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【「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記】宣言延長で「七夕開幕」か…待っているのは「球界常識」通用しない世界

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昨年のゴールデンウイーク、甲子園球場は阪神のサヨナラ勝ちに沸いた=2019年5月5日、兵庫県西宮市(松永渉平撮影)
昨年のゴールデンウイーク、甲子園球場は阪神のサヨナラ勝ちに沸いた=2019年5月5日、兵庫県西宮市(松永渉平撮影)
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 七夕開幕が実現しても球界の赤字額は600億円なり!? 阪神も超緊縮財政の中で風雪に耐えなければなりません。新型コロナウイルス感染拡大で出されていた緊急事態宣言が1カ月延長される見通しとなりました。日本野球機構(NPB)の井原敦事務局長は新たなシーズン開幕日について「延長になった後の会議(11日の実行委員会)で議論されると思う」と話しましたが、目標としていた6月19日開幕は絶望的です。現段階では7月3日、7日、10日が有力候補ですね。しかし、“七夕開幕”が実現しても試合数は143→100未満&無観客開催→間引き入場制限で、球団経営は破滅的な減収です。全ての“球界の常識”が覆るかもしれません。

6月開幕は絶望的

 世界に蔓延する新型コロナウイルスは日本球界をも危機的な状況に追い込んでいます。安倍晋三首相は全国を対象に出していた緊急事態宣言を1カ月延長することを決断しました。当初は5月6日までだった制限期間は6月初旬まで延長されることが確実です。密集、密閉、密接の3密を防ぐ対策はさらに継続となったのです。これによってプロ野球も選手が集まって練習することが不可能になり、当然の流れとして当初は3月20日だったシーズン開幕日もさらに大幅延期となることが確実となったのです。

 宣言期間の延長を前に、NPBの井原事務局長は「延長された場合にどうするかは、延長になった後の会議で(12球団で)議論されると思う」と説明していました。斉藤惇コミッショナーも緊急事態宣言の期限が5月6日という前提では「連休明けくらいに開幕日を決めたい」と話していましたが、実際に延長されたことで6月19日開幕というプランは絶望的。先行きの見えない状況では、11日の実行委員会でも議論は交わすものの、開幕日を正式決定するまでには至らないでしょう。

 ただし、6月初旬の宣言解除を前提にした開幕日の想定は必要で、ある球界首脳によると新たなシーズン開幕の候補日は7月3日、7日、10日などになるようです。最短でも7月3日とは…。もう野球ファンの気持ちを考えるとつらい、寂しい、面白くない…。本当にイヤになりますね。

 しかし、プロ野球界はNPBや12球団の経営者全てが野球ファンに夢と希望を与えるために必死で前を向き、さまざまな困難を乗り越えてシーズン開幕を実現すべく努力を積み重ねていますね。ただの1球団も「今季はシーズンをしなくてもいい」などと考えたこともないでしょう。ある球界首脳は「これは先の大戦以来の危機的状況だ。ある意味、戦争状態と言えるかもしれない。でも、全員で乗り切るしかない」と眉間にしわを寄せていました。

超間引き入場制限の衝撃

 そんな球界関係者をおびえさせるつもりは毛頭ありませんが、たとえ7月7日の七夕開幕が実現したとしても、その後に球界を待ち受けるのはすさまじい状況です。

 「球界全体の赤字額は600億円以上…」

 ある球界首脳は衝撃的な金額を漏らしたのです。

 あくまでも単純計算でザックリ感はありますが、数字(金額)を試算してみましょう。まず試合数は七夕開幕でも143→100未満となるでしょう。一部では「野球協約がシーズン成立条件に定める年間120試合(ホーム60試合)の消化は必要」という声がありますが、実は12球団代表者会議では「こうした非常事態では野球協約を尊重した上で臨機応変に対応する」というコンセンサスを得ていて、必ずしも120試合以上にこだわっていません。試合数が激減する上に、シーズン当初は無観客試合で行うことも12球団で決定しています。

 さらに段階的に観客を球場に入れる際、行われるのが超間引き入場制限です。ある球団首脳に聞くと、20%か30%という数字が漏れてきます。この数字は強烈です。20%か30%を割り引いた入場者数なのか?と思ったら全く違うのです。全体の収容人員の20%か30%しか入れないという意味なのです。

 例えば、甲子園球場なら収容人員は4万7466人ですね。これの20%なら約9400人です。広島カープの本拠地マツダスタジアムなら3万3000人なので20%で6600人ですね。例えは悪いかもしれませんが、昔の在阪パ・リーグ球団の閑古鳥が鳴くスタンドを連想してください。これでは観客を入れても収益は上がりません。試合を行う上でナイター照明代に、各ゲートに配する球場関係者やガードマン、場内販売店の人件費、グッズ・飲食の搬入費などで、試合をしても損益はマイナスでしょう。

 まだまだあります。チームは大所帯で遠征します。ホテル代や交通費もかかります。在阪パ・リーグ3球団(阪急・近鉄・南海)の親会社が全て球団を手放したのは、経営が立ち行かなくなったからです。超間引き入場制限は今季の12球団にかつての在阪パ・リーグ3球団と同じ経営環境をつくってしまうのです。

年俸にも手をつけるしか

 たとえシーズンが開幕しても球団の収入は破滅的です。そして、各球団には選手の年俸問題が大きな負担となって重なります。先週のコラムでも書きました。12球団の年俸総額は401億3210万円(推定)です。球団別では、1位はソフトバンクの65億2680万円、2位が巨人の43億円、阪神は32億円で、12球団で一番少ない千葉ロッテでも24億7590万円ですね。大体、12球団の年俸を平均すると30億円を少し上回る感じでしょうか。

 これに必要経費や試合をするごとに増えていく収支のマイナスを加算すれば1球団の年間の損益は約50億円の赤字。12球団で合計するなら約600億円の赤字となるのです。12球団の総額年俸401億円を超える金額となりますね。

 先週のコラムでは阪神の選手たちを含めたプロ野球の選手たちの前途に「大幅な年俸削減の嵐」がやってくると書きました。「覚悟が必要だ」と…。確かに野球規則では減額制限がありますね。元の年俸が1億円以下なら25%、元の年俸が1億円を超える場合は40%で、制限以上の減俸を行う場合は戦力外通告と同じ期間内に選手の同意を得る必要があります。

 しかし、球団経営が約50億円の赤字となれば、オーナー会社は全体の赤字額の半分以上の金額となる選手年俸に手をつけるしか残された道はありません。野球協約はあくまでも「平時」を想定して作られたものです。先の球団首脳が言う「戦争状態」となれば、野球協約を度外視した考え方も浮上するでしょう。これは阪神球団とて同じです。つまりこれまで錦の御旗だった“球界の常識”が通用しない世界が待っているのです。

 なので今季の残りの年俸を大幅カットに出るのか、さらに12月に行われる契約更改で来季の年俸を大幅削減するのか…。球団側は生き残りをかけて選手と対峙するときがやってきます。阪神も同じです。風雪に耐えて、球団を存続させるためには泣いてもらうところは泣いてもらう…しか残された道はありません。経営者にとっても選手たちにとっても厳しい状況が待ち受けています。

 それでも選手たちには一刻も早く野球を愛するファンのためにグラウンドで懸命にボールを追う姿を見せてほしいですね。厳しいことばかりを書きましたが、そんな背景があったとしても野球界のスター選手たちは全国の人々に夢と希望を与えてほしいですね。その日がやってくることを願ってやみません。

     ◇

 【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや)

 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。ラジオ大阪(OBC)金曜日午後9時からの「週末ワイド“ラジオ産経”」(http://www.obc1314.co.jp/bangumi/san/)での『サンスポのスポーツよもやま話-軍師と鬼筆の野球が好きだ!』のコーナーや、土曜日午後7時45分からの「まさと・越後屋のスポーツ捕物帳!」(http://www.obc1314.co.jp/bangumi/okini/)に出演中。「サンスポ・コースNAVI」(http://www.sanspo.com/golf/tokushu/golf-t24944.html)ではゴルフ場紹介を掲載、デジタルでも好評配信中。

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