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【ビジネスの裏側】200年新幹線へ「アンチエイジング」、JR東海が世界に誇る“魔法の最先端技術”

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【ビジネスの裏側】200年新幹線へ「アンチエイジング」、JR東海が世界に誇る“魔法の最先端技術”

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 来年50歳を迎える東海道新幹線で、今月から開業以来最大規模の改修工事が始まった。老朽化を食い止める「若返り工事」で、あと100~150年は寿命が延びるという。過去10年間に培った研究成果をもとに、JR東海は世界で唯一の技術を盛り込む。加えて列車を平常通り運行しながら大規模補修に挑むという過去に例のない取り組みだ。世界最年長の高速鉄道・東海道新幹線で行われる「アンチエイジング」の効果のほどは。

錆びるなら真空で防げ…史上最大の作戦

 琵琶湖を臨む大津市瀬田。「新幹線史上最大」(JR東海)の若返り作戦は、この地に立つコンクリート高架橋から始まった。

 地響きを立てて通過する新幹線を支える高架橋を見上げると、数十メートルにわたって、土台部分が真新しい鋼板で覆われている。柱にも鋼板が巻かれているほか、側面の防音壁も一新されていることが分かる。

 「過去に例がない工法です」と、JR東海の工事担当者は胸を張る。コンクリートに鋼板を巻いただけでは…と素人目には思えるが、なにしろ世界唯一の工法。科学的知見をもとにした独創的な工夫がふんだんに盛り込まれている。

 鉄筋コンクリートのはく落は、内部の鉄筋の腐食が原因。コンクリートを空気にさらさなければ防げる。それならばコンクリートを「真空パック」にしてしまえ、というのが今回の工法の発想だ。パックを確実にするよう、樹脂材を挿入して隙間を埋める。

 覆う素材に鋼板を用いた点もポイント。コンクリートの強度は鉄筋の厚さで決まる。鋼板巻きは、新たな鉄筋の挿入と同等の効果が得られるという。補強前に比べ、鉄筋の量は最大9倍に増えることになる。

既存設備を最大限に生かせ

 瀬田以外の地点でも「へぇー」と思わせる技術がふんだんに。鉄橋の補強では、間隔を空けずに枕木をびっしりと敷き詰める。隙間をなくすことで、列車の重量負担を分散させる。力がかかりやすい鉄橋の鋼材のつなぎ目には、補強部材を取り付ける。

 新幹線のコンクリート構造物はあと15年程度で鉄筋の腐食が進むとみられるが、今回の補修で「ほぼ半永久」に、鉄橋も150年はもつという。

 不具合が出た部分を直すのが通常の補修工事とすれば、今回は異常が出る前に「予防」しようという珍しい試みでもある。関雅樹・新幹線鉄道事業本部長は「不具合が起こる前に改修する方が、結果的にはコスト安」と話す。

 JR東海が大規模改修構想を発表したのは平成14(2002)年。総工費1兆971億円、平成30年から着手の予定だった。鉄橋を新たに架け替えたり、トンネル内壁の全面に鋼板を貼り付けたりする大がかりな計画で、期間中は運休が発生する見込みだった。

 しかし、1日40万人が利用する大動脈のストップは、日常生活、経済活動への影響が大きい。研究施設で実物の高架橋や鉄橋を使った実験と研究を重ね、設備の取り換えをしなくても同等の効果が得られる補強方法を編み出した。工費も7308億円に圧縮、改修の5年前倒しにこぎつけた。

元気な「老人」

 「今後着工する整備新幹線ならば、腐食しにくい鉄筋を使い、柱も太くするなど建設時点で新しい技術を取り入れることが可能だ。50年前に建設が終わった東海道新幹線ならではの方法を模索する必要がある」と工事担当者は話す。既存構造物を最大限生かした補強方法は、その努力の産物だ。

 昭和39(1964)年の開業以来、乗客の死傷事故ゼロを続け、近年では年間の1列車当たりの平均遅延時間が36秒という驚異的な運行を誇る東海道新幹線。平成7年の阪神・淡路大震災では、震災発生から3日で不通区間の運行を再開した。

 平成21(2009)年に起こったマグニチュード6・5の駿河湾地震でも、ほぼ並行して走っている東名高速道路では一部のり面が崩落する一方で、異常はほとんどなかった。日常の点検・補修で、老齢ながら意外に「強い」体をもつ。

 高度成長期を支えた日本の高速交通の代表選手は、最新科学で「永遠」の若さを手に入れるか。若返り工事は10年後に完了する。

(内山智彦)

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