【車いすバスケ】40分間プレス敢行 格上イランに競り勝ち自信「メダル近づいた」

 車いすバスケットボールの男子日本代表は、40分間の過酷なプレス・ディフェンスをやりきり、世界4位のイランを相手に勝利を収めた。東京パラリンピックにおける、悲願のメダル獲得が現実味を帯びてきた。

 男子日本代表チームの強化と他国との親善を目的とした国際大会「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP 2019」が、8月29日~9月1日まで、東京都調布市の武蔵野の森総合スポーツプラザで行われた。日本代表の各選手らは東京パラリンピックに向けた課題を見つけ、他国の選手らと友好を深めた。

 昨年の世界選手権3位のオーストラリア、同4位のイラン、同9位の日本、同14位の韓国の4カ国が参加。日本は、昨年の「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP」で優勝しており、連覇を目指して4日間で4試合を戦った。初めの3日間で行われた総当たり戦では、韓国に1勝、オーストラリアに1敗、イランに1勝し、得失点差で3位決定戦に進出。3位決定戦で韓国に勝ち、3勝1敗で3位の結果となった。

オーストラリアの選手に抱き起こされて、お礼の握手をする鳥海連志選手
オーストラリアの選手に抱き起こされて、お礼の握手をする鳥海連志選手
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 世界3位のオーストラリアには敗れたものの、4位のイランに競り勝てたことは、東京パラリンピックでメダルを狙う日本代表にとって一里塚となる快挙。大会を通し、高い得点力でチームを牽引した大黒柱の藤本怜央選手(35、クラス4.5、宮城MAX)※は、「世界3位のオーストラリアにイランが勝ち、そのイランに日本が勝った。確実にパラでメダルを手にできるよう、この1年で実力を積み上げてきたい」と東京パラリンピックを見据えた。

※(年齢、クラス分けの点数、所属チーム)の順、以下同様。

韓国に快勝で勢いづいたが…

 初日の韓国戦は、12人全員が出場し、65-42(10-7、20-8、20-12、15-15)と大差をつけて快勝したことで、今大会の天王山となる翌日のオーストラリア戦に向けて、よいスタートを切れた。

 第1クォーター序盤から、藤本選手が3連続で得点を決め、韓国を突き放した。第2クォーター以降も、勢いに乗った日本は一度も逆転されることなく安定した試合運びを見せた。

シュートを放つ村上直広選手(左)
シュートを放つ村上直広選手(左)
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 この日は、若手スコアラーの村上直広選手(25、クラス4.0、伊丹スーパーフェニックス)が18得点をマーク。また、「自分の仕事はリバウンド」と力を込める宮島徹也選手(30、クラス4.0、富山県車椅子バスケットボールクラブ)が6リバウンド、6アシストと存在感を示した。

 健常者のバスケットボールでもゴール下は“戦場”と例えられるほど、選手同士の激しいぶつかり合いが展開される。車いすバスケにおいても変わらず、リバウンダーはボールが落ちてくる前にポジションを確保するべく競り合っている。オフェンスでも積極的にリバウンドを取りに行った宮島選手は、「車いすを相手の車いすに当てて方向を変えるなど、細かい部分で工夫をしている」と明かした。

ボールを持つ宮島徹也選手(左)と走る赤石竜我選手(一番右)
ボールを持つ宮島徹也選手(左)と走る赤石竜我選手(一番右)
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 日本代表の及川晋平ヘッドコーチが「一番の成長株」と期待を寄せる、日本代表最年少の赤石竜我選手(18、クラス2.5、埼玉ライオンズ)が第4クォーター終盤にミドルショットを決めた。及川ヘッドコーチは「(赤石選手は)今年は伸びどころ。成長を引き出せれば、鳥海(連志選手、20、クラス2.5、パラ神奈川スポーツクラブ)を超える2.5の選手になる」と期待を寄せる。

 鳥海選手は、ガードのポジションでボール運びをこなしながら、ハーフコートオフェンスでは、相手ゴール下に体をねじ込むカットインなどで積極的に得点を稼ぎ、大会を通じて会場のファンをうならせた。

世界3位の壁厚く

 2日目、満を持して臨んだオーストラリア戦は60-77(16-21、13-14、16-18、15-24)で完敗した。

 試合開始14秒でエースの香西宏昭選手(31、クラス3.5、NO EXCUSE)が鮮やかな3ポイントシュートを決め、会場を沸かせた。試合は序盤から日本が得意とする早い展開の勝負に持ち込んだが、オーストラリアの高さのあるシュートチェックに阻まれ、思うように得点を伸ばせない時間帯が続いた。

 一般的にローポインター(クラス2点台以下)の選手は、ハイポインター(クラス3点台以上)の選手に比べて体幹がしっかりしておらず、シュート成功率が下がるといわれる。日本は、オーストラリアのローポインターにシュートを打たせるように仕向ける作戦を採った。だが、彼らの得点力は想像以上に高く、苦しい展開を強いられた。

 さまざまなメンバーの組み合わせを試して突破口を探ったが、8点ビハインドで迎えた第4クォーター中盤で崩され、大きく点差が開いた。前日の韓国戦とは違うスターティングメンバーで試合に臨んだ及川ヘッドコーチは「(エースの)香西一人に頼っては、メダルに届かない。夏の合宿でコンディションが良かったメンバーを起用した。ディフェンスはダントツによい組み合わせだったが…」と振り返った。

 試合後、藤本選手はオーストラリアのヤニック・ブレア選手の活躍について「ローポインターの選手が果敢にゴール下に潜り込みシュートを決めると、相手チームが勢いづいてしまう」と触れた。

 クラス1.0のヤニック選手は、この日9点をマーク。背が低いヤニック選手だが、ローポインターながらゴール下でのシュートが多く、背の高い選手に囲まれても間隙を縫うようなボールさばきで得点を重ねた。

 ヤニック選手は「ボールをキャッチしてからシュートまでを短くするための練習に力を入れている。だから、大きい選手でも僕を止められない」と自身のプレーに言及。ゴール下でフリーとなる場面が多かったことについては、「チームメートのブレット・スティーブナーズ選手と、スクリーン(体を張って相手ディフェンスの動きを制限し、味方プレーヤーの動きを助けるプレー)を使ってフリーの状態を作っている」と明かし、日本代表については、「親しみを感じている対戦相手。これからもよいライバルとして関係を築いていきたい」とした。

オーストラリアのヤニック・ブレア選手(左)
オーストラリアのヤニック・ブレア選手(左)
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手応えと勝ち星得たイラン戦

 3戦目のイラン戦は、63-57(15-15、17-16、15-14、16-12)と実力が拮抗した相手との試合を制した。だが、決勝戦進出条件である15点差をつけることは叶わなかった。

 イランがオーストラリアに勝ち、オーストラリアが日本に勝ったというこの日までの戦績と得失点差から、日本が決勝戦に進出して再度オーストラリアと対戦するためには、この試合で15点以上リードして勝つことが条件だった。

 条件付きの勝利を迫られた日本は、40分間プレス・ディフェンスをかけ続けることを選択。プレス・ディフェンスとはディフェンスの選手がオフェンスの選手に積極的にプレッシャーを掛けに行き、相手陣地に押し込むようにボールを奪いに行く戦術。攻撃的だが体力の消耗が激しく、選手への負担が大きい。香西選手は「やり続けることができた。苦しい試合だったが、勝ててよかった」と安堵の笑みを浮かべた。

 この日、40分間のプレスに大きく貢献したのは、川原凜選手(22、クラス1.5、千葉ホークス)。40分間フル出場し、背が高いハイポインターをがっちりマーク。相手選手に思うように移動をさせず、インサイドでプレーさせないことで、イランが得意とする高さを使った攻撃を阻止し続けた。

ハイポインターにマッチアップする川原凜選手(左)
ハイポインターにマッチアップする川原凜選手(左)
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 試合後のヒーローインタビューでは「動き回れることがウリ」とした川原選手は、「相手にとって嫌なプレーをやり続けることを意識した。最後まで心を切らさず、『勝つ』という気持ちを持ち続けた」と答えた。普段の生活では食事に気をつけており、体幹を意識して鍛えているという。

 相手の動きを阻止するテクニカルなプレーについて、「相手の目を見て、何を考えているか、次にどうしたいかを先読みし、コースに入るようにしている」と話し、激しい接触プレーでも、ファールを取られにくいことについては、「体幹を鍛えて自信があるので、コンタクトの際に自分の体が車いすから飛び出さず、相手の体に被さらない。体格のよい選手にぶつかられても、コンタクトの瞬間に少し車いすをずらしてショックを和らげている」と明かした。

 第3クォーターでファールを受けながらもシュートを決めるバスケットカウントのタフショットを決め、続くフリースローもしっかり決めて、試合の流れを引き寄せた若手ガード、古澤拓也選手(23、クラス3.0、パラ神奈川スポーツクラブ)は「イランに、(今大会開始直前の)練習試合も含めて、2回勝てたというのは大きい。メダルには一歩一歩近づいている」と好感触を得ている。

ゴール下に切り込んだ古澤拓也選手(右)
ゴール下に切り込んだ古澤拓也選手(右)
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 最終日の韓国戦は50-36(13-8、10-12、11-8、16-8)と、危なげない試合運びで勝利を収めた。試合終了後、両チームの選手は相手の肩をたたき合い、互いの健闘をたたえた。

互いの健闘をたたえ合う日韓の選手
互いの健闘をたたえ合う日韓の選手
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 及川ヘッドコーチは、大会を通じて、「若手選手の躍動が一番の収穫」と振り返った。日本の車いすバスケシーンをリードしてきたベテランの藤本選手は「若手ガードが僕ら(ベテランのセンター陣)にもきちんと指示を出せるようになってきた。世界レベルの中に、確実に手を伸ばしている」と順調に進む世代交代と、来年のメダル獲得への手応えを感じていた。

ボールを運ぶ藤本怜央選手
ボールを運ぶ藤本怜央選手
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残り4秒で劇的逆転果たした女子日本代表 競り勝った経験「自信に」

 男子日本代表の大会と同時並行で、女子日本代表の国際強化試合「日本生命 WOMEN’S CHALLENGE MATCH 2019」も同会場で開催された。女子オーストラリア代表を招聘し、3戦を行った。女子日本代表は2勝1敗で勝ち越した。

 高さを生かし、力強いプレーでゴール下を中心とした攻撃を展開する女子オーストラリアに、日本は高い成功率を誇るミドルシュートと攻守の早い切り替えで対応した。

残り4秒でコートに戻る女子日本代表の選手。藤井郁美選手は一番右。
残り4秒でコートに戻る女子日本代表の選手。藤井郁美選手は一番右。
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 1勝1敗で迎えた最終戦、第4クォーターの試合時間残り4.0秒で1点ビハインドという緊迫した場面。若手ガードの萩野真世選手(26、クラス1.5、SCRATCH)から、キャプテンを務めるシューター、藤井郁美選手(36、クラス4.0、SCRATCH)にパスが通った。オーストラリアの選手がインサイドを警戒してチェックに来ないと判断した藤井選手が迷わずシュート。ボールはゴールに吸い込まれ、日本は逆転勝ちを果たした。藤井選手は「(ラストシュートは)感覚で打った。手から離れた瞬間に、入ったのが分かった」と喜びをかみしめながら振り返った。

 ラストプレイの直前にもフリースローを2本決めた藤井選手は、「もし、自分にチェックが来たら、フリースローに持ち込むか、シューターの北田千尋選手(30、クラス4.5、カクテル)にパスする」と、二の矢、三の矢を準備していた。「今まで(競った試合では)負けて終わることが多かった。今回、勝てたことでチームの自信につながった。勝ち切れた要因は、全員で走り切れたこと」と話した。(フジテレビ)

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