産経WEST for mobile

【関西の議論】これがIT農業最前線…熟練の技をハイテクで伝承 名人の知識や経験も蓄積

記事詳細

これがIT農業最前線…熟練の技をハイテクで伝承 名人の知識や経験も蓄積

関西の議論更新

伝統の柿、ITで守る

 成さんが住む高島市今津町南深清水は柿の名産地。成さんは柿農家の2代目として約60年間、ほぼ1人で柿を栽培してきた。成さんが育てる富有柿(ふゆうがき)は「非常に甘い」と県内外にファンがおり、県果樹品評会で最優秀賞の「近畿農政局長賞」を受賞するなど高い評価を受けてきた。

<< 下に続く >>

 ただ、農業の先行きが不安だったこともあり、学さんに農園を継げとは強く言えなかった。学さんも大学卒業後はメーカーに就職し、電子機器のハードウエア開発に携わってきた。

 当初は関心がなかった農業。しかし、父は80歳を超えて足腰の衰えが目立ち始め、長時間の作業は難しくなった。そんな姿を見る中で芽生えたのが、何とか技術を継承できないかという思い。「おいしい柿、受け継がなあかんよ」。周囲からもそんな声を受け、遠隔から指導してもらうスマートグラスの使用を思いついた。

 「こんな機械使ってどうするんや」。学さんの発案に当初、成さんは戸惑った。成さんはパソコンを使うのは初めて。マウス一つ使うのも苦労したが「時代の波や」と考えを切り替えた。今では「便利。年寄りにはもってこい」と慣れた手つきでペンタブを使うようになった。

 学さんにとって、柿の作業は知らないこと、わからないことだらけ。現場で「わからへん」という学さんに、成さんは根気強くアドバイスを続けた。「作業中も離れていて顔を合わさない分、大げんかにはならずに済みました。機械が間に入ることで、人と人との衝突も起きない。それも遠隔指導のいい点」と学さんは笑う。

AI活用も視野

 「全国にも同じように困っている人たちがいるはず」。学さんは昨年9月、農業コンサルティングなどを行う会社「パーシテック」(京都市)を立ち上げた。

 今後、遠隔指導システムを「後継者育成プログラム」として各地で売り込みたい考えだ。既に、長野県のリンゴ農家が興味を示しているという。

 学さんの想定では、遠隔指導システムが軌道にのれば、広大な農園でも複数の作業グループに1度に指示を伝達できる。ゆくゆくは名人の技能や作業者のデータを蓄積して人工知能(AI)で分析し、作業者に指示を出せれば…と夢は広がる。

 学さんは「今までは、名人の勘と経験に頼ってきた。これからは技術や知識をビッグデータにして蓄積しないと、途絶えてしまう」と力を込める。経験と知識が豊富な高齢者の生きがいにもなり、若者にとっては「IoTを使うことで興味を示しやすいはず」とみる。伝承者、後継者の双方にメリットがあるとの自信もある。

 現在はドローン(小型無人機)で農地を空撮し野菜や果物の収穫状況を確認する仕組みや、温度や湿度、日照時間などの観測データを送信し、遠隔地から栽培を管理する実証実験を柿農園などで行っており、技術が確立すれば売り込んでいく考えだ。

 「農家の息子だからこそ、農家の方も売り込みをある程度受け入れてくれる」と学さん。柿農家と、IoTを使って農家を支援するコンサルタントという二足のわらじで活動を続ける。

写真ギャラリー

  • 柿農園で作業する学さんから送られてきた映像を見て、父の成さんが指示を出す=今年9月、滋賀県高島市
  • 事務所内で作業について話し合う水尾学さん(左)と父の成さん=今年9月、滋賀県高島市