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【いまエネルギー・環境を問う 竹内純子の一筆両断】コロナ・ショックは、脱ゆでガエルのラストチャンス

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 コロナ・ショックにより、わが国がいかに危機に弱い社会であるかが露わになっています。特にデジタル化の立ち遅れは深刻であり、デジタル化が進んでいればと臍(ほぞ)を噛む事例は枚挙にいとまがありません。

 多くの罹患者が出たダイヤモンド・プリンセス号では、オンライン診療の活用が議論されました。インターネット越しで診察できれば、医療関係者の負担を相当小さくできたでしょう。ですが、医師の診察は初回は対面診療が原則とされていたため、結局電話で聞き取り調査をしたそうです。医師の方は、対面したときの患者さんの姿勢や呼吸など細かい情報を総合して診断を下すそうですので、オンラインに過度に依存しないようにする必要はあるでしょうが、診療の選択肢を広げておくべきだったのだと思います。

 人と人との接触を少なくするため在宅勤務が奨励されましたが、出社しなければならない理由の一つとして、書類に押印しなければならないことを挙げた方も多くおられました。普段から手続きや業務のデジタル化を進めておけば、ハンコのため、FAXのため、紙の原本が必要だからという理由で出社することは抑えられたはずです。

 教育も然りです。中国は2月中旬に全国に約1億8千万人いる小中高生が自宅でネットを通じて学習する仕組みを整えたと報じられました。日本は対面教育を重んじてきたこともあって対応が後手に回り、自治体や学校による教育格差の拡大が如実になっています。

 マイナンバー制度が定着していれば、給付金の配布などもより迅速に、正確に行うことができたかもしれません。

 さまざまな場面で、わが国のデジタル化が中途半端な状態にとどまっており、立ち遅れていたことを痛感します。わたしが委員として参画する規制改革推進会議でも、デジタル化を推進する規制緩和について急ぎ議論を進めていますが、本来は、平常時に議論を煮詰めておくべきだったと思います。ただ、人間の性として、リスクを突き付けられない限り、今のやり方を変えようとは思わないのかもしれません。

 人口減少・少子高齢化に進むわが国では、社会の効率性を上げなければなりません。コロナによってより問題が明らかになり、変化を早める機会を得たのだと前向きにとらえてみたいと思います。

 実際、今回の自粛によって、私自身にもさまざまな発見や気づきがありました。今までは会議や打ち合わせは当然のように集まって行っていましたが、移動や名刺交換などのご挨拶にどれだけの時間を費やしていたことか。オンラインであれば、打ち合わせから打ち合わせに、瞬間移動ができるので、全く無駄がありません。ドラえもんに登場する「どこでもドア」を手に入れた気分です。オンラインでは参加者それぞれのお顔もよく確認できますし、発言を求める「手を挙げる」という機能のあるアプリケーションを活用すれば、発言がかぶることもなく明瞭です。国会や議会にも取り入れれば、野次の無い議事運営が可能になるかもしれません。

 もちろんメリットばかりではありません。例えば大勢を相手にする講義・講演は、皆さんの理解や共感の度合いを感じ取ることができず神経をすり減らすことも多々あります。しかしこれもそのうち新たな解決策が生み出されたり、慣れて気にならなくなることもあるでしょう。一方的な講義・講演であれば、テーマごとに質の高い動画が少数あればよいということにもなり、教職や研究に携わる方たちの選別・役割分担が進む可能性も感じました。

 今まで流してしまっていたことも一つ一つ意味を考えるようにもなりました。断るのも面倒で今まで認印の押印、原紙の提出など求められるままに対応してきましたが、変えようとする意識の無さ、いわば「悪意のない無意識」がデジタル化の大きな敵だということに気がつき、そのハンコ、その手続き書類は本当に必要ですか、と問うようになりました。デジタル化からは離れますが、在宅時間が増え、家族とともに過ごすことが多くなり、自分にとっての大切なものは何かということを改めて考える機会にもなり、先送りにしていたエンディングノートも書き始めました。

 もちろん、あまりに急激な変化に、そんな余裕はないという方も多くおられるでしょう。大変な思いをされている皆様に、心からのお見舞いと、支援の手が届くことをお祈り申し上げます。

 ただ、人口減少や少子高齢化、地域の衰退など、少しずつ進む変化に対して、人は「ゆでガエル」になってしまいがちです。この急激なコロナ・ショックは、新たな社会のあり方を探り未来を創りだす、私たちに与えられたラスト・チャンスなのかもしれません。コロナという災いを、どれだけ福に転じることができるか。私たちのチャレンジが始まります。

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【プロフィル】竹内純子

 たけうち・すみこ 昭和46年、東京都出身。慶応大卒業後、東京電力を経て平成24年からNPO法人「国際環境経済研究所」理事。筑波大客員教授。著書に「誤解だらけの電力問題」(ウェッジ)や「原発は“安全”か-たった一人の福島事故調査報告書」(小学館)など。「正論」執筆メンバー。

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