PR

農作業で料理人育てる ホテル日航福岡が農園

PR

ホテル日航福岡の中橋義幸総料理長(右)と久保田農園の久保田真透社長
ホテル日航福岡の中橋義幸総料理長(右)と久保田農園の久保田真透社長

 ホテル日航福岡(福岡市博多区)が、福岡県糸島市に自社専用の農園を整備し、野菜作りに取り組んでいる。中橋義幸総料理長(66)が旗を振り、地元農家の協力を得て、年間50~60種類の野菜を育てる。ホテルのレストランで採れたての味を提供できるだけでなく、料理人が農作業をすることで、食材の目利き力や、料理に対する意識の向上につながっている。

 ◆遊び

 福岡市中心部のホテルから車で約40分。海と山に挟まれた場所に「糸島ファーム」がある。約2千平方メートルの畑には、ニンジンや大根といった定番から、中華料理で使われ、花の部分も食べられるニラなど珍しい野菜も育つ。

 農園は平成29年1月に誕生した。中橋氏と、糸島市にある「久保田農園」との出会いがきっかけだった。

 中橋氏はホテル日航福岡が開業した平成元年、フレンチのシェフとしてレストランに入った。奈良県出身で、それまで大阪のホテルにいた。

 「九州は食材の宝庫だ」と感じ、各地の農家を訪ね、魅力ある食材を仕入れるようになった。その中で、久保田農園と交流を深めた。

 久保田農園は、レストラン向けにハーブや西洋野菜などを栽培している。前社長の久保田稔氏(故人)は、世界から取り寄せた珍しい野菜の種を植え、新しいビジネスの芽を育てることを大切にしていた。経営8割、「遊び」2割。その2割から、新たな一番手を生み出す。好奇心あふれる生き方に、中橋氏は強くひかれた。

 新しい事業に挑戦したいと思っていた中橋氏は「これからの時代はホテルも農業だ。農業は若い料理人を育てる」と、ホテル運営会社の社長や会長に訴えた。久保田氏の協力を得て、土地を確保するめどが立ち、栽培をスタートした。

 農園は日頃、地元の農家に管理を委託している。中橋氏らレストランの料理人やスタッフは、月に4回程度、交代で訪れる。午後1時にホテルを出発し、夕方に厨房(ちゅうぼう)に入るまでの間、畑作業と生育状況の確認などをこなす。

 ◆意識

 開始から2年目、イノシシやアナグマが出没し、サツマイモなどに被害が出た。スイカが収穫直前に食べられたこともあった。台風による塩害で生育に影響が出たり、酷暑をにらみ、葉物から別の野菜に品目を変更したりもした。

 数々の問題には、久保田農園や、委託農家から対策を伝授してもらった。

 ホテルスタッフは農家の忍耐や苦労を、肌身で感じ、素材への意識が変わった。

 料理人は収穫した野菜を、よりおいしく、残さず使おうと、工夫を凝らすようになった。収穫のタイミングが分かり、素材を見極める力も付いた。

 中橋氏は「土を触り、汗をかき、農家の苦労が見えることで、料理への姿勢が変わった。畑で一から作るより、仕入れた方が安くすむが、若い料理人を育てる点で、畑の効果は大きい」と語る。

 ◆挑戦

 農家にもホテルと協業するメリットがある。久保田氏の長男で、久保田農園の社長を継いだ真透(まさゆき)氏(44)は「料理人と交流し、視野が広がった。農家は野菜作りで収穫量や日持ちを重視するが、野菜がどう食されているか分かると、作るべきものを考えさせられる」と話した。

 交流の成果として、シェフに人気で、小さく柔らかな野菜、マイクログリーンの栽培にも力を入れるようになったという。

 糸島ファームの活動は、食育の分野にも広がる。

 今月6日、親子約30人を招いて、サツマイモや落花生の収穫体験が開かれた。子供は大きなイモに目を丸くし、ホテルのシェフが腕を振るった料理で野菜のおいしさを実感した。

 こうした活動は、長期的にホテルのファンを増やすことにもなる。中橋氏は「目の前の仕事に懸命に取り組み、2割の力で新しいことをやる大切さは、どの業界にも通じる」と説明した。今後は食品ロスを減らす観点で、残飯を使った堆肥づくりなどに取り組み、持続可能な社会の実現にも貢献したいという。

 ホテル日航福岡は今年開業30年。さらなる発展へ、農業の分野でも挑戦が続く。(高瀬真由子)

この記事を共有する

おすすめ情報