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【いまエネルギー・環境を問う 竹内純子の一筆両断】電力供給危機が教える安全保障のリスク

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 コロナに明け暮れた2020年が終わり、新たな年が健やかなものとなるよう祈っていたのもつかの間、福岡県を含む一部地域に2度目の緊急事態宣言が出されました。でも、実は危機はそれだけではありませんでした。年初、全国的に電力供給が逼迫(ひっぱく)して、ギリギリの綱渡りだったのです。停電には至りませんでしたが、結果オーライとしてしまえば同じリスクを抱え続けることになります。今回はなぜ電力供給が危機に陥ったのかを考えてみたいと思います。

 最初に申し上げたいのは、要因は複合的だということです。そのため、わかりづらく感じると思いますが、エネルギー供給は複雑なシステムで、ある一つの価値観で制度の一部をいじると、思ってもみない歪みが出ることもあると感じていただければ十分です。

 電力供給危機の原因の一つは電力需要が増えたことです。厳しい寒波に加え、コロナによる生活変化で家庭での電力消費が増えました。電気は大量にためられないので、必要とされる瞬間に必要とされる量を発電しなければなりません。これが電力関係者にとっての金科玉条ともいえる「同時同量」と言われる原則です。これを守るために、需要の予測を精緻に行い、それを賄うための発電設備をある程度の余力をもって整備しておくのですが、電力需要の急増で、余裕がなくなってしまいました。しかし10年に一度程度の寒波でこれほど余裕がなくなるものでしょうか?

 実は設備の余裕がなくなった背景に、電力自由化の進展があります。発電事業は自由化され、少しでも安く電気を作れる発電設備が勝ち残る競争市場になりました。再生可能エネルギーが、政策的な補助を受け大量に導入されつつあるため、既存の火力発電所は普段は再生可能エネルギーに発電の機会を譲り、休んでいることが増えました。稼ぐ機会を得られない発電所は、廃止されるのが競争社会のさだめです。しかし、再生可能エネルギーがどのくらい発電してくれるかは太陽や風の条件次第です。この冬、豪雪に埋もれた太陽光発電が、数日から数週間にわたって戦力外であったことも、発電設備の余力がなくなった原因の一つですが、このように、再生可能エネルギーが十分働かないときに頼りになるはずの火力発電が自由化によって細っていたことや、そのいくつかがこの時期に設備トラブルに見舞われたことが、発電設備の余裕のなさに拍車をかけたのです。

 そして今回の電力供給危機の最も重大な原因が天然ガスの調達不足です。実はいま、日本の電気の4割程度はLNG(液化天然ガス)火力発電に頼っています。2010年当時は25%程度だったのですが、石炭火力発電よりもCO2排出量が少ないので、天然ガス火力の利用を増やしてきたのです。日本は石油も天然ガスも石炭もほとんど国内では産出せず、海外からの輸入に依存しています。「こうした事態に備えて国内にある程度在庫を持っておけばよかったではないか」と思われるかもしれませんが、天然ガスはその名の通りもともと気体です。マイナス162度という超低温で液体にして輸送・貯蔵するので、低温冷却するタンクが必要であり、長期保存には向きません。LNGの保存は長くても1~2カ月で、国内の在庫は通常2週間分程度しかありません。

 今回の寒波は世界的なもので、中国や韓国なども天然ガスの輸入量を増やしました。そのため、国際的にもLNGが品薄になってしまいました。スーパーマーケットで水や牛乳を買うのとは異なり、エネルギー資源は「足りないから急遽買う」ことも難しく、調達には1~2カ月を要します。

 カタールなど中東の国からは船で約2週間、豪州からだと10日ほどかけて運ばれてくるLNG調達の最後の難関は、運搬してきた船から陸への荷揚げです。海に浮かぶ船と陸とを、太さ数十センチのパイプでつないで、LNGを陸上のタンクに移送するのですが、冬の荒海でパイプを接続するのは至難の業。数日荷揚げできず船が待機することもあるのです。次のLNGがいつ入ってくるか、それまでもつかを計算しながら発電所を動かす必要があったのです。二重、三重の意味で、電力供給は綱渡りでした。

 現在はだいぶ落ち着きを取り戻しているようですが、今回の供給危機は日本のエネルギー安全保障が脆弱になっていることを露呈しました。この現実を認め早急に改善を図らねば、取り返しのつかないことになりかねません。1970年代のオイルショック以降わが国は、石油への依存度を低減する努力を続けるとともに、石油の備蓄も進めてきました。天然ガスという備蓄できないエネルギーへの依存が抱えるリスクをどのようにヘッジするのか、ライフラインの安定供給はどうあるべきか、立ち止まって考える年にしたいですね。

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 【プロフィル】竹内純子

 たけうち・すみこ 昭和46年、東京都出身。慶応大卒業後、東京電力を経て平成24年からNPO法人「国際環境経済研究所」理事。筑波大客員教授。著書に「誤解だらけの電力問題」(ウェッジ)や「原発は“安全”か-たった一人の福島事故調査報告書」(小学館)など。「正論」執筆メンバー。

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