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【衝撃事件の核心】21歳ホスト「今月は死ぬ気で!」テキーラ一気飲みで死亡 〝極貧生活〟の悲哀にじむ「飲酒コール」ノート

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21歳ホスト「今月は死ぬ気で!」テキーラ一気飲みで死亡 〝極貧生活〟の悲哀にじむ「飲酒コール」ノート

衝撃事件の核心更新

 「今夜もきました! 素敵(すてき)な姫が ホストが届けるシャンパンコール 乾杯、乾杯、乾杯だ~!」。拍手と嬌声(きょうせい)がこだまする大阪・ミナミのとあるホストクラブ。コールにあおられて一気に飲み干したテキーラが、まだ21歳の若者の命を奪った。多量の飲酒で昏倒(こんとう)するような事例が相次いでいたのに、店側が安全配慮義務を怠ったとして、急性アルコール中毒で死亡したホストの男性の両親が、ホストクラブと経営者らに約8600万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。両親の手元には、男性が覚えようとした「飲酒コール」をいくつも書き連ねたノートが残され、なおさら悲哀がにじむ。一気飲みは業務か、自己責任か。

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5杯を一気直後…激しく嘔吐

 今から約3年前の平成24年8月1日午前6時。すっかり夜も明け、外に出れば出勤途中のサラリーマンに出くわす時間帯だ。ミナミのホストクラブでは、勤務を終えたホステスらをターゲットに、早朝営業の真っ最中だった。

 源氏名・流星=仮名=は4月にスカウトされたばかりの新人ホスト。この日は客に指名されたホストをサポートする「ヘルプホスト」として席についていた。

 訴状などによると、当時店内には2、3組の客がいた。そしてそれぞれの客同士、ホスト同士が競い合うように、飲酒コールが叫ばれ始めた。

 リズムに合わせて、ホストが次々に酒をのどに流し込み、客がうれしそうに追加の注文を出す。ヘルプの流星もコールに促され、アルコール度数が40度もあるテキーラを5杯、立て続けに一気飲みした。

 「気分が悪い」。流星は直後から同僚ホストに体調不良を訴え、激しく嘔吐(おうと)。店奥のボックスソファ席に倒れ込むと、すぐに眠り込んだ。営業中ということもあり、見かねた従業員が何度か流星を起こそうとしたが、一向に起きる気配はない。

 午前7時半ごろ、従業員が見ると、流星は顔面蒼白(そうはく)となり泡を吹いていた。慌てて人工呼吸をしたが反応はなく、同8時ごろ、現場リーダーが119番。病院に搬送されたが、間もなく死亡が確認された。死因は急性アルコール中毒だった。

姫と王子のシャンパンコール

 連絡を受けて市内の病院に駆けつけた流星の父親は、目を閉じたままもう起きることのない流星と対面した。

 「なぜ突然…」。ホストをしていたことも知らなかった。状況を理解できず、ただ涙にくれた。

 流星は3人きょうだいの一番上。父親は「お兄ちゃんだが、幼いころは、私の膝の上でごはんを食べるような甘えん坊だった。涙もろく優しい子だった」と振り返る。

 だが中学のころに反抗期を迎え、高校を中退した後は三重県の工場に就職。父親とは次第に疎遠になっていったという。

 明確な時期は分からないが、工場を1年ほどで退職し、大阪に戻ってバーなどのアルバイトをしていたようだ。

 息子の身に一体何が起こったのか。流星が肌身離さず持っていた手のひらサイズの小さなノートに、そのヒントがあった。

 開くと飲酒コールや接客時の会話の流れ、ホストの心得などが手書きでびっしりと書き込まれていた。懸命に仕事を覚えようとしていたまじめな一面がのぞいた。

 その内容からは、客に酒を購入させ、ホストがそれを飲み干すというパフォーマンスが、売り上げにおいていかに重要視されていたかが分かったという。

 ノートにたびたび出てくる「シャンパンコール」の文字。流星は「今日はシャンパンコールが全然ダメだった」「シャンパンコールをがんばる」と、反省や目標を記していた。

 客は「姫」、指名されたホストは「王子」と呼ばれる。流星のノートからコールを抜き出してみる。

 

 今夜のホストは絶好調!!(GO、GO、GO)

 シャンパン入って絶好調!!(GO、GO、GO)

 ミナミに響け!!

 Hey!(Hey)

 Ho!(Ho)

 1、2、3、オープン!(GO×12)

 今夜もきました!!(ハイ×3)

 素敵な姫が(ハイ×2)

 ホストが届けるシャンパンコール(ヤリます、魅せます、聞かせます)

 素敵な姫と素敵なホストに(乾杯×3だ~)

 一番姫様、グイグイググイと!!

 お次は王子がグイグイググイと!!

 

 父親の考えでは、一連のコールとはつまり、一気飲みの「ショー」だ。ホストたちはこのコールで場を盛り上げ、客に高価な酒を注文させるよう、店側から指示されていたという。

華やかイメージ裏腹…手取り3万円

 流星は亡くなる前月の7月初め、ノートに「今月は死ぬ気で!」と大きな字で目標を書き込んでいた。なぜそれほど焦っていたのかは分からない。ただ、金に困っていた様子はあった。

 夜な夜な大金が飛び交う華やかなイメージの強いホストクラブだが、新人ホストで固定客もそれほどついていなかった流星の生活は決して楽ではなかったようだ。6月の流星の給与明細をみると、支給額は約16万円で、控除後の手取り額はわずか約3万円だった。

 客がツケ払いで飲んだ「未収」は最終的にホストが責任を負うシステムだった。流星の「未収」はたまる一方で、ノートには(1)父親に頼み込む(2)ヤミ金(3)友達に借りる-と思いつく回収方法が記されていた。

 「死ぬ気で」と決意したその7月の飲酒量は、確かに尋常ではなかった。流星が7月6日、ある友人に送ったメールには「テキーラジョッキで5杯目突入やあ…」の記載が…。2日後に別の友人に送ったメールはさらに異常だ。

 「昨日焼酎の瓶ボトル一気した後、ハーフボトル一気して、さらにテキーラ祭りやったねん…さすがに死んだわ…」

労災は認められず

 「息子は家では酒をまったく飲まず、コーラや麦茶を好んでいた。酒は飲めない方だったのではないか」と父親は言う。だから、急性アルコール中毒という死因が余計受け入れられなかった。

 「好んで飲んでいたはずはない」。父親は息子の死後、盛り上げ役として接客中に飲酒(一気飲みも含む)することはホスト業務の一環だったとして、労働基準監督署に労災認定を申請したが、労基署には「過度の飲酒が業務でないことは当然」「業務から逸脱した行為だ」と一蹴された。

 両親は昨年7月、業務として大量の飲酒を伴う接客を指示・承諾したうえ、泥酔状態で寝ている流星を放置して死亡させたとして、店の経営責任者と現場リーダーの2人を業務上過失致死罪で大阪府警に刑事告訴。現在、府警による捜査が行われているという。

 さらに両親は今年7月、損害賠償請求訴訟も大阪地裁に提起。9月の第1回口頭弁論では店側が請求棄却を求め、争う姿勢を示した。父親は「本当はこんな訴えは起こしたくなかった。ただ一言、店側に謝罪してほしかった」とつぶやいた。

 追い詰められたホストの悲しきシャンパンコール。今夜もあちこちのクラブで王子たちが叫んでいる。