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【橋本奈実の芸能なで読み】米軍基地があるのは日常-ビートたけしも評価した沖縄出身・13歳デビューの仲村監督、5年ぶり長編

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米軍基地があるのは日常-ビートたけしも評価した沖縄出身・13歳デビューの仲村監督、5年ぶり長編

橋本奈実の芸能なで読み更新

映画「人魚に会える日。」 長いブランク、高評価のデビュー作に原因

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 子供は大人が思うより、大人という。日本の“イマドキの若者”もしかり。大人が思うよりも、ずっと深く社会を考えている。それを再確認したのが、映画「人魚に会える日。」だ。

 平成22年に「やぎの冒険」で長編映画監督デビューした20歳の現役大学生、仲村颯悟監督の5年ぶりの長編2作目。監督ら沖縄出身の学生スタッフとプロのキャストで作り上げた。仲村監督は「沖縄出身の僕たち学生が率直に思っていることが伝わる映画になった」とほほえむ。

 大きな話題を呼んだ13歳での監督デビューから、5年ぶりの新作。長きブランクは、高評価されたデビュー作にあった。県内で大ヒットし、国内外の映画祭にも招待され、ビートたけしからも評価を受けたが…。

 「あまりに反響が大きくて。誉められると同時に、中学生が撮ったんじゃないだろう、大人に利用された、とも言われ…。中学生だったので、その声に耐えられなかった。回りの目が怖かった」。ホームビデオで映像を撮るのが好きで、映画作りは「楽しい遊びの延長」だっただけにショックは大きく、映画から完全に離れてしまった。

 普通の高校生活を送り、慶應大学湘南藤沢キャンパスへ進学。「沖縄でもうやり残したことはないと思い、関東へ出たいと思ったんですけど、やっぱり海からは離れられない。大学より先に、場所で決めたんですよ」と笑う。

大人が絡まない作品 普通の現場ではありえないことが次々と…

 その大学生活で、衝撃を受けることに。沖縄では毎年各メディアが取り上げる“慰霊の日”(沖縄戦終結日)は、関東では何もない“普通の1日”だった。また、基地問題も反対と賛成の二極化でしか伝えられていないことに驚いた。

 「葛藤している人々が大多数なんですけど…。すごい温度差でした。ちゃんと沖縄のことを伝えたい。その表現法として、映画があると思い出したんです」

 まず同じ高校出身で東京に出て来ている友人に声をかけた。そこからSNSで沖縄出身の大学生スタッフを募集、各地の学生の宣伝スタッフへと輪が広がった。「現代の学生だからできた手法だと思う」と監督。資金は監督が「アルバイトで稼いだお金とデビュー作の貯金」でまかない、“大人”が絡まない作品に。「大人の声が入らないことで、僕ら学生が純粋に思っていることを好きなように描けたし、自由に構成にできたと思います」と振り返る。

 とはいえ、プロの現場を経験した監督以外のスタッフは初心者。トラブルは絶えなかったそう。「音声担当が寝坊してマイクが届かないとか。持ってくる衣装を間違えて取りに帰ることは何度もあって。普通の現場ではありえないことが次々に起こった」と苦笑い。

 そんな時、沖縄出身のプロのキャストの優しさを感じたという。ノーギャラで協力し、ひたむきに頑張る学生たちに何も言わず、笑顔で待ってくれていたという。「僕らはマイクのつけ方も知らないので。ここを通すといいよ、とか、一から教えてくださった」

 なかでも謎の女性を演じたミュージシャンのCoccoの出演は「この作品を作ると決めたときから、Coccoの言葉も使ってあて書きした」ほど熱望していた。前作の主題歌を担当してもらって以来、親しくする仲。出演依頼の手紙を書くと、すぐに連絡が来て「出る出る、マイレージ使って帰って来るさ」と言われ、ノーギャラはもちろん、自費で東京から沖縄に来てくれたという。

基地反対派が目をむくせりふも…政治的意味はなく

 物語は、14歳のときに書いていた脚本がベース。なかには反対派が聞くと驚くようなせりふも。「基地があるのは僕ら学生には日常なんです。だから政治的な意味はなく、普通に色々なことを話す。否定、肯定のどちらの意見も分かるし、分からないこともあることをきちんと伝えたかった」

 基地問題を扱ってはいるが、青春ドラマであり、怪奇ホラーでもある。それは屠殺(とさつ)を描いた前作同様、「どんなテーマもフィクションでエンターテインメント性を持たせて楽しく見てもらいたい」という監督の身上からだ。

 広報、宣伝費用はクラウドファンディングで募り、あっという間に目標の300万円が集まった。実は、まず県内の企業に協賛を求めたが次々に断られた。最初は「やぎの冒険」の仲村の2作目に対して企業は好感触を抱くが、基地の映画と知るとトーンが変わったという。

 「県内には色々なコミュニティーがありますから…。ただ、『個人的には応援したい』と言って下さった言葉に背を押され、クラウド-を思いついた。全国からの応援をもらい、自信になったので、今は良かったと思っています」

沖縄出身者として責任果たしたい

 前作同様、ラストは曖昧にした。「完結すると、観客を惹きつけるのは(上映時間の)93分だけ。見終わった後も、良い意味で、引きずってもらいたい。完結できる問題ではないから」。決して反対、賛成を問う話ではない。「まず、県民だけじゃない、国の問題だと思って、知って、考えること。若者ですらそう思っているってことを、この映画を通して、県外の方はもちろん、県の大人にも知ってもらえたら」と語る。

 沖縄を離れ、分かったこともある。「沖縄出身者として責任を果たせないといけないという気持ちが強くなった」。故郷の沖縄は自身にとって「簡単に好きと言える場所ではない」という。「適当さは島民の良さでもあり、ダメなところでもあるというのも見えてきた。離れた自分ができることをやっていきたい」

 何とも頼もしい。日本の未来に希望を感じた。

 関西では、大阪市中央区のシネマート心斎橋で3月26日から1週間限定で上映。26日上映後には監督のティーチンイベントも。

橋本奈実(はしもと・なみ) 橋本奈実(はしもと・なみ) 産経新聞大阪文化部記者。サンケイスポーツ大阪編集局運動部でゴルフやサッカー、同文化報道部で音楽、宝塚歌劇団担当などを経て現在、映画、歌劇などの取材を行っている。