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【経済裏読み】ビッグデータで人民をしつけ? 中国が向かうG・オーウェル『1984年』の恐るべき監視社会

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ビッグデータで人民をしつけ? 中国が向かうG・オーウェル『1984年』の恐るべき監視社会

経済裏読み更新

 ネットショッピングやローン返済の履歴など膨大な「ビッグデータ」を販売促進に生かす、というビジネスモデルは珍しくなくなった。さらに、それを市民の「しつけ」に使おうという政策が中国で始まった。あらゆる行動を監視して正し、社会の安定を図るという。まるでジョージ・オーウェルの小説『1984年』で描かれた世界だ。同作品中の象徴的なフレーズ「ビッグ・ブラザーがあなたを見ている」は現実になろうとしている。

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あらゆるリスクを回避するため

 「聞かれれば説明できる。わざとじゃないって」。中国・杭州市の地下鉄で子供のパスを誤って使った女性が、市民としての点数が下がることを心配する様子を、米ウォールストリート・ジャーナル(電子版)が伝えた。

 同市では「ソーシャル・クレジット」なるシステムが試行されている。市民の“足跡”となるデータを当局が収集し、格付けするというものだ。

 システムを試行している地域では、当局がどんな行いが格付けに影響するかを紹介しているという。犯罪や不正行為が減点対象となるのはもちろん、交通ルール違反、ごみを窓から投げ捨てるといった行為もアウトだ。格付けの低い人の実名リストを定期的に公表するケースもある。

 格付けが低くなればローンの審査やホテルの予約から就職、子供の入学、行政手続きなど幅広い分野で不利な扱いを受けることになるという。良い暮らしをしたければ「善き市民」でいなさい、というわけだ。

 習近平国家主席は昨年10月、「(政府が)あらゆるリスクを予測し、回避するための能力を高める」取り組みだと説明。2020年までに全国に広げる計画だが、データの収集、評価方法などはまだ確立されていない。

格付けアップのノウハウ

 「クレジット・レーティング」を上げたいなら、ネットショッピングではオフィス用にカーテンを注文し、カメラよりもスキューバダイビング用品を買うべき-。

 英フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版は、中国でこんな都市伝説が生まれたと紹介した。

 アリババ集団などネット通販会社は、顧客の好みや購入額などを分析して格付け(レーティング)し、管理に使っているとされる。スキューバダイビングが本当によいのかは不明だが、とにかくポイントが高い「優良顧客」になれば「善き市民」とみなされると信じられているというのだ。

 なぜ通販会社の上得意が善良な市民なのか。FTは、中国企業の持つデータと当局が「急速に接近している」との専門家の見方を紹介する。

 中国当局が全国民の情報を収集管理するのは容易ではない。技術面だけでなく、非効率な官僚主義や政府の各機関のシステムの互換性の低さが障害になる。しかし、データ蓄積を進める企業を中国共産党が従えることができれば、ハードルは下がる。

 優良顧客になれるような人は、社会への不満は小さいため変革を求めて安定を脅かす可能性が低く、当局の評価も高くなりそうだ。

「プライバシー」は知らなかった

 「(部屋に設置された)テレスクリーンは受信と発信を同時に行なう」「どんな音でもテレスクリーンが拾ってしまう」「音だけでなく、こちらの行動も補足されてしまう」

 オーウェルが『1984年』(早川書房、高橋和久訳)で描いた監視システムだ。支配政党の「ビッグ・ブラザー」は、テレビとカメラを兼ねたようなテレスクリーンという装置によるプロパガンダと監視、市民の密告で社会の「安定」を図る。

 各家庭にテレスクリーンを設置するには膨大なコストと手間がかかりそうだが、現代の中国は個人が受信と送信を自発的に行うネット社会となった。当局がネットを監視すれば、市民の言動を相当部分、捕捉できる。

 ウォールストリート・ジャーナル(電子版)によると、中国で販売される一般的な辞書に「プライバシー」を意味する言葉が掲載されだしたのは1990年代後半。その概念がまだ浸透していないのか、現地では喜々としてクレジット・レーティングを競い合う人たちがいるとの報道もある。

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