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【衝撃事件の核心】卑劣ひき逃げでっち上げ犯 被害者役と目撃者役の2人一組 計算し尽くした「場所」「演出」「狙い」の巧妙手口

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卑劣ひき逃げでっち上げ犯 被害者役と目撃者役の2人一組 計算し尽くした「場所」「演出」「狙い」の巧妙手口

衝撃事件の核心更新

 「あなたさっき、人をはねましたよ」。車を運転していて突然こう告げられたら、どうだろうか。身に覚えがなくても、うろたえてしまうかもしれない。ましてや、それが「ひき逃げしたでしょう」という追及だったとしたら…。そんな心のすきをついた悪質な「当たり屋」の犯行が発覚した。大阪府警吹田署は3月3日、2人一組で被害者役と目撃者役を演じて「ひき逃げ事件」をでっちあげ、時計が壊れたなどと偽って現金をだまし取ったとして、詐欺容疑などで「被害者役」を演じた大阪府摂津市内の無職男(23)と「目撃者役」だった同府吹田市内の男子大学生(23)を逮捕、送検したと発表した。府警の捜査員は「悪質かつ巧妙」と指弾。その理由は、用意周到で計算された2人の手口にあった。

「自分、ひき逃げやで」

 平成26年8月31日午前0時25分ごろ。大阪府吹田市垂水町の狭い一方通行の道路で、同市在住の男性会社員(35)は赤信号のため車を止めた。すると、1人の男が車に近寄ってきた。

 「自分、ひき逃げやで」

 「被害者」という男はこう告げると、さらに付け加えた。

 「警察呼んだらやばいやろ」

 「被害者」はおもむろに腕時計を取り出す。文字盤のガラスが割れている。

 「この時計は定価で買ったら120万円もする。おれは75万円で買ったけどな。すぐに金を払うなら75万円でこの件は済ますけど、払われへんのやったら、警察呼ぶか、120万円払うか、どっちかやで」

 これだけなら、単なる言いがかりだと冷静に受け流せたかもしれない。しかし、ここでもう1人の男が登場する。現場道路で車を止めて車内にいたという「目撃者」だ。

 「目撃者」も会社員に追い打ちをかける。

 「(自分の車の)ドライブレコーダーには事故の様子が写っている。もう逃げられないよ」

 被害者に加え、目撃者にも「ひき逃げ」だと指摘された会社員は、コンビニに立ち寄り、ATM(現金自動預払機)で30万円を下ろす。このときすでに「目撃者」はいなくなっていた。現金を受け取った「被害者」は、「足りない分は後日でええわ」と言い残し、立ち去った-。

 これが、府警の捜査で明らかになった2人組の「当たり屋」による詐欺事件の一部始終だ。

 このケース以外にも2人は犯行を重ねていたといい、複数の被害届を受けた府警は捜査に着手。そして今年1月19日、この会社員の事件で2人を逮捕した。

細い道でペットボトルの衝撃音

 府警は、2人が吹田市や大阪市で、同じ手口で計4件の犯行(被害総額約120万円相当)を繰り返したとして逮捕、送検。ほかにも8件(同70万円相当)の余罪があるとみて調べを進めているが、捜査の過程で明らかになったのは、2人の用意周到さだ。

 まずは「ひき逃げ現場の創出」。

 2人は、幅員が狭く、ガードレールなどで歩道と車道が区別されていない道路を犯行現場に選んでいた。いかにも歩行者と車がぶつかってしまいそうな道幅で、ひき逃げ事件をでっち上げても不自然ではないからだ。

 2人はここに策を施す。

 道路上の「ここ」と決めたポイントに、あらかじめ目撃者役の大学生が乗り込んだ車を路上停車するのだ。細い道路はさらに通りにくくなり、そこを車で通過しようとする運転手は、止まっているこの車にぶつからないよう、車がある側に注意を奪われてしまう。

 これで舞台は整った。

 2つ目に重要だったのは、事故の「演出」。

 車が路上停車していて通りにくい道路を進む乗用車は、自然と、車がいない側の注意がおろそかになる。被害者役の男は、警戒心が弱まっているそちら側から乗用車に近づくと、手に持っているペットボトルを「ガシャ」とドアミラーなどにぶつける。

 乗用車のドライバーにとって、「何か音がしたかな?」と頭に引っかかる程度の破裂音。これが大きな衝撃音であれば、驚いたドライバーが車を降りて周囲を確認するだろう。そうなると、ひき逃げ事件をでっち上げるという目的が達成できなくなる。

 絶妙の音量。それにペットボトルであれば、手に持って道路を歩いていても何ら不自然ではない。

 ターゲットにされたドライバーはわなにはまり、現場を立ち去ってしまうのだ。

高級車、大型車は避ける

 ペットボトルを乗用車にぶつけた被害者役の男は、ご丁寧に、車内に待機していた目撃者役の大学生に助けを求める演技もしていたという。

 そして、大学生の車に同乗すると、ドライバーを追いかけ、冒頭の事件のような「脅し」をかける。ちなみに、「壊れた」と弁償を求めるのに使っていた自称120万円で購入した腕時計は、スイス製高級腕時計の模造品だったことが、府警の捜査で明らかになっている。

 ところで2人は、手当たり次第に犯行を繰り返していたわけではなかった。ターゲットは慎重に選別していた。

 まず、高級車や黒塗りの車は避けた。

 高級車は、「ぶつかった」と言いがかりを付けてもかえって高い修理代を請求されてしまいそうだし、黒塗りの車は、「怖い人たち」が乗っている可能性が高いと考えたのだという。

 また、車内に複数人が乗車していると、ドライバーを動揺させたり脅したりできないので、同乗者が乗っていそうな大型の車やファミリーカーも敬遠した。狙ったのは、比較的小ぶりな乗用車ばかりだった。

 手の込んだ2人の犯行。だが、やはり見破られることもある。どうするか。すきを見て、一目散に逃げていたのだという。

過去には「偽統括本部長」も

 「当たり屋」は決して珍しい犯罪ではない。

 大阪府警では、旭署が2月、詐欺容疑で住居不定の無職男(55)を逮捕。男は、液晶画面が壊れた携帯電話を持って自転車に乗り、車にわざと衝突。ドライバーに「けがはたいしたことないから、携帯の修理代を払ってくれ」と要求し、1万円をだまし取るなどした。

 また、曽根崎署が25年に同容疑で逮捕した50代の無職男は、演出にこだわりを見せた。相手にうそを信じ込ませるため、大手住宅メーカーの名刺や社員証を偽造して用意。実在しない「統括本部長」を名乗り、ドライバーに「駐車場の入り口で車に当たり、特殊な眼鏡が壊れた」と持ちかけていた。

 ある府警の捜査員は、それらの事件と比べても、今回のケースを「悪質だ」と指摘する。

 「単なる事故をでっち上げただけではなく、相手をひき逃げ犯にも仕立てあげた。いきなり『あんたは犯罪者』だと言われ、目撃者という証人まで用意されたら、動揺して正常な判断ができなくなり、金をだまし取られるとしても仕方がない」

 詐欺事件に詳しい立正大の西田公昭教授(社会心理学)も「巧妙だ」と語る。

 「人間は最初に大きな要求を突きつけられると、譲歩する形で提示された次の要求を飲んでしまいやすくなる」とした上で、今回の事件では「ひき逃げ犯呼ばわりされた後に数十万円の現金を要求されれば、現金を払うことが軽い行為に感じてしまう」という状況に当てはまると解説する。さらに「突然犯罪者と言われれば、早くトラブルを解決したいと考える心理も働く」とも。

 2人がこんな手口を思いついた背景には、どんなことがあったのだろうか。

 答えは実に単純なもので、被害者役の男が以前、実際に車とぶつかって携帯電話が壊れ、修理代として現金数万円を手にしたことがあったという経験からだったという。