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【西日本豪雨・想定外クライシス】(4)「町が沈む、言ってくれれば」ダム放流情報、周知に課題

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西日本豪雨で貯水位がピークに達し、緊急放流を行った野村ダム。その後、下流の約700棟が浸水するなどし、5人が亡くなった=4日、愛媛県西予市(本社ヘリから)
西日本豪雨で貯水位がピークに達し、緊急放流を行った野村ダム。その後、下流の約700棟が浸水するなどし、5人が亡くなった=4日、愛媛県西予市(本社ヘリから)

 「伝え」ても「伝わらない」避難情報。想定外の豪雨を受けて愛媛県の2カ所のダムで実施された緊急放流には、「伝わらない」情報という課題が凝縮していた。

 「ダムが今までにない量を放流する。川が氾濫する危険がある」

 7月7日午前6時前。同県西予(せいよ)市の野村町地区に住む畳店店主、小玉恵二さん(59)は、消防団員から市内にある野村ダムが放流するとの情報を受け、避難するよう促された。

 しかし。「道路が冠水するくらいかな、程度に思っていた」。小玉さんは当時をこう振り返る。

 自宅の近くでは母、ユリ子さん(81)が1人暮らしをしていた。妻の由紀さん(59)が様子を見に行くと、ユリ子さんは飼い猫を一緒に連れて行くためのケージを探していた。

 同6時40分ごろ、いったん自宅に戻った由紀さんを伴い、小玉さんがユリ子さんを迎えに行くため軽トラックに乗り込んだ瞬間、急に濁流が押し寄せ、車体が浮き上がった。あわてて車から降り、夫婦で近くの民家へ飛び込んだが、すぐに2階まで浸水。屋根の上で救助を待つ間、集落は瞬く間に水没していった。

 3時間後。水が引くのを待ってユリ子さん宅に駆けつけたが、ユリ子さんは既に冷たくなっていた。「町が沈むレベルの放水だと言ってくれていれば引っ張ってでも連れてきたのに…」。由紀さんは後悔を隠しきれない。

■  ■

 貯水位がピークに達していた野村ダムでは7日午前6時20分、流入量と同量を放流する緊急放流「異常洪水時防災操作」が行われた。これにより下流の肱(ひじ)川が氾濫、流域の野村町地区など西予市の700棟近い住宅が全半壊もしくは浸水し、ユリ子さんを含む5人が死亡した。

 ダム側は放流の約4時間前、同2時半には市へ緊急放流する可能性があることを伝えていた。

 市が、ダム近くにある野村町地区の住民約5100人に避難指示を出したのは約3時間後の同5時10分。担当者は「強い雨が断続的に降っており、住民の安全性を考え、明け方に避難指示を出した」と説明する。

 そこから放流まで「猶予」は1時間あまり。市は20~30分おきに計3回、屋外スピーカーや防災無線を通じ避難を呼びかけた。国土交通省四国地方整備局もサイレンやスピーカー、警報車で放流を通知した。

 だが放流量は具体的に伝えられなかった。雨音で放送が聞こえなかったケースもあった。各家庭を回り避難を呼びかけた30代の男性消防団員は、「3割くらいは逃げなかった印象。あの浸水で死者が5人だったのは、正直少なかったと思っている」と打ち明ける。

■  ■

 異常洪水時防災操作は、野村ダム下流にある鹿野川ダム(同県大洲市)でも行われ、川の氾濫などにより4人が死亡した。

 こちらでは、地域によっては情報自体が伝っていなかった可能性がある。放流は市が出した避難指示のわずか5分後。自宅の2階に逃げて無事だった自営業の男性(64)は「普段は放流を知らせる車が来るのに、今回は何も聞こえなかった」と憤る。

 国交省は放流をめぐる一連の対応について有識者や行政を交えた検証を開始。特に改善が求められているのは、住民への周知の方法だ。検証の会合で委員の愛媛大大学院の森脇亮教授は、「受け手が情報をどうとらえたのか検証する必要がある」と指摘した。

 京都大防災研究所の角哲也教授(河川工学)は言う。「ダムは万能ではない。大災害は起こるという危機意識を持ち、水位変化などの情報を管理者と住民がリアルタイムで共有し、迅速な避難行動に結びつける仕組みづくりが必要だ」

 異常洪水時防災操作 ダムがあふれるのを防ぐために放流する緊急措置。「ただし書き操作」とも言われ、洪水調節機能が果たせなくなるため「例外中の例外」とされる。西日本豪雨では治水機能がある全国のダム558カ所のうち4割に当たる213カ所で放流量を調節。平成29年までの10年間で異常洪水時防災操作は計40回行われていたが、今回だけで6府県の8カ所で実施された。

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