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【歴史戦WEST】慰安婦「強制連行」の否定がヘイトスピーチなのか? 法規制を求める市民団体「宝塚集会」への違和感

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慰安婦「強制連行」の否定がヘイトスピーチなのか? 法規制を求める市民団体「宝塚集会」への違和感

歴史戦WEST更新

 「慰安婦問題の解決を求める運動、ヘイトスピーチ(憎悪表現)を法規制しようとする運動、戦争法案を葬り去って憲法9条改悪を阻止しようという運動は一連のものだ」。兵庫県宝塚市で6月上旬、元朝日新聞記者の植村隆氏を招いて行われた講演会。参加者によると、会場内で主催の市民団体から会の趣旨がこう説明されたという。人種や民族を理由とした差別表現が許されないのは当然だが、市民団体の目的は「啓発」ではないようだ。告知チラシには、ヘイトスピーチの法規制を求めるとともに、慰安婦の「強制連行」を否定する主張とヘイトスピーチを結びつけるような文言がみられた。安易に法規制をすれば、歴史認識をめぐる正当な言論活動に対する「言葉狩り」につながりかねない-と懸念する専門家の指摘も現実味を帯びる。(竹内一紘、中村雅和)

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本紙取材を拒否

 植村氏を招待した今回の講演会「ヘイト・スピーチと日本軍『慰安婦』問題」を主催した市民団体は「ヘイト・スピーチに反対し、法規制を求める決議実行委員会」。

 告知チラシにはこんな趣旨の文言が書かれている。

 「拉致され、あるいはだまされて慰安所に監禁され、毎日大勢の軍人にレイプされた被害者…(中略)このような日本の加害事実にまっすぐ向き合おうとする人は、最近減っているのではないでしょうか?」

 「ヘイト・スピーチについては、悪いことだとわかる人が多いのに、『慰安婦』問題については、『悪かった』ことがわからないのでしょうか? 『悪かった』どころか『なかった』事にしたい人々の声が今の日本では大きいようですね!」

 「そしてこのような風潮が、ヘイト・スピーチを生み出しているのではないでしょうか?」

 ヘイトスピーチは平成24、25年ごろから、大阪・鶴橋や東京・新大久保で「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などによる街宣活動が激化したことで注目が集まった。

 京都市内の朝鮮学校周辺で「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「スパイの子供」などと拡声器で連呼した在特会の街宣活動について、1審京都地裁と2審大阪高裁が25~26年、「人種差別に当たる」として在特会側に対して、損害賠償と学校周辺での街宣禁止を命じ、最高裁が26年12月に在特会側の上告を棄却した。

 こうした司法判断を経て批判が強まったヘイトスピーチ。特定の人種もしくは民族への憎悪や差別意識をあおり、社会から排除するような過激な表現は日本人の美徳にも反し、理解が得られないのは当然だとしても、なぜヘイトスピーチと慰安婦問題をめぐる言論がつながるのか。真意を聞こうと、産経新聞はこの団体に取材を申し込んだ。

 しかし団体代表者の女性は、ヘイトスピーチの定義や慰安婦問題の認識について「チラシに書いていることを読めば分かるはずだ」と話し、「産経新聞がこれまでどんな報道をしてきたのか分かっているのか。話すことはない。当日も会場に入れるわけにいかない」と取材を拒否した。

植村氏の主張は…

 6月6日の講演会当日。宝塚市内の会場には、講演会への抗議活動を繰り広げる市民らが多数駆けつけ、兵庫県警が警備にあたるなど物々しい雰囲気に包まれた。本紙記者は会場で改めて主催者に取材を申し込んだが、入場を拒まれた。

 会場に入った複数の参加者によると、ヘイトスピーチの法規制を求める取り組みの説明に続いて、植村氏が登壇した。

 植村氏は韓国人元慰安婦の証言を初めて取り上げた元朝日新聞記者。3年8月11日付朝刊(大阪版)で、母親にキーセン(朝鮮半島の芸妓・娼婦)に売られた韓国人元慰安婦を「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』」と報道し、慰安婦問題が燃え上がる大きなきっかけとなった。

 記事にある女子挺身隊は戦時下に軍需工場などに動員された「女子勤労挺身隊」を指すが、慰安婦とはもともと無関係だった。

 朝日は26年8月の慰安婦報道検証記事で、多数の朝鮮人女性を強制連行したとする自称・元山口県労務報国会下関支部動員部長、吉田清治氏の「吉田証言」を虚偽と認め、昭和57年~平成9年の記事計16本を取り消すとともに、植村氏の記事についても「参考にした資料などにも慰安婦と挺身隊の混同がみられたことから、誤用した」と結論づけた。植村氏の記事は、12月に同社第三者委員会がまとめた報告書でも「強制的に連行したという印象を与えるもので、安易かつ不用意な記載であり、読者の誤解を招くものだ」と批判されている。

 参加者によると、植村氏は講演会で「私の記事に悪意はなかった」と強調した上で、慰安婦募集の強制性を認めた5年の「河野洋平官房長官談話」などを根拠に「歴史的事実である慰安婦問題を、なかったとする主張は民主主義への攻撃だ」と話したという。

 河野談話をめぐっては、当時の日本政府が政治決着を急ぐため、原案の段階から韓国側に提示、指摘に沿って修正するなど事実上、日韓の欺瞞的な合作だったことが本紙報道で判明している。

 会場で植村氏の講演を聞いた宝塚市議の山本敬子氏(65)=自民=は「自己弁護に終始した講演会だった」と指摘。さらに、同市の男性は「講演後の質疑応答で植村氏は『(慰安婦は)おそらく金をもらっていたと思う』と答えていた。報酬の存在を知っていたなら、なぜ『強制的に連行された慰安婦』という報道ができたのか」と疑問を呈した。

 市議の大河内茂太氏(44)=自民=は「植村氏の主張は『強制連行された慰安婦』の存在に疑問を抱くことは一切許されないというものに思えた」と話す。告知チラシに象徴されるように、主催団体が求めるヘイトスピーチの法規制のとらえ方についても「人種・民族差別に対する批判というよりも、むしろ、形を変えた〝反日闘争〟とすら言える」と、違和感を覚えたという。

日本人へのヘイトスピーチはスルー

 ヘイトスピーチの法規制をめぐっては、民主党などが5月下旬、「人種差別撤廃法案」を参議院に提出。都道府県議会や市町村議会でも法規制を求める意見書や請願が次々と採択されている。

 今回、くしくも植村氏の講演会が開かれた宝塚市でも、同様の請願が市議会で審議された。請願者には、講演会を主催した市民団体に加え、在日本大韓民国民団(民団)兵庫県宝塚支部や在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)兵庫県宝塚支部常任委員会、部落解放同盟宝塚市連絡協議会、自治労宝塚市職員労働組合なども名を連ねている。

 講演会に先立つ6月上旬に開かれた市議会総務委員会。「人種差別・民族差別をあおるようなヘイト・スピーチを法律で禁止するよう政府に要望する決議をあげること」を求める請願が審議され、請願者を代表して意見陳述した男性がヘイトスピーチを韓国・朝鮮人への差別問題と深く結びつけた主張を繰り広げた。

 男性は、北朝鮮が日本人拉致を認めた平成14年の「小泉訪朝」以後、朝鮮学校の生徒らを対象とした暴言や暴行が頻発するようになったと指摘。そして、こう続けた。

 「平成24年12月以降、インターネット上でも路上でも、それまでの暴言がヘイトスピーチとしてエスカレート、社会問題となってきた」「ヘイトスピーチはマイノリティーの心身を取り返しのつかないほど傷つけ、人生を破壊するほどの被害をもたらす。法的・歴史的に差別をなくす責任は日本政府にある」

 ただ、差別されるマイノリティーとして韓国・朝鮮籍の例を列挙する一方で、日章旗を燃やし、日本人への罵詈雑言を繰り返す日本大使館前の抗議集会や、本紙の前ソウル支局長が朴槿恵(パク・クネ)大統領への名誉毀損罪に問われた裁判で傍聴席から飛んだ暴言など、韓国による日本人へのヘイトスピーチに触れることはなかった。

 請願の審議では、保守系議員から「何が人権侵害やヘイトスピーチに当たるのか、定義があまりにあいまいだ」と疑問が呈された。最終的には「願意は妥当だが、実現性に疑問があると判断した」ことを意味する趣旨採択となった。

「人権擁護法案」との類似性

 ヘイトスピーチの法規制は、かつての「人権擁護法案」との類似点も指摘される。同法案は小泉政権下の平成14年に提出されて以降、繰り返し制定が検討されたものの、報道・表現の自由が侵害される懸念があるとして反対論も強く、実現にいたっていない。

 日本大法学部の百地章教授(憲法学)は「人権擁護法案は『不当な差別、虐待その他の人権侵害及び差別助長行為』を禁止するとしていたが、いかなる解釈も可能で乱用の恐れがある。表現の自由を保障した憲法21条への明確な違反だ」と語る。

 その上で「ヘイトスピーチも発言の受け手が差別と感じるだけで認められるのであれば同様だ」と指摘。「特定の立場や考えに対しての批判のみが問題視される懸念がぬぐえず、政治的発言を狙い撃ちにした『言葉狩り』にもなりかねない。単に人権擁護法案が名前を変えただけと評し得る動きだ」と警鐘を鳴らす。

 慰安婦の強制連行はなかった-。こんな正当な言論までヘイトスピーチとレッテルを貼られ、封殺される社会は、自由や民主主義から最も遠いものだろう。安易なヘイトスピーチ法規制に向けた動きには注意が必要だ。