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【衝撃事件の核心】「死にたい」は真っ赤なウソ あべのハルカス飛び降り騒動 自殺〝偽装〟男「迷惑度は300メートルより高い」

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「死にたい」は真っ赤なウソ あべのハルカス飛び降り騒動 自殺〝偽装〟男「迷惑度は300メートルより高い」

衝撃事件の核心更新

 高さ300メートルと日本一高い商業ビル「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区)の屋上で9月、飛び降り自殺騒ぎを起こした男が大阪府警に逮捕された。「開業以来初めて」(ビル関係者)という騒動を起こした動機を「仕事上のトラブルがあり、関心を集めようと思った」と語った男。自殺志願も虚偽だったようで、大阪府警の幹部は「男の迷惑度は、ハルカスの高さよりもはるかに高い」とあきれるしかなかった。舞台となったのは、屋上のヘリポートを見学する人気ツアー。騒動を受けてツアーは中止され、再開のめども立っていない。ハルカス近くにある大阪のシンボル「通天閣」も今冬、同様のイベントを計画しているが、関係者からはトラブルの〝再発〟を懸念する声も聞こえる。

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一方的に「死にたい」

 「今、ハルカスのヘリポートにいる。ここから飛び降りて死んでやる」

 秋の大型連休中の9月20日午後1時ごろ、一本の110番が大阪府警本部に寄せられた。

 電話の主は、奈良県桜井市の男(53)。耳を疑いそうな通報内容だが、声色から受けた印象では落ち着いた様子だった。捜査関係者は「状況との乖離(かいり)が大きく、違和感があった」と振り返る。

 間もなく阿倍野署員が60階の屋上ヘリポートに到着したが、男の姿はすでにヘリポートになかった。高さ約1メートルの柵を乗り越えて建物の端に移動し、外壁にしがみついていたという。

 「落ち着いてください」

 署員が必死に説得するが、男が聞く耳を持つ様子はない。「死にたい」などと一方的に話していたという。

 このころ、「万が一」の事態に備え、地上では大規模な警戒態勢が敷かれていた。

 ハルカスの屋上は地上300メートル。「あの高さから落ちれば、たとえ鉛筆1本でも体を貫通するくらいの被害が出る」(捜査幹部)という。府警は周辺に規制線を張り、通行人がハルカスの建物の下や周辺に近づかないよう呼びかけた。

 「大パニック」「ハルカスから人が飛び降りるらしい」。騒ぎを受け、短文投稿サイト「ツイッター」では目撃者が次々と写真などを掲載。騒ぎを聞きつけたやじ馬も集まった。

 観光客でにぎわっていたはずのハルカス付近は、にわかに物騒な雰囲気に包まれた。

「騒ぎ起こし関心を…」

 「飛び降り予告」から約2時間半が経過した同日午後3時半ごろ。署員の説得に応じる形で、男は外壁内側のはしごをつたい階下へ。待ち構えていた署員に身柄を確保された。

 熱中症とみられる症状があったことから、男はいったん病院に搬送されたが、大事には至らないと判明。診察後、同署が建造物侵入容疑で逮捕した。

 「飛び降りるつもりはなかった」。前代未聞の飛び降り騒ぎを起こした男は、自殺志願が虚偽だったことを認める供述をした。

 動機については「以前の勤務先での労災認定をめぐり、トラブルがあった。騒ぎを起こして関心を集めようと思った」などと釈明。騒動への対応を余儀なくされた警察側にとっては、許し難い話だったが、男は取り調べに深く反省した態度を示していたという。

 同署は逃走や証拠隠滅などの恐れがないと判断し、逮捕翌日の21日に男を釈放。任意での捜査を継続している。

人気ツアーの「盲点」

 男に「悪用」されたのが、ハルカスのヘリポートを見学するツアーだった。

 ハルカス展望台を運営する近鉄不動産などによると、ツアーはハルカス最上部のヘリポートを約30分間見学するという内容で、料金は500円。1回の定員は約35人。高さ300メートルのヘリポートからは、天候次第で京都市内や淡路島も肉眼で見ることができるため、昨年5月の開始以降、人気を集めていた。土日や休日はほぼ満員だった。

 もちろん、安全対策を怠っていたわけではない。ツアー中、スタッフは参加客に対し、柵に近づかない▽物を手に持たない▽かばんは体にかける-などと指示していたという。

 同署によると、男は事件当日の午後0時半からのツアーに1人で参加。屋上での記念撮影などが終わり、参加者が一列になって非常階段を降りていた際、最後尾にいた男がスタッフの制止を振り切り、柵を乗り越えた。

 男はツアー中に不審な動きをすることもなかった。とっぴな行動に「どうしようもなかった」(近鉄不動産の担当者)というのが実情のようだ。

 事件を受け、ヘリポートツアーは無期限中止に。近鉄不動産は、再発防止策が講じられるまでの再開はないとしている。

通天閣も〝便乗〟懸念

 高さ日本一のビルで起きた飛び降り騒動の余波は、ほかの観光名所にも広がっている。

 「おかしな行動を取る人が現れないことを祈るしかない」と懸念するのは、 年間約100万人が訪れる大阪のシンボル「通天閣」(高さ103メートル、大阪市浪速区)を運営する通天閣観光の西上雅章社長。通天閣では12月下旬、屋上に開放型の展望スペース「天望パラダイス」(約40平方メートル)がオープンする予定だからだ。

 同社によると、新スペースは現在の屋上部分に設け、円形のエリアの周囲を高さ約1・3メートルの強化ガラスで覆う。安全対策として営業時間中は警備員1人を常駐させるほか、エリア真下には、事故に備えた落下防止用のフェンス柵も備えるなどする。 

 一度に最大約30人が入場できるというが、1人の警備員が全ての来場者の行動に目を配るには限界がある。強化ガラスも、その気があれば簡単に飛び越えられる高さだ。西上社長は「お客さんの常識が大前提だ。関心をひこうと危ないことをされたら…。対応が難しいのが現状だ」と打ち明けた。

 「遮るガラスがない」「空が近い」と人気を集めるハルカスのような「開放型」イベント。関係者は「ハルカスで騒動が一度起きてしまった。いつ便乗騒動が起きてもおかしくない」と頭を悩ませている。