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【正木利和のスポカル】いつもポケットに名作を 「半分、青い。」で「ショパン」「北斗の拳」「キャプテンハーロック」

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おとな買いした「いつもポケットにショパン」。名作は古びない
おとな買いした「いつもポケットにショパン」。名作は古びない

 若いころは通勤電車のなかでよく売店のスタンドで買った漫画雑誌を読んでいたものだが、いつのまにか卒業していた。

 それは、30歳手前のころだったと思う。

 社会に出て、働き盛りなどといわれるようになると、仕事に関係する本を読む機会が増え、その分、自然に漫画へは手が伸びなくなっていったように記憶する。

 けれど、ボクシング漫画の金字塔「あしたのジョー」や学園漫画の「男組」、拳法漫画の「北斗の拳」など、単行本で全巻をそろえていた(そういえば鴨川つばめのナンセンス漫画「マカロニほうれん荘」も)ものもあったのだから、そうした漫画から学んだことも、きっと多かったに違いない。

 ところが、あれほど熱中していたにもかかわらず、なんらかの理由で読むのをやめたせいで、忘却のかなたに過ぎ去っていった連載漫画というものもある。

   ■    ■

 恥ずかしながら告白するのだが、まだ京都の学生下宿にいたころ、「別冊少女マーガレット」という月刊少女漫画誌の新刊の発売を指折り数えて待っていたことがある。

 妹のものを実家で借りて読んでいるうちに、家を出たあとも発売日になると本屋で買ってきては読むほどはまってしまっていたのだった。

 きっと、女性心理の研究という側面も多分にあったのだろうが、おかげで六畳の部屋には分厚い少女漫画がどんどんたまってゆき、遊びにやってきた友人たちからは、いぶかしげに見られることもたびたびだった。

 なかでも、ピアノ、あるいは音楽を軸に、主人公の少女と幼なじみの少年が人間として成長していく過程を、少女の目を通して描いた、くらもちふさこの「いつもポケットにショパン」には、親子、師弟、友人、ライバルなどの複雑な人間関係のなかで悩む主人公のモノローグに、何度も胸を打たれた記憶がある。

 就職で下宿を出る隣の部屋の先輩から譲り受けたステレオで聞く音楽も、いつしかショパンやリスト、ラフマニノフのピアノ曲ばかりになっていた。

 それほど、その漫画に影響を受けたのだった。

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 なぜ、40年近くも前に愛読した少女漫画のことを思い出したのかというと、NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」のなかに突然、その漫画が現れたせいだった。それは、主人公が師事する人気漫画家の作品として登場したのである。

 しかし、なぜかそのとき、あんなにわくわくしながら読んでいた物語の結末が、どうしても思い出せなかったのだった。

 主人公と幼なじみの少年はどうなったのだろう…。

 実は、その漫画が佳境に入ったころ、同じ大学に通う女の子とつきあい始めたのだった。彼女に少女漫画を読んでいるのを知られると、どん引きされるんじゃないかなと恐れたあげく、月に一度、わくわくしながら少女漫画を手に取る喜びを放棄してしまったのである。

 きっとラストを覚えていないのは、そのせいに違いない。

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 だが、「半分、青い。」のおかげで先日、全巻をおとな買いし、一気にむさぼり読んだ。

 驚いたことに、あのときポケットにしまったままだったショパンは、こんなに年老いてしまった心にもしみるほどの甘酸っぱい旋律を奏でたのである。

 なかでも「半分、青い。」の主人公がドラマのなかで師匠にほんとうに弟子入りをするシーンで効果的につかわれた「なにがあってもすべてあの時のときめきからはじまっていることを忘れるものか」というセリフを見つけたときには、感激してしまった。

 人はときめきを抱きしめながら生きているのだ、と。

 この「ショパン」のおかげで、松本零士の「キャプテンハーロック」も最後まで読んでいなかったことに気づき、全巻をまとめ買いするはめになってしまった。

 ふたつの漫画を読んでみてわかったことがあるとすれば、名作は決して古びない、ということであろう。

 そう、たまには胸のポケットに手を入れて、さぐってみるといい。

 もしかしたらあなたも、そこでじっと眠り続けている、なつかしい感動のかけらを、見つけることができるかもしれない。

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正木利和 正木利和 産経新聞文化部編集委員。大阪新聞から産経新聞社会部、運動部、部長を経て現職。運動部歴25年目となった秋、念願かなって美術担当に。好きなものは以下の通り。富岡鉄斎の絵、ジャランスリワヤの靴、よく墨のおりる端渓硯(たんけいけん)、勇敢なボクサー、寡黙な長距離走者、「水曜どうでしょう」について語り合うこと。当コラムは、スポーツの話題にときどきカルチャーを織り交ぜて、「スポカル」。以後、おみしりおきを。

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