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車いすで波打ち際に…課題山積〝海のバリアフリー化〟 神戸・須磨海岸で浮かんだ課題
関西の議論更新遠浅化工事の一部が終了し、砂浜が拡張された関西有数のビーチ、神戸・須磨海水浴場に、車いすやベビーカーで砂浜を移動できるビーチマットが新たに登場した。設置したのは、交通事故で下半身不随となった木戸俊介さん(31)=神戸市北区=らが立ち上げた「須磨ユニバーサルビーチプロジェクト」。車いすに乗って波打ち際に行きたい-という障害者の思いを実現させた〝海のバリアフリー化〟だ。今、週末を中心に波打ち際までビーチマットを敷いているが、〝ひと夏の体験〟を経て、脱衣場や介助者の確保など新たな課題も見えてきた。(小松大騎)
ビーチマットで海水浴場を満喫
神戸市による須磨海岸の遠浅化工事は阪神大震災以降の財政難で休止していたが、平成27年度から再開。今年5月、全長1・8キロのうち、西側部分で進めていたJR須磨駅前の約400メートルの区間の遠浅化工事が完了した。砂浜が約50メートル拡幅されて約80メートルと広くなったうえ、水深2メートルエリアも波打ち際から沖合約70メートルまで約2倍に拡張し、遊歩道も新たに整備した。
8月のある週末。車いすの障害者約20人が波打ち際で水遊びを楽しんでいた。
須磨海水浴場の一角に、遊歩道から波打ち際まで敷かれた青色の米国製ビーチマット。砂浜だと車輪が砂にとられ、自力での移動は困難で介助者にとっても重労働だが、マットの上なら簡単に移動できる。
脳性まひで、車いすを使用する奈良県大和高田市の高校2年、佐藤友香さん(17)は「海は気持ちよく、とても面白かった」とはにかむ。
付き添った母親の慶子さん(46)も「小学校低学年までは抱っこして海に入っていたが、最近は来られなかった。娘がうれしそうで連れてきてよかった」と喜んだ。
「目の前のバリアを乗り越える体験が、障害者の自信につながり、よりアクティブになれる。障害者が外に出ることで健常者との接点が増え、バリアフリーへの理解も深まっていく」
須磨ユニバーサルビーチプロジェクトの木戸さんはマットを導入した意義をこう強調した。
豪州で出合ったビーチマット
平成27年4月、木戸さんは東京都内の路上で交通事故に遭った。意識不明の重体で病院に搬送されたが、脊髄損傷などで医師から「一生、歩くことはできない」と告げられた。
激しく落ち込んだが、その後も献身的な看病を続けてくれた母親や妻の姿に奮い立った。リハビリを始めてから半年後には車いすの操作のほか、食事や着替えなどは1人でこなせるまでになった。
「再び歩きたい」という思いが募った。リハビリ医療が発達し、車いすでも日常生活が送りやすい豪州にリハビリ留学した。そのときに出合ったのがビーチマットだった。
場所は人気観光地として知られるゴールドコースト。遊歩道から海を眺めていた際、ビーチの真ん中に海辺まで一直線に敷かれたマットを見かけた。車いすで行けると知り、健常者と一緒にビーチで日光浴や水遊びを楽しんだという。
「海は眺めるもの」とあきらめていたが、マット一つで乗り越えられたことに感動した。そして、同時にこう思った。「同じような思いを抱えている障害者がいるはず」と。