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【正木利和のスポカル】写真の“ノイズ”を「考えるアート」に昇華させた澤田華への期待

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映像で示した対象物
映像で示した対象物

 初めて澤田華(27)の作品を見たのは昨年の秋、神戸アートビレッジセンターの「ワン・フロア」という企画展だった。公募で選出された3人の有望な若手作家の作品を並べたもので「合目的的不毛論」というタイトルだったが、なかでも澤田の作品は、ひときわ現代的で目を奪われた。

 その作品は、こんな感じだ。

 古本で見たマイケル・ジャクソン主演のアトラクション画像の下部に小さく写っていた、得体(えたい)の知れない「もの」が気になった彼女は、謎の物体を読み解くため、形状やサイズ、色彩などを、あらゆる手段を使って追跡してゆく。

 たとえば画像を拡大して色彩を解析したり、同じような形状のものをインターネットの情報で調べて比較してみたり、画像のスケッチや立体化、さらには映像化にまで取り組んでいる。

 こうして「もの」の正体をさまざまな手法を使って追いかけ、得られた情報を蓄積し、最終的にはそれを画像や映像に構成して提示する。するとそこに不思議なアート空間ができあがっている。

 ほかの2人の作品が彫刻とかパフォーマンスだったこともあって、彼女のそれは実にクールだった。加えて、答えにたどりつけない、という拍子抜けの結末もまた、おもしろい。

 《カフカの小説「城」のよう》

 そのときの展評に、確かこんなことを書いた。

 以来、澤田という作家が気になっている。

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 京都・八坂神社のそばのギャラリー、「eN arts」で開催される「showcase #7 “写真とスキャン PHOTO&SCAN”」に、神戸のときと同じ「Gesture of Rally(ラリーの身振り)」というタイトルのシリーズ作品を発表する、と彼女から案内をもらった。

 新作への興味もあり、アポイントメントをとって京都に向かった。

 今回は古本の写真で見つけた、海外のオフィスの観葉植物の上に乗っかっている不思議な「もの」が調査対象になっているという。

 800円ほどで古本屋から入手した本をもとに、そこに写っている物ならオフィスであろうが木であろうが「解明できるものはすべて解明する」という姿勢で取り組み、前回同様、色彩を分析したり、形状から得られた情報をインターネットで調べ、さらに形状をデッサンしたり、立体化、音声化、映像化での検証も行っている。

 しかし、やはり今回も「もの」の正体はつかめないまま、ふわっと展示は終わっている。

 彼女の分析と検証を作品を見ながらたどってゆく鑑賞者は、「城」のなかの測量士Kのように、合理的に理解しようとして、かえってあてのない迷宮に運ばれてゆく。

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 澤田は京都市のサラリーマン家庭に生まれ育った。中学ではソフトボール部、高校時代は野球部マネジャーと体育会系に所属しているが、絵を描くことが好きで、母親が美大出身ということもあって、小さなころから美大に行く、と決めていたのだそうだ。

 京都精華大学ではマンガ学部カートゥーンコースへ進んだ。

 「絵本がやりたかったんです。でも、なじめなくて2年のときに版画に移りました。版画は木版、銅版、リトグラフ、映像、写真っていろんなことができるんです。立体だってある。ちょうど、絵が描けなくて、おばの古いカメラを借りて写真を撮り始めていたこともあって、3年で写真のゼミに入りました」

 「ほんとうは写真って前から興味のあるメディアだったんです。網点(あみてん)の集積で奥行きのあるものになるのが不思議でおもしろいから」

 2016年に同大学大学院芸術研究科博士前期課程を修了。昨年、「群馬・青年ビエンナーレ」入選、「第40回写真新世紀」で優秀賞を受賞するなど一躍、脚光を浴びた。

 なかでも、写真の不鮮明な細部を起点に分析・検証を繰り返しながらイメージの誤読を重ねることで「写されたもの」の認識を問う最近の「ラリーの身振り」シリーズは、高い評価を受けている。

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 その「ラリーの身振り」シリーズには、実は「過去」の事実である写真をもとに「現在」の問いかけを行い、その答えを保留することで、検証を「未来」につないでゆく、という構造が隠されている。

 澤田はいう。

 「写真を違うメディアに落とすとき、いろんな変化をさせるとき、それが確定していく感じになるんです。だから、それが何かわかっていくような気にもなるけれど、一方で思い込みにもつながる」「たとえばデッサンにしても自分が情報を足しているんです。あるいは偏見をあてはめている」「そこに怖さを感じます」

 事実の重みを重視し予断を排すために、彼女はあえてジャッジメントを避けているというのである。

 「いまの社会、何でもすぐに黒白をつけたがるじゃないですか。それが、やだなあと思うんです。たとえば両方が答えってこともありうるんじゃないか。無理にひとつにする必要はないのでは、と思うんです」

 じっと見ていると、彼女の作品から現代の若者たちの静かな不安の声が聞こえてくるような気もする。

 いま、母校で非常勤講師を務めている。「目の前のことをまじめにこつこつやることしかできないんです。いずれ次のシリーズも作らないと、と思っているんですが。目標ですか? とにかく美術を続けること」

 案外、その手でラリーの決着をつけに行くことで、もうひとつ新しい世界が広がるのではないか、と密かに彼女に期待をしている。

     ◇

 「showcase #7 “写真とスキャン PHOTO&SCAN”」は京都市東山区祇園町北側円山公園内の「eN arts」=(電)075・525・2355=で6月10日まで。ただし、開廊は金・土・日の12時~18時。

http://en-arts.com/hello-dear-friends/

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正木利和 正木利和 産経新聞文化部編集委員。大阪新聞から産経新聞社会部、運動部、部長を経て現職。運動部歴25年目となった秋、念願かなって美術担当に。好きなものは以下の通り。富岡鉄斎の絵、ジャランスリワヤの靴、よく墨のおりる端渓硯(たんけいけん)、勇敢なボクサー、寡黙な長距離走者、「水曜どうでしょう」について語り合うこと。当コラムは、スポーツの話題にときどきカルチャーを織り交ぜて、「スポカル」。以後、おみしりおきを。

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