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【関西の議論】「在特会から逃げた」「あるまじき言動」…橋下氏、得意の「論戦」で負ったイメージダウン

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「在特会から逃げた」「あるまじき言動」…橋下氏、得意の「論戦」で負ったイメージダウン

関西の議論更新

 大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長が、得意とする「論戦」で逆風を受けている。「勘違いするなと言ってやる」と意気込み、今月20日、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の桜井誠会長との面談に臨んだが、感情的ともいえる罵声(ばせい)を浴びせたり、相手の質問をかわして明確に答えなかったりする姿が目立ち、イメージダウンにつながったのだ。インターネット上には「在特会から逃げた」といった書き込みが集中。市役所にも「公職としてあるまじき姿だ」などと批判が殺到し、辞職を求める声まで上がった。「ふわっとした民意」をすくい取る感情的な文言と論理を駆使した論戦の強さで世論の支持を集め、「維新人気」を牽引(けんいん)してきた橋下氏。求心力低下を印象づけた今回の面談は、来春の統一地方選の行方にも影を落としかねない。

最強タフネゴシエーターの最強テクニック?

 「最後に思わずYESと言わせる最強の交渉術」。こう銘打たれた本が平成15年、日本文芸社から出版された。著者は「弁護士 橋下徹」。示談交渉でヤクザらと対峙(たいじ)する中で交渉ノウハウを体得したとし、カバーの著者紹介では「茶髪の弁護士」だったころの顔写真の下に「タフネゴシエーター」(手ごわい交渉人)の文字が躍る。

 《感情的な議論をふっかけて交渉の流れを変える》

 本の後半にこんな記載がある。交渉の流れが不利なときに使うテクニックで、感情的な言葉を相手にぶつけて議論を荒らす。そして、《最後の決めゼリフにもっていく。「こんな無益な議論はもうやめましょうよ。こんなことやってても先に進みませんから」》。

 「お前みたいな差別主義者は大阪にはいらない」「うるせぇ」「勘違いするな」…。今月20日、市役所地下1階の会議室。橋下氏は向かい合って座る在特会の桜井氏と激しく言い合う中で、感情的な言葉をぶつけた。ヒートアップした様子の桜井氏が橋下氏に近づくと橋下氏も立ち上がり、周囲の警察官らが一斉に制止に動いた。

 在特会による在日韓国・朝鮮人批判を問題視する橋下氏は怒気をはらんだ口調で「(在日韓国・朝鮮人に関係する)制度に文句があるなら国会議員に言え」と主張。桜井氏から「われわれがヘイトスピーチ(憎悪表現)をしたというなら日付を言ってくれ」などと質問を繰り返され、明確に答えない場面も目立った。

 開始から10分弱で事務方に「もう終わりにしましょうか」と言い、面談を打ち切った。動画中継や報道を見た人たちがインターネットに書き込んだ評価は辛辣(しんらつ)なものが目立った。

 「橋下完敗!」

 「明らかに逃げてるな」

「失言リスク回避」「準備不足」専門家の見方は…

 翌朝、橋下氏は記者団の前で荒れた面談を「予定通り」と強調した。

 「彼らの宣伝に使われないように彼らの主張だけを一方的に述べさせないように、応対の仕方、打ち切りの仕方を考えながらやった」と〝戦略〟を披露してみせ、在特会に対して「政党代表、市長として意見を聞いたのだから在日韓国人に対する直接的な言葉による攻撃はやめてもらいたい」と求めた。

 今回の面談について専門家はどう見ているのか。

 NPO法人「全国教室ディベート連盟」理事長の藤川大祐・千葉大教授は「あれ以上話すと失言のリスクが高くなる。打ち切りはベストな判断だ」と語る。

 面談のテーマは在特会のデモの内容。「桜井氏は当事者だからデモの細かい話まで知っているので強い。橋下氏は細かい話で揚げ足を取られることを避けた。だから失言はなかった」と分析。「妙な言質は取られていないので、首長、政党代表として政策を遂行していく上でのマイナスポイントはなかった」と、手堅さを解説した。

 一方、佐藤綾子・日本大教授(パフォーマンス学)は「橋下氏は面談に向けての構えが足りなかった」と指摘する。面談では桜井氏が橋下氏の発言を印字して持参したのに対して、橋下氏は手に資料などを持たずに臨んでいた。

 「桜井氏は事前に調べているから強い。橋下氏はほかにも山のように仕事を抱えているからシミュレーションをしていなかった印象を受ける。こういうときはケンカ腰にならず、桜井氏の気持ちを軟化させる必要があった」

 面談の動画がネットにアップされていることにも着目。「世間の人はおもしろがってリピートする。『けんか腰なのに警備に守られている』という印象を与え、特に若者の支持は得られない」とみる。

 さまざまな角度から分析する佐藤氏、藤川氏だが、いずれも面談の意義自体には「面談ではなく書面のやり取りで十分」(佐藤氏)、「成果はなかった」(藤川氏)と手厳しい。

統一選前の〝敵失〟 他党は歓迎

 市には面談終了直後から数日にかけて電話やメールが殺到し、その数は千件を超えた。「公職としてあるまじき姿だ」といった批判が大半を占め、「謝罪するべきだ」「辞職しろ」と求める声もあるという。

 「だいたいは『市長にお伝えしておきます』と言えば矛を収めてくれますが、『一般常識としてどう思うんだ!』『トップの発言について職員としてどう思うんだ!』と追及されることもありました」。電話対応に追われた職員は疲れた様子で振り返る。

 橋下氏は「僕がやろうとしていることは間違っていない。言葉遣いが駄目なら僕を落選させればいい」と批判を受け流すが、他党の在阪関係者からは来春の統一地方選前の〝敵失〟を歓迎する声も上がる。

 自民党の大阪市議は「あまりに品性に欠け、市民にとっては受け入れられない光景」とイメージダウンを指摘。共産市議も「『橋下さんでは駄目だ』と考え、維新支持から離れる市民は絶対に増える」と断言し、自党支持への取り込みをねらう。

 「橋下ファン、維新支持者は橋下代表の性格は織り込みずみだから、マイナスにはならない」。維新関係者は他党の思惑をはねのける。維新幹部も「統一地方選への影響は全くない」と述べたが、続けてつむいだ言葉からは不安感ものぞく。

 「市長としての面談であって、維新代表としての面談ではない」

 橋下氏は著書の中で交渉人としての矜持(きょうじ)を記している。

 《私は交渉のラストには相手方と握手を交わすことにしている。(中略)完全な解決に至ったということを意味している》

 握手なき在特会側との交渉は、橋下氏が思い描く解決につながるのだろうか。

 【用語解説】橋下徹市長と在特会の面談

 デモで民族差別などをあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)を問題視する橋下氏が7月、在特会のデモについて「表現の自由を超えたひどいもの」などと批判したことがきっかけとなり、面談の場がセッティングされた。在特会と反対派グループが対立していることなどを踏まえ、大阪府警の警察官や市職員が警備と警戒に当たった。