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【正木利和のスポカル】すぐれた作品はポジティブな作家から生まれる 世界的な彫刻家、小清水漸

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新作「表面から表面へ」について語る小清水漸=神戸市中央区
新作「表面から表面へ」について語る小清水漸=神戸市中央区

 深遠な世界を見た。

 神戸市中央区元町通のギャラリーヤマキファインアート( http://gyfa.co.jp/ )で、小清水漸(こしみず・すすむ)(73)の新作展で、である。

 小清水といえば、1960年代末から70年代初めにかけて起きた日本の前衛芸術動向「もの派」を代表する彫刻家だ。

 ギャラリーに入ると、いきなり木の香りが鼻をくすぐった。

 壁面には同じサイズ(58センチ×37センチ)の木製のレリーフ作品が整然と並んでいる。厚みは6センチ、木は松だ。

 電動のこぎりで直線の切り込みを入れたものやピラミッドのような立体を規則正しく刻んだもの、あるいは洗濯板のように凹凸をつけたものなど、表面に幾何学模様を刻んだ木製レリーフを1枚1枚見ていくと、木目が景色となっていることもあるのだろう、彫刻というよりは絵画を見ているような気分にさせられる。

 壁面をかざる、この計25枚のレリーフは、作家がこのギャラリーのイメージを思い描きながら、それに合わせて作ったといい、その規則性は空間のなかで心地よい調和をつくりだしていた。

 この作品「表面から表面へ」は1971年に発表した同名作品をシリーズ展開させたものだ。最初期の作品は、もっと縦に長い柱のような14本の木で構成されており、そのひとつは英国の国立近現代美術館であるテート・モダンに収蔵されている。

 小清水は今回の作品の制作意図を次のように語る。

 「(70年代のころは)若かったから勢いと直感で作ったのですが、もう一度、それを整理し直してみようと今回、レリーフ状のものを考えたのです。最初は彫刻として量感・物質性を意識したのですが、今回はオリジナルのものと厚さ、幅を同じにしながら短くし、物質性を弱めて絵画性を強くしました」

 そのタイトルもまた、「表面から表面へ」だ。

 木の表面は切り刻むことで視覚的に変化していく。しかし、視覚的に変わったところで、表面は瞬間的に表面としてとらえられる。

 表面から表面へのくりかえし…。

 「生きていく上で、人はさまざまな行為をし、経験を積む。そうして次から次に自分の前に起こるできごとを体験してゆく。それをくりかえすのが人生なんです」

 「表面から表面へ」は、「人生」そのものを表現したものだったのか…。

   □    □

 小清水は愛媛で生まれ、東京で都立新宿高校を卒業した。高校の同級生にはのちに音楽家となる池辺晋一郎(74)がいる。

 「本当は音楽の方が好きで、高3のときには土曜日になると彼のところに行ってピアノで歌を歌っていましたね。もちろん、彼が才能の尺度になるわけですから、音楽の道はあきらめて、美術のほうに進んだのですが、東京芸大が僕を入れてくれなくて(笑)。で、3年遅れて多摩美(大)に入りました」

 60年代後半から70年代にかけて台頭した、概念を捨て、物質性に還元する反主知主義的なもの派の中心メンバーとして石や木、金属を用いた作品を個展などで発表してきた。

 「60年代後半、日本の産業はいけいけどんどんだったんです。時代の元気さにひかれるものの、たとえば公害などが問題となり、何かを失ってるぞ、という思いもあった。それが物そのものを見つめるんだという気持ちにつながったんだと思います」

 「たしかにベトナム戦争のさなか、世の中の政治状況にも反発をもっていました。でも、もの派の作品はあくまで物質性とのかかわりが中心で、表現活動は政治活動と直結するようなものではなかったのです」

 京都市立芸大教授や宝塚大学の学長として後進の指導にもあたり、紫綬褒章も受けている。世界にその名をとどろかした存在でもあるが、功なり名遂げても、まだまだ作品を作り続けていく気持ちは衰えてはいない。

 「モネがキャンバスに色を置くとき、筆先のひっかかり具合を感じる感覚のようなもの、というか…僕が彫刻をするたびにからだを通して感じる新鮮な感覚、それが感じ取れる間は作品を作れると思っています」

 前向きだ。

 「人生ってシーシュポスの神話ではないですが、徒労感を感じることもあるんですよ。同じ問題の繰り返しで、結局、解決しないまま世代だけがかわってゆくなあ、むなしいなあと。でも、まあ石を運ぶなら、たとえまた落とされても元気に運ぼうじゃないかと思えるんです」

 すぐれた作品は、いつもポジティブなひとから生まれる。

     ◇

 「ギャラリーヤマキファインアート12周年記念展 小清水漸『視覚と身体と物質の刹那』」は7月27日まで。日曜、月曜休廊。問い合わせ(電話)078・391・1666。

ギャラリーヤマキファインアート( http://gyfa.co.jp/ )

▼ギャラリーヤマキファインアート(外部サイト http://gyfa.co.jp/ )

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正木利和 正木利和 産経新聞文化部編集委員。大阪新聞から産経新聞社会部、運動部、部長を経て現職。運動部歴25年目となった秋、念願かなって美術担当に。好きなものは以下の通り。富岡鉄斎の絵、ジャランスリワヤの靴、よく墨のおりる端渓硯(たんけいけん)、勇敢なボクサー、寡黙な長距離走者、「水曜どうでしょう」について語り合うこと。当コラムは、スポーツの話題にときどきカルチャーを織り交ぜて、「スポカル」。以後、おみしりおきを。

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