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【関西の議論】「天橋立」×「宇治茶」、世界文化遺産登録へ“京対決”つばぜり合い

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【関西の議論】「天橋立」×「宇治茶」、世界文化遺産登録へ“京対決”つばぜり合い

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 富士山の世界文化遺産登録に続き、和食が無形文化遺産に登録され、さらなる世界遺産登録への期待が高まる中、「古都京都の文化財」に続く世界文化遺産登録を目指し、京都府内で「宇治茶」と「天橋立」がつばぜり合いを繰り広げ始めた。平成19年、文化庁に世界文化遺産候補への登録を申請し、ギリギリのところで落選した「天橋立」に対し、後発の「宇治茶」の登録に向け、府が昨年、9月補正予算に関連経費を計上するなど追い上げムードが高まっているのだ。文化庁も「珍しい」という同一都道府県内でのライバル関係。いずれも、登録に向けた課題は少なくないが、勝負の行方はいかに。

景観でメシを…

 「景観でメシを食えるようにしましょう」

 「宇治茶」の世界文化遺産登録に向けた会議で、そう力強く訴えたのは、府などが招いたアドバイザーの1人、京都工芸繊維大の清水重敦准教授だ。

 世界文化遺産に詳しい清水准教授は、世界文化遺産になっているワインの産地、フランス・ボルドーの「サン・テミリオン地域」を例に挙げ、「景観全体の価値をワインの価値、ブランドの価値にできている」と指摘するなど、登録の効果を強調した。

 「宇治茶」の世界遺産登録に向けた動きが始まったのは、23年のことだ。

 京都府農政課が中心となって「日本茶・宇治茶の世界文化遺産登録可能性検討委員会」を立ち上げ、手探りの中で検討を開始。24年には「日本茶文化の代表的資産群~宇治茶と喫茶文化の発祥と継承の地~」とのコンセプトをまとめた。

 委員会の名称も「登録可能性検討委」から「可能性」を削って「登録検討委」に変更、本格的に提案を目指す決意を込めた。

 昨年8月の登録検討委では、より現実的な路線を選び、喫茶文化などは除き「日本茶のふるさと 宇治茶生産の景観」と対象を絞った。

発祥地の「強み」と「弱み」

 宇治茶生産地が広がる宇治市周辺には、日本緑茶(煎茶)の製法が生まれた宇治田原町があるほか、高級茶の代名詞でもある玉露は宇治が発祥地。抹茶の原料であるてん茶も多く作られ、古くからお茶の流通業が栄え、製茶会社も多いことがセールスポイントだ。

 世界文化遺産登録の前段として、宇治茶の生産地などを、国の重要文化的景観(重文景観)に選定されるよう活動を始めることを決定。府の9月補正予算では、重文景観の選定に向けた計画などの費用として200万円が盛り込まれただけでなく、宇治橋の景観補修費などとして8千万円の計上も認められた。

 「宇治茶」関係者は意気軒高だ。昨年11月19日には、宇治市にある府山城広域振興局で「日本茶のふるさと『宇治茶生産の景観』広域調整会議」を立ち上げ、25年度中に暫定リスト入りを目指す文化庁への提案書を作成することを改めて確認した。

 ただし、大きな課題もある。実は、茶葉生産量が圧倒的に多いのは静岡県で、京都府全体でも生産量は全国の3%程度にすぎない。和束町などの山間部には、昔ながらの美しい茶畑の景観が残り、日本緑茶や玉露の発祥の地という伝統は揺るがないとはいえ、この「3%問題」は一つのネックだ。

「天橋立」はひと足早く重文景観に

 一方、世界文化遺産登録に向けた活動を19年からスタートさせ、活動面では先輩格にあたる「天橋立」。25年11月に、府内で2例目の重文景観に選定されることが内定し、停滞気味だった地元にとって久々に明るいニュースとなった。

 約8千本の松並木と美しい砂浜が特徴で、年間約260万人の観光客が訪れる日本を代表する景勝地「天橋立」。その世界文化遺産登録に向け、地元の商工会議所や青年会議所が「天橋立を世界遺産にする会」を発足させたのは、19年12月のことだ。

 有識者らを招いて周辺の歴史的意義をアピールするシンポジウムを定期的に開催したりするなど、地道な取り組みを続け、同会の個人会員は昨年8月には5千人を超えた。

 しかし、府は19年、「天橋立 日本の文化景観の原点」とのテーマで、世界文化遺産登録の前提となる文化庁の暫定リスト入りを申請したが、20年に見送られた。そして、リスト入りには「普遍的な価値をもった、内外に比類のない白砂青松であることを示す」といった高い課題が設定された。

 暫定リスト候補約30件の中では、今も「最上川」(山形県)や「四国八十八箇所」など4件とともに、最も暫定リスト入りに近いカテゴリーには入っているものの、「文化庁がいつ、再提案を受け入れてくれるかがわからない」(府文化芸術振興課)のが実情だ。

 それだけに今回、重文景観に内定したことで、同会事務局を兼ねる宮津市企画総務室の担当者は「停滞していたムードに明るい兆しがみえた」と喜ぶ。

 市内の観光業者らが市民に呼びかけて毎年末に実施する恒例の「迎春天橋立一斉清掃」。昨年は12月8日に行われたが、「重文景観」効果もあったのか、観光客らも含め、昨年より200人多い約1100人が参加し、遊歩道に落ちた松葉や海岸の漂着ごみなど約12トンを回収した。

 主催した「天橋立を守る会」の中井元副会長(70)は「地域一体で『白砂清松』のイメージを守りながら、近い将来の世界遺産登録の実現を信じて待ちます」と意気込んだ。

同志かライバルか

 宮津商工会議所会頭で、天橋立を世界遺産にする会の今井一雄会長は「ユネスコの無形文化遺産に和食の登録が決まり、味覚というキーワードを持つ『宇治茶生産の景観』も一層、注目度が高まった」と分析。

 その上で「同じ京都府。互いに啓発イベントで協力するなど共同戦線で世界遺産登録を目指せばいい。でも、運動自体は天橋立が早かったので、やはり常に先行したいという気構えも大事」とライバル心ものぞかせる。

 政府は現在、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に対し、群馬県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」を推薦。今年1月には「九州・山口の近代化産業遺産群」も推薦する。これら推薦分も含めて暫定リストには12の地域が登録されている。

 文化庁は「ユネスコへの推薦は、今の暫定リストから選ぶことにしている」としており、新たな登録に向け公募を行う予定は、現時点ではない。

 府茶業会議所(宇治市)の西口勝巳常務理事は、「宇治茶は宇治茶。天橋立は天橋立。世界遺産に値するかどうかは、全体の中での判断になるので、私どもは私どもで800年あまり培ってきた文化を守り、景観をきちんと整備し、宇治茶を盛り上げることに努力していきたい」と話している。

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