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深刻シカ食害 九州5県が一斉捕獲 43万頭生息、対策にICT活用も

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一斉捕獲の期間中に豊築猟友会の会員が捕獲したシカ
一斉捕獲の期間中に豊築猟友会の会員が捕獲したシカ

 農林業へのシカ被害を防ごうと、九州5県で22日まで、シカの一斉捕獲が実施されている。各地の猟友会が連携して山に入り、効率的に頭数を減らす。各自治体は鳥獣の生息域の拡大や、捕獲員の高齢化に頭を抱える。最近はICT(情報通信技術)も採用し、有効策の模索が続く。(九州総局 高瀬真由子)

 15日午前7時半。福岡県豊前市と上毛(こうげ)町の境にある山に、約30人の捕獲員が3班に分かれて入った。地元の豊築猟友会の会員だ。シカを追う犬の鳴き声と銃声が響き、2時間でシカ3頭を捕獲した。

 この地域を含む福岡、大分の県境は、シカの生息密度が高いとされる。農作物の被害は豊前市だけで年間660万円に上る。

 同市有害鳥獣捕獲隊の森田千年(ちとし)隊長(72)は「シカは昔、山奥まで行かなければ獲れなかったが、最近は人家の近くで見かける。捕獲を続けないとどんどん増える。農作物を植えても、すぐに食べられてしまう」と語った。

 ◆目標頭数の3倍

 シカの一斉捕獲は福岡、熊本、大分、宮崎、鹿児島の5県計51市町村と林野庁九州森林管理局が実施する。平成24年度に始まり、毎年、春と秋に行う。本年度は9月8~22日と、来年3月22~29日を予定している。

 九州の県境地域はシカがすむ山が多い。県境をまたいだ複数の自治体や猟友会が同時期に、連携して猟をすることでシカを挟み撃ちにし、効率的に頭数を減らす。

 毎年、一斉捕獲の期間だけで、計2千~2500頭が捕獲される。

 九州のシカの数は多い。

 鳥獣保護管理法に基づき、各県が算出したシカの目標生息数は九州7県で計約14万頭となる。これに対し、捕獲数などから推定した個体数は、3倍の計約43万頭とされる。

 シカは2歳から毎年1頭程度出産する。天敵だったニホンオオカミも今はいない。4、5年手を付けずにいると、数が2倍になるといわれる。九州森林管理局の担当者は「シカは繁殖力が高い。獲っても獲っても適正頭数にならない」と嘆いた。

 シカによる産業への被害は、深刻さを増す。

 シカは植林した木の皮や芽を、盛んに食べる。下草まではぎ取るように食べられ、土がむき出しになった森林も多い。大雨が降れば土壌が流出し、斜面の崩落を引き起こす恐れがある。天然林の枯死も目立つ。

 さらに絶滅危惧種の植物も食べ、生態系に影響を及ぼしている。

 林野庁によると、シカによる森林被害は、九州7県で計859ヘクタール(平成29年度)に上った。

 一斉捕獲を含め、九州では年間12万頭のシカを捕獲するが、被害を大きく抑制することは難しい。

 ◆猟友会員は減少

 農林業全体でみると、問題はシカだけではない。

 農林水産省によると、九州における農作物の鳥獣被害は、29年度で23億5千万円に達した。獣ではイノシシが最も多く、11億8千万円だった。シカ3億6千万円、サル9千万円と続く。

 全国では昭和53年からの36年間で、シカの生息分布が2・5倍に、イノシシは1・7倍に拡大したという。これに対し、捕獲員は減少する。猟銃免許所持者数は同じ期間で3分の1に減った。

 豊築猟友会も会員は、この40年で3分の1の約140人に減った。平均年齢は70歳だという。

 狩猟は体力勝負だ。仕掛けたわなを見回り、猟銃を担いで山中を歩き回らなければならない。後継者の確保は難しい。

 最新技術を活用し、猟の省力化を目指す自治体もある。

 長崎県五島市は平成28年以降、複数のICT機器を導入した。その一つに、わなの遠隔操作がある。

 大きな箱状のわなにカメラを取り付け、画像をリアルタイムにパソコンなどで確認する。複数のシカがわなに入ったタイミングで、パソコンを操作し、柵を降ろす。より効率的な捕獲が期待できる。

 監視装置も複数の場所に設置し、出没情報を地図上で把握する。同市農業振興課の担当者は「効率的な捕獲につながり、増加を続けた被害額が、30年度に減少に転じた」と語った。導入には、県や総務省の補助も活用した。

 熊本県高森町は28年、ICTを活用した箱わなを導入した。センサーとカメラが付き、ある大きさ以上のイノシシが入ると自動で柵が降り、画像が捕獲員のタブレットに送信される。

 町内29カ所で稼働し、捕獲員の負担軽減につながっているという。総務省が導入費1500万円を補助した。

 こうした最新技術には、課題もある。鹿児島県の担当者は「導入費の高さに加え、スマートフォンを使える高齢者が少ないことも、普及の課題だ」と語った。

 鳥獣被害には、過疎化や高齢化など、日本が直面する問題が複合的にからむ。捕獲員の後継者育成や農家の自衛策など、長期的な取り組みが必要となる。

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