産経WEST for mobile

【歴史戦WEST】「第二の侵略」竹島の日条例に押し寄せた韓国メディア、日本は「友好」口実に及び腰…島根県議会〝孤高〟は国を動かすか

記事詳細

【歴史戦WEST】「第二の侵略」竹島の日条例に押し寄せた韓国メディア、日本は「友好」口実に及び腰…島根県議会〝孤高〟は国を動かすか

更新

「竹島の日」記念式典の会場に到着した元島根県議の上代義郎さん。10年前、超党派の「竹島領土権確立島根県議会議員連盟」事務局長として「竹島の日」条例制定に尽力した=2月22日、島根県松江市 アワビやサザエの豊かな漁場で知られた竹島(島根県隠岐の島町)を韓国が一方的に領海水域に組み入れたのは昭和27年。以降、竹島返還に向けた交渉は進展せず、韓国の不法占拠が続く。日本政府が「歴史的にも国際法上もわが国固有の領土」としながらも、韓国との関係悪化を避けるため事実上、放置してきたとの見方は強い。膠着(こうちゃく)状況を打破しようと島根県議会が平成17年、県への編入を告示した(明治38=1905年)2月22日を「竹島の日」とする条例を制定、今年で10回目を迎えた。竹島を「独島」と呼び、「日帝の韓国侵略」の象徴ととらえる韓国は歴史認識と絡めて条例制定に猛反発し、当時は韓国メディアが押し寄せて「第二の侵略」と騒いだ。日本政府や多くのメディアも友好を口実に及び腰で、条例を積極的に支持しなかった。有形無形の圧力に屈しなかった島根県議会の動きを改めて振り返ると、国家主権にかかわる領土問題、そして歴史認識で日本と日本人がとるべき「凛とした姿勢」を感じる。(歴史戦WEST取材班)

意見書採択重ねても「なしのつぶて」

 平成14年10月、島根県議会に超党派の「竹島領土権確立島根県議会議員連盟」が発足した。当時の県議41人中40人が名を連ねた。この年の夏、韓国が竹島を国立公園に指定する動きがあるとの報道が伝えられたほか、隠岐の漁業者から問題解決を望む声も高まり、議員としても看過できないと動き出したのだ。

 当時、議連事務局長を務めた元県議、上代(じょうだい)義郎さん(79)は「国は竹島問題にあまりにも無関心だと感じた。韓国との交渉を求めても腰が重かった」と振り返る。

 県は竹島が韓国に不法占拠されて以降、国への重点要望として、竹島の領有権確立を求め続けた。50項目ある要望のうち、1項目に挙げるのは竹島問題だったが、国からの回答はいつもないに等しかった。議会として問題解決を求める意見書の採択を20回以上繰り返し、国に出し続けても、「なしのつぶて」だった。

 地方には外交権がないため、直接的に韓国側に働きかけることはできない。しかし、問題を放置すれば風化が進み、国際社会で時効が成立したとみなされかねない-。上代さんらは政府を動かすために、国民の関心を高める啓発活動が必要だと考えた。

 その手段として浮上したのが「竹島の日」の制定だった。

 同じく外国に不法占拠されている北方四島については、国は北海道と一体となって返還運動に取り組み、政府が2月7日を「北方領土の日」と定め、式典に首相や閣僚も出席している。

 「北方領土の日があるなら、竹島の日があってもいい。竹島の日も政府が制定すべきだが、政府が動くまでのつなぎとして県議会が制定しようと考えた」

 竹島の島根県編入100年に当たる17年の3月議会での提案に向け、上代さんらは16年秋から条例案作成に取りかかった。

 竹島の日は2月22日に決めた。「編入の県告示があったのが2月22日。政府が竹島の領土編入を閣議決定したのは1月28日。県の条例ならば、2月22日がふさわしい」

 当時は「少々騒がれるかもしれないが、やるしかない」との認識だった。しかし、反響は想定していた規模をはるかに超えた。

県警の特別警護対象に

 17年3月、県議会で条例案の審議が始まると、日ごろは静かで落ち着いた松江の町は喧噪(けんそう)に包まれた。

 条例制定に反対する韓国側の民族団体に加え、日本の民族団体も押し寄せ、街宣車100台以上が県庁周辺でそれぞれの主張を展開した。日本側の団体は制定を歓迎するものばかりではなく、「なぜ竹島の日を(政府が閣議決定した)1月28日にしないのだ」と県議会に抗議する動きもあった。団体同士の衝突や不測の事態に備え、県警は厳戒態勢をとった。

 3月16日に予定されていた県議会本会議に先立つ10日、県議会総務委員会で条例案が可決されると、松江市から南西約30キロに位置する雲南市三刀屋町の上代さんの自宅には連日、韓国メディアが押し寄せた。

 「午前6時ごろから取材に来た。記者たちの口調は穏やかだったが、『独島』は韓国の領土なのになぜ条例をつくるのか、今、両国の友好関係は保たれているのに、なぜ日本の領土にしようとするのか、と詰め寄られた」

 当時何社が取材に来たのか思い出せないほどの取材攻勢だった。条例制定に対する韓国側の関心は高く、反発は強硬だった。韓国メディアは条例制定を「第二の侵略」と伝え、県と姉妹都市関係にあった韓国・慶尚北道は断交を通告してきた。

 学校教育で繰り返し「独島は韓国固有の領土」と教え、さまざまな場で「日本は1905年、韓国の外交権を剥奪する渦中にこっそりと独島を自国領土に組み入れた」「領有権を主張する日本は帝国主義時代の過ちを反省していない」などと歴史認識と絡めて日本を攻撃する韓国。条例制定に対するメディアの怒りは国民共通の思いなのだろう。

 3月16日に県議会で条例案が可決された後もしばらく、上代さんには万が一に備えて県警の特別警護がついた。

日韓友好「重視」の日本メディア

 日本のメディアでも、両国の友好にひびが入りかねないと危惧(きぐ)する社は少なくなかった。

 当時の全国紙の社説をみると、日韓友好を踏まえながらも日本固有の領土と明確に主張する産経、読売と、領土問題よりも日韓友好に重きを置く朝日、毎日などのグループに大別できる。地方紙を含むと後者が多数派だった。

 なかでも朝日の論説主幹(当時)は3月27日付のコラムで「例えば竹島を日韓の共同管理にできればいいが、韓国が応じるとは思えない。ならば、いっそのこと島を譲ってしまったら、と夢想する」と書き、議論を呼んだ。

 上代さんによると、日本政府も条例制定には冷淡な態度だった。当時は小泉純一郎内閣で、日韓国交正常化から40年を迎える「日韓友情年」。両国でさまざまな文化交流行事が予定されていた。また、核開発を進める北朝鮮に対して足並みをそろえてきた日米韓の結束が乱れかねない、という安全保障上の懸念が渦巻いていた。

 条例可決前、町村信孝外相(当時)の秘書官から大臣名で県議会にファクスが届いた。韓国内で起きた抗議活動などを列挙した文書だった。上代さんは「頭から湯気が出た」というほど怒りを覚えた。議会側への具体的要望は記されていなかったが、暗に慎重な対応を求める意図を感じたという。

 一方、全国から県議会などに寄せられた激励の電話やファクスは5000件を超えた。「想像以上の騒ぎだった」と困惑を覚えたことも確かだった。

「長期的視点」が〝棚上げ〟に…

 上代さんは条例案可決後、政府要人への説明や陳情に追われた。

 特に印象深いのが当時、日韓議員連盟会長だった森喜朗元首相との面談だった。韓国との交渉を求めて面会すると、「竹下さんが会長の時にできずに、おれの時につくったのか」と苦笑された。

 森氏が言及した「竹下さん」とは、島根県出身で日韓議連会長を10年務めた竹下登元首相だ。平成12年に死去した竹下氏は竹島問題の決着より、両国の友好関係を重視していたという憶測もささやかれる。産経新聞社のデータベースで検索しても、竹下氏が竹島の領有権確立に向けた発言をした形跡は見つからない。

 しかし、竹下氏の地元秘書を務めた男性は「あり得ない」と反論する。「竹下氏の存命中に竹島問題が進展しなかったことと、竹下氏の竹島への思いが弱いという憶測を結びつけることがナンセンス」と言い切り、竹下氏は「長期的視点」で問題解決を目指していたと説明する。

 ただ、この長期的視点が県側には「竹島問題の棚上げ」と映り、議会が反旗ののろしとして条例制定に至ったのも事実だ。実際、県議らの行動は国を少しずつ動かし始めた。

 文部科学省は20年、竹島を初めて領土問題として盛り込んだ中学社会科の新学習指導要領解説書を公表した。外務省や国土交通省も、竹島問題の情報を国内外に積極的にアピールするようになった。

 そして今年の2月23日には、菅義偉官房長官が記者会見で、竹島の領有権問題に関し、「国際司法裁判所(ICJ)への提訴も含めて検討、準備を行っているところだ。種々の状況を総合的に判断した上で、適切に対応していきたい」と述べるなど、政府の姿勢に前向きな変化も兆す。

 22日、松江市内で開催された10回目の竹島の日記念式典。今年も県が求めた首相と関係閣僚の出席は見送られ、3年連続の内閣府政務官の派遣にとどまった。念願の政府主催にもなっていない。式典に出席した上代さんは政府の対応に歯がゆさは残るとしつつも、こう期待を込める。

 「これからの10年に向けて、政府はさらに韓国との交渉を進めてほしい。一日も早い竹島の領有権確立はわれわれの悲願だから」

【用語解説】竹島と竹島の日

 島根県・隠岐諸島の北西約160㌔の日本海にあり、2つの小島と岩礁からなる。日本は江戸時代初期から漁労地として利用し、明治38(1905)年1月に島根県への編入を閣議決定。これを受け、県は2月22日に編入を告示した。ところが、韓国の李承晩大統領が昭和27(1952)年に領海水域として「李承晩ライン」を一方的に設定し、竹島も組み入れた。韓国は29年から竹島に警備隊を常駐させて不法占拠を続けている。島根県は編入の決定・告示から100年の節目となる平成17年に条例で2月22日を「竹島の日」とすることを定め、翌年から毎年、県主催の記念式典を開催している。日本政府は竹島について「わが国固有の領土」として国際法による平和的な紛争解決を求めているが、韓国は「領有権をめぐる紛争は存在しない」として応じていない。

ランキング