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【デザインで人と人をつなぐ 松岡恭子の一筆両断】コペンハーゲン 更新続ける「周縁」

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 「ノーマ」というレストランが世界的に知られるようになった頃、多くの人が首をかしげました。美食で知られるイタリアやフランスならともかく、場所がデンマークのコペンハーゲンだったからです。材料は北欧の山や海から採れるものや有機野菜へのこだわりと、斬新なプレゼンテーションが世界に響き渡り、美食家が集まるようになりました。

 今年6月にデンマークを訪ねた時、ノーマには行けませんでしたが、その後に続くレストランのいくつかを訪ねました。メニューには初めて聞く食材ばかり。お皿が運ばれてくると、不思議な組み合わせに込めたストーリーを聞かされます。廃棄物を出さないことをポリシーにしているある店は、昨日の残ったパンを使って麺(めん)をこしらえていました。正直に言うと、おいしいのかどうか定かではない料理もありましたが、コンセプトと実験精神に満ちていていたのは確かです。食べる側も新しい考え方に触れたいと足を運んでいるようでした。

 また驚いたのは店のつくり。店に入るとまずキッチンがあり、その横を抜けてテーブルに行く店もあり、客席とキッチンがひと続きなのが主流。世界中から集まるスタッフの会話は英語で、客の国籍にあわせてその言語が話せるスタッフがメニューの説明にやってきたりと、国際色豊かです。ある店では食後に「それではそろそろどうぞ」と促され、表のキッチンから仕込みをしているバックキッチンまでツアーをしてくれ、最後にスタッフ全員で私たちを囲んで写真を撮ってくれました。わくわくする新しい体験でした。

 21世紀に入り目覚ましい活躍をしている建築設計事務所BIGも、コペンハーゲンで生まれました。設立わずか十数年でニューヨークやロンドンに数百人単位の事務所をつくり、ヨーロッパ、北米、アジア、中東などで建築を手がけています。グループを率いるのは1974年生まれのデンマーク人、ビャルケ・インゲルス氏。コペンハーゲンの運河の一角を囲って市民プールにしたり、ごみ焼却場の傾斜屋根の上をスキー場にしたり、面白いアイデアを連打してきました。干拓が生んだ平坦な土地に建てた集合住宅は、人工的に丘を造形して「マウンテン(山)」と名付け、上から見ると8の字型で2つの中庭を持つ巨大な集合住宅の名前は「8」。こんな建築もあり得たんだ、と市民の心を掴みました。

 繊細さ、土着性、哲学的陰影、そういった時間がかかりそうなものはバッサリ切り捨てたキッチュでユーモラスな作品は、いつもわかりやすい模式図で説明されます。パースや写真も空から見下ろす全体を眺めるものが多く、大づかみで視覚的です。人気を獲得しているのは実験と挑戦に満ちた姿勢と、そのわかりやすさのせいではないかと思います。

 文化人類学で語られる「中心と周縁」という考え方に沿えば、ヨーロッパにおいて北欧は周縁でしょう。私には、前述の食や建築は、この「周縁」だからこその自由さと強さに思えました。ときに動きを失い固定されてしまう「中心」に対し、「周縁」は他者性をもち、交流によって多義的な環境をつくる存在です。ノーマやBIGは、コペンハーゲンにこそ生まれたように思えました。

 一方で、この都市は地道で息の長い取り組みでも知られています。20世紀後半自動車が激増するなか、危機を覚え1970年代から自転車利用の促進に着手。自動車の車線と駐車場を減らしつつ、自転車利用の数値目標を掲げ専用レーンをつくっていきました。ハード整備だけでなく、信号の待ち時間を短くするなどの細やかな工夫も重ね、世界有数の自転車シティになりました。また、都心の生活を豊かにする公共空間のありかたを研究し方針を決め、その実現に一歩一歩進み続けた結果、屋外の公共空間が増え、市民の生活満足度が格段に向上しました。それらの道のりは数十年かけて少しずつ進んでいった根気のあるものでしたが、それも「周縁」ならではの、常に更新を続ける、勇気ある姿勢かもしれません。

 世界から見えれば日本は周縁、日本で見れば九州は周縁です。さて、九州という地域はどんな周縁を描きましょうか。

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【プロフィル】松岡恭子

 まつおか・きょうこ 昭和39年福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学工学部卒。東京都立大学大学院、コロンビア大学大学院修士課程修了。建築家。設計事務所スピングラス・アーキテクツ代表取締役および総合不動産会社、大央の代表取締役社長。建築の面白さを市民に伝えるNPO法人「福岡建築ファウンデーション」理事長も務める。

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