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【国家を哲学する 施光恒の一筆両断】コロナ以後真っ当な国づくりへの回帰を

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 新型コロナウイルスの問題は収束がいつなのか今の時点では全く見えない。長期化する可能性も高そうだ。現在の政治や経済のあり方は、「新型コロナ以後」の世界では変わらざるを得ない。方向転換を求められるものの一つに「観光立国」政策がある。また、その背景にあるグローバル化推進策も改めざるを得ない。

 少なくともしばらくの間、クルーズ船観光は立ち行かなくなる。見知らぬ人々と長時間、密閉空間を共にしなければならないクルーズ船に乗りたがる人が大幅に減ることは間違いない。クルーズ船で外国人観光客を呼び込み、外需を獲得しようとするのは「観光立国」政策の柱であった。この政策自体も改めざるを得ない。

 そもそも「観光立国」政策をとるようになったのは、日本国民の多くが以前よりカネを使わなく、いや使えなくなったからである。1990年代半ば以降、日本の平均実質賃金や世帯所得は大きく下がった。例えば、1994年に664万2千円だった一世帯当たりの平均所得は2017年には551万6千円にまで低下した(厚労省「国民生活基礎調査)。

 非正規雇用も増大し、生活の不安定化に悩む人々も増えた。経済的見通しがたたないため、晩婚化や少子化も進行した。これらの要因から国内需要が減り、いわゆるデフレ不況に陥った。手っ取り早く経済を回そうと安易に頼ったのが、外国人観光客を呼び込み、彼らの需要で稼ごうとする「観光立国」政策だった。

 外需依存の「観光立国」政策から脱却するには、グローバル化推進策自体の見直しが必要である。国境の垣根をなるべく低くし、ヒト、モノ、カネ、サービスの動きを自由化・活発化しようとする政策プログラム自体の修正である。

 グローバル化を進めれば、グローバルな投資家や企業には有利であるが、一般庶民(特に日本のような先進国の庶民)には不利な世界ができてしまう。グローバル化のため資本の国際的移動が自由になれば、グローバルな投資家や企業の影響力が過度に増すからだ。例えば彼らは「人件費を下げるために非正規労働者を雇用しやすくしなければ生産拠点をこの国から移す」「法人税を引き下げる税制改革を実行しないと貴国にはもう投資しない」などと各国政府に圧力をかけられるようになる。その半面、庶民の声は政治に届きにくくなり、生活も不安定化してしまう。

 1990年代半ば以降、わが国もどっぷりとグローバル化の波に飲み込まれ、歴代政権は構造改革を繰り返し、結果的に、グローバルな投資家や企業に有利な社会づくりを推進してしまった。その帰結が平均賃金や平均世帯収入の低下であり、また、消費税率を上げる一方、法人税率を下げるという昨今の税制改革である。

 グローバル化という言葉に踊らされ、その波に追従した帰結であるが、このようにできあがってきた今の社会は、今回のコロナ禍のような有事には非常に弱い。内需が細り、外需に依存する経済は長期的にはもろい。やはり経世済民の基本に立ち返り、多数の一般庶民を豊かにする真っ当な国づくりへと方針を転換する必要がある。「観光立国」政策からの脱却はその第一歩であり、皆で知恵を絞る必要がある。

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【プロフィル】施光恒

 せ・てるひさ 昭和46年、福岡市生まれ、福岡県立修猷館高校、慶應義塾大法学部卒。英シェフィールド大修士課程修了。慶應義塾大大学院博士課程修了。法学博士。現在は九州大大学院比較社会文化研究院教授。専攻は政治哲学、政治理論。著書に『英語化は愚民化』(集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など。「正論」執筆メンバー。

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