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【雇用のプロ 安藤政明の一筆両断】コロナ禍、政府に求められる雇用対策

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 新型コロナウイルスの感染拡大による非常事態宣言も段階的に解除され、ついに全面的に解除されました。しかし、第2波の可能性もあるわけです。まだ完全に気を緩めるわけにもいかないようです。

 政府のコロナ対策として、“アベノマスク”と一律10万円がよく知られていますね。他に、一定の条件で対象者に給付金を支給するような制度もあります。いずれも公金を使うわけですから、これらに要する巨額の費用は、広く国民全体の負担となります。

 労働法の分野では、政府が重視する雇用対策の柱として「雇用調整助成金(雇調金)」があります。しかし、どんどん変な方向に行っています。

 (1)政府が制度変更を示唆(2)事業所が戸惑う(3)かなり遅れて厚生労働省が取り扱い公表(4)でもよくわからない-という流れが何度も小出しに、繰り返し行われ続けているのです。最も迷惑を被っているのは、雇調金受付の担当者でしょう。先週回答したことが今週は違う回答になり、中には嘘つき呼ばわりされたりを繰り返しますから。

 政府は、制度の根本的なあり方よりも、雇調金の利用が進まないことを気にしています。その理由としてよく指摘されるのが、手続の複雑さです。そのため手続は段階的に簡素化されました。既に準備していた事業所にとっては、努力が水の泡になることもありますが…。

 社会保険労務士による支援が進まないことも指摘されます。これは当たり前で、事業所に不正があると社会保険労務士まで連帯責任を負わされます。助成金の連帯弁済義務、氏名公表、代行権停止5年間とかなり重いです。政府は、この連帯責任を解除すると言いました。まだ実現されていませんが。このときの安倍晋三首相の発言がすごいです。

 「今までの発想を変えなければならない。危機を乗り越えることを最優先に、不正などは事後対応を徹底すればよい」

 でも不正は犯罪です。危機を乗り越えるためなら犯罪を見ぬふりし、ほとぼりが冷めた頃に取り締まるということでしょう。たとえ危機でも、政府が違法行為を奨励してはなりません。

 それでも活用が進みません。実は仕組みとして当然です。雇調金は、実際に従業員を休業させ、給与締め切り日を経て、やっと申請という流れが基本です。多くの事業所は最初から4月、5月の申請を予定していないのです。さらにコロコロ取り扱いが変わるから、早めの申請を予定していても「ちょっと待とう」となるわけです。

 政府は、厚労省が申請・支給件数を日々ホームページで公表するなど、異常に「実績」を気にしています。これではダメだと思ったのか、今度は休業手当を受けられない従業員が直接申請できる制度をつくると言い始めました。これを聞いた事業所の一部は「それなら雇調金の手続きは面倒だし、休業手当は支払わず、自分で申請させよう」と考えたりしかねない気がします。

 休業手当は、休業原因が「使用者の責に帰すべき事由」のときに限って支払いが義務づけられています。コロナ禍の場合、業種指定で自粛要請を受けた事業所は「使用者の責」にはならないでしょう。一方、その他の事業所では、緊急事態宣言下とはいえ、従業員を休業させると判断するため「使用者の責」に該当するという考え方が一般的のようです。少し疑問もありますが。

 これらを踏まえると、新制度は、どの事業所も休業手当を支払わない場合に従業員が直接申請できるのでしょうか。もしそうなら、これも政府による違法行為、少なくともグレー行為の奨励といえるでしょう。

 雇用維持は重要です。しかし、例外なく重要かといえば、決してそうではありません。政府が思いつきで助成金をばらまいて雇用を維持しようとしても、事業所が破綻すればどうしようもありません。休業手当を支払わない事業所での雇用維持が果たして目指すべき方向かどうかも疑問です。

 確かに雇調金などのおかげで救われる事業所があって、実際に雇用が守られる例はあるでしょう。しかし雇調金がなくても問題ない事業所も「もらえるのならもらおう」となります。また残念ながら、雇調金を受給しても事業継続が困難な事業所も存在します。

 少し発想を変えて、このようなときにこそ、「新たな雇用」を支援することが必要かもしれません。日本は、人工知能(AI)や、その他IT活用などで諸外国に後れを取っています。この業界の人材育成を目的とする政府の支援が考えられます。育児、介護の人材不足は社会問題です。原因として、給与水準の低さがよく指摘されます。そこで政府が、魅力ある一定給与水準になるよう支援してもいいかもしれません。雇用の維持だけでなく、これから必要な業界で活躍してもらおうという考え方です。

 政府の場当たり的な対策の費用は、結局は国民全体が負担を強いられます。どう支援したら良いか、確かに難しいとは思います。しかし、アベノマスクや一律10万円、雇調金、従業員直接給付と、どれもまともな支援だとは思えません。同じ公金を投入するのであれば、場当たり的でなく、国の将来をも見据えて必要かつ効果的な支援であってほしいと願います。

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【プロフィル】安藤政明

 あんどう・まさあき 昭和42年、鹿児島市生まれ。熊本県立済々黌高、西南学院大、中央大卒。平成10年に安藤社会保険労務士事務所開設。武道と神社参拝、そして日本を愛する労働法専門家として経営側の立場で雇用問題に取り組んできた。労働判例研究会、リスク法務実務研究会主宰。社労士会労働紛争解決センターあっせん委員。警固神社清掃奉仕団団長。

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