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【スポーツ茶論】三塁手と遊撃手の境界線はあるか 北川信行

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年間100回以上の講演をこなす奥村さん=兵庫県宝塚市の宝塚ホテル(南雲都撮影)
年間100回以上の講演をこなす奥村さん=兵庫県宝塚市の宝塚ホテル(南雲都撮影)

 楽しい仕事とは、何だろう。楽をして稼げることだろうか。仲良く和気あいあいとしている職場を指すのか。それらは「楽しさ」をはき違えているのではないか。

 なぜ、こんなことを書いているのかというと、今年初めに本紙大阪夕刊の「一聞百見」で取り上げたNPO法人ベースボールスピリッツ理事長、奥村幸治さんの話に触発されたからである。奥村さんはプロ野球のオリックス時代にイチローさんの専属打撃投手を務め、「イチローの恋人」と呼ばれた人物。その後、米国留学を経て中学生の硬式野球チーム「宝塚ボーイズ」を結成した。教え子には米大リーグ、ヤンキースの田中将大選手がいる。カル・リプケン12歳以下世界少年野球大会で日本代表監督を務め、2011~13年に3連覇も達成した。

 裏方としてイチローさんに親しく接した体験や、子供のころの田中選手を指導した経験を生かして講演活動を始めると、たちまち人気を呼び、今では講演回数は年100回以上。少年野球の選手や指導者にとどまらず、会社の経営者が集まる会合にも講師として招かれるようになった。確かに「イチローの哲学」(PHP文庫)「超一流の勝負力」(SB新書)などの著書を読むと、ビジネスにも通じる点が多々あるように思う。

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 そんな奥村さんに、日本の少年野球の現状についてどう思っているのか尋ねた。子供たちの野球離れに危機感を持っている奥村さんから返ってきたのが「今の子供や親は、『厳しく』よりも『楽しく』を優先している気がします。しかも、楽しさの意味をはき違えているのではないでしょうか」との答えだった。

 奥村さんの主張はこうだ。

 「野球を始めるときに、楽しければいいねん、というノリでチームを選ぶ子供や親が多い。誰でも楽しく野球をしたいでしょう。でも、(米大リーグで活躍する)大谷翔平君やイチローの言う『楽しい』は意味合いが違うんですよ。彼らの楽しいは、努力して達成する楽しさ。達成できていないことに挑戦しよう、自分を極めようという楽しさなんです。そこが混同されている。仕事でも共通しています。楽しいだけでは、成果は得られないじゃないですか」

 その上で、奥村さんは「本当の本質。野球を通じてどういうものを身に付け、学んでいくのかということを忘れてほしくない。(少年野球の経験を)楽しくプレーできたらいいという、それだけのものに終わらせてほしくないんです」と強調した。

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 では、どうやったら大谷選手やイチローさんと同じ「達成する楽しさ」「挑戦する楽しさ」を理解してもらえるのか。ポイントは、目標設定にある。「夢は高く、目標は手の届くところで」というのが、奥村さんの考え方だ。

 もうひとつ、「野球」と「仕事」の話を紹介したい。三遊間に飛んだ打球を誰が処理するか-がテーマ。

 「三塁手が捕れなかったら、遊撃手がカバーする。遊撃手も捕球できなければ、左翼手がバックアップする。仕事もそう。役割は決まっているけど、役割の境界線ってないだろ。三塁手と遊撃手の境界線ってあるか。ないやろ。仕事もそう。誰かができなかったら、会社がいい方向に向かうために助け合うんや」

 経営者向けの講演会で参加者から聞いた話を奥村さんは、少年野球の子供たちに「こういうことを身に付けよう」と教えているのだという。ぜひとも「楽しさ」の違いが分かる大人に育ててほしい。

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