べて脳に到達しにくくなっています。

 悪性脳腫瘍は脳の中をしみ込むように発育するため、正常の脳と腫瘍の境界が不鮮明で、開頭手術による全摘出、すなわち手術のみの完治は困難です。そのため悪性脳腫瘍の治療は手術後に放射線治療や抗がん剤を用いた化学療法が必ず行われます。しかし、抗がん剤を注射したり、内服したりしても、血液脳関門により有効成分が脳に到達できません。これが、悪性脳腫瘍の治療成績が他臓器のがんに比べて劣る主な原因の一つです。このため、他の臓器に使う抗がん剤とは異なる、脳に到達しやすい特別な投与法を考える必要が出てきました。

 そこで開頭手術で脳腫瘍を摘出後、摘出した所に固形の抗がん剤を直接置くという方法が考案されました。置いた抗がん剤が血液脳関門を通らずに、ゆっくり溶けて脳腫瘍細胞を攻撃します。注射薬に比べて副作用が少なく、高い濃度で脳腫瘍細胞に作用することなどが特徴です。

 放射線療法や化学療法などは手術後しばらくして十分体力が回復してから開始しないといけませんが、手術中に脳内に抗がん剤を置くことで、この治療空白期間にすでに抗がん剤治療が始まっていることも長所です。直径14ミリ、厚さ1・3ミリ(1円硬貨より少し小さい)の円盤状の抗がん剤(ウエハーといいます)が開発され、通常は脳腫瘍を摘出した所に、このウエハーを8枚置きます。

 しかしながら、このウエハーのみで悪性脳腫瘍が治ることはなく、あくまでも補助的な治療であり、放射線治療や化学療法は必要です。また、全ての悪性脳腫瘍に使用できるわけではなく、病理学的に悪性神経膠腫(こうしゅ)と診断された脳腫瘍にのみ使用可能です。課題があるものの、非常に魅力的なこの治療、和歌山県立医大でもウエハーを多くの悪性神経膠腫の患者に使用しています。

 (和歌山県立医科大学 脳神経外科 准教授 藤田浩二)

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