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九州新幹線長崎ルート フル規格に見えない終点、月内決着が焦点に

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平成30年8月に九州新幹線武雄温泉-長崎間で始まったレールの敷設作業。一方で新鳥栖-武雄温泉間の行方は見通せないままだ
平成30年8月に九州新幹線武雄温泉-長崎間で始まったレールの敷設作業。一方で新鳥栖-武雄温泉間の行方は見通せないままだ

 九州新幹線長崎ルートの未着工区間、新鳥栖-武雄温泉(佐賀県)の行方が見通せない。フル規格に傾く与党検討委員会は6月中に整備手法の方向性を出したいとするが、佐賀県の山口祥義知事は建設に慎重姿勢を崩さない。新幹線と特急を乗り継ぐ「リレー方式」が長期になれば、沿線への経済効果は限定的となる。決定が再び先送りされれば、後世から批判が出かねない。(九州総局 高瀬真由子)

 5月16日、佐賀県内8市町の議員有志が「フル規格促進議員の会」を結成した。「佐賀の発展にはフル規格新幹線が必要だ」と、県内世論の形成を図る。

 結成のきっかけは、山口氏が4月、与党検討委の会合で「新幹線整備をこれまでも、今も求めていない」と言い、建設拒否の姿勢を示したことだった。

 会長を務める平原(ひらばる)嘉徳佐賀市議は「乗り換えが必要な新幹線では、定住促進や関西からの観光客の増加は期待できない。全線フル規格化した鹿児島ルートは、熊本にも大きな経済効果があった。新幹線不要は佐賀県民の総意ではない」と訴えた。会員は現在25人だが、関心を持つ議員は約40人に上るという。

 佐賀県議の石井秀夫議員も、フル規格が必要だと主張する。「関西圏への乗り入れを考えればフル規格で整備すべきだ。佐賀が議論の入り口にも入れない状況で良いのか。乗り換え方式が固定化すれば、50年後100年後、『当時政治に関わっていた人は何をしていたんだ』と批判されかねない」と語った。

 ◆経営に打撃

 整備方式をめぐり、与党は、時間短縮効果や経済効果が大きいフル規格を軸に検討を進める。JR九州も「最も整備効果が発揮され、西九州全体の発展をもたらす」(青柳俊彦社長)と、フル規格を要望する。

 これに対して山口氏は、佐賀県の財政負担や開業後の在来線のあり方、ルートなどの課題が解決していないと反発する。

 国土交通省の試算によると、フル規格で整備した場合、佐賀県の実質的な負担は約660億円になる。同県の当初予算の7分の1に当たる。

 佐賀県議で自民党県連会長の留守茂幸氏は「厳しい財政状況を踏まえ、知事は強く言わざるを得ないのではないか。将来に禍根を残さないよう、議会でも議論を続ける」と語った。

 将来への禍根は、すでに生じている。

 昨年7月、与党検討委は整備手法の結論を先送りした。今年6月に方向性が決まらなければ、来年度政府予算の獲得に影響する。

 1年先延ばしになれば、その分だけ長崎ルートの全線開業が遠のく。仮にフル規格の実現が決まっても、環境影響評価の手続き後、着工から開業まで12年前後かかる。

 国土交通省は今年3月、フル規格で建設中の長崎-武雄温泉で費用対効果が低下し、投資に見合う目安とされる「1」を下回り、「0・5」に下がったと公表した。リレー方式が50年継続する前提で算出した。

 博多-長崎の所要時間は現行の特急で約1時間50分だ。フル規格の新幹線であれば51分になる。山陽新幹線との相互乗り入れで、関西方面と直通列車も走る。

 ところがリレー方式では、博多-長崎は約1時間22分かかる。乗り換えが必要な上、料金は上がるだろう。当然、山陽新幹線への乗り入れもない。

 一方、長崎県民には「高速バスの方が安くて便利」との声もある。高速バスは長崎駅から福岡市中心部の天神まで約2時間15分で、特に重い荷物を持つ人にとっては乗り換えの負担がない方が良い。

 JR九州の青柳氏は5月22日の記者会見で「対面乗り換えは非常にきつく、(続けば)経営を圧迫する。先延ばしを認めるものではないと、声を大きくしていかないといけない」と述べた。

 長崎県議会で交通関係の特別委員会委員長を務める八江利春議員は「リレー方式の長期化は、マイナスどころの話ではない」と指摘した。

 ◆歴史を見据えて

 佐賀県が懸念する財政負担について、JR各社が線路使用料(貸付料)を国側に払い込む期間を、現在の30年から50年に延ばす案が浮上している。実現すれば、沿線自治体の財政負担は軽くなる。

 JR九州の青柳氏は「受益の範囲であれば検討の余地はある」とし、容認に前向きな姿勢を示した。

 佐賀県の山口氏の発言にも、微妙なニュアンスが漂う。5月21日の記者会見では「(フル規格化など)そういう大きな話をするには時間が必要。数カ月で決められる話ではない」と述べた。一方で「長崎県から事務レベルでも課題整理をしたらどうかと提案があり、賛成した」と、議論の門戸は閉ざさない考えを示した。

 佐賀側が主張するように、長崎新幹線は、同県内の在来線を活用するフリーゲージトレイン(軌間可変電車)を前提にしていた。前提が崩れた以上、改めて議論すべきだという意見にも理はある。

 しかし、さらに歴史をさかのぼれば、長崎県佐世保市を経由するルートが暗礁に乗り上げたとき、平成3年当時の佐賀県知事が、佐世保を通らないルートを「私案」として発表。佐世保市長が受け入れた経緯もある。同市にとって、長崎・佐賀、そして九州全体を考えた苦渋の決断だった。

 新幹線は、つながらなければ効果がない。新青森-新函館北斗だけで先行開業した北海道新幹線は、平成29年度に98億円もの赤字となった。

 一方、平成23年に全線開業した九州新幹線鹿児島ルートは、それ以前に比べ利用者が1・54~1・58倍にもなった。

 長崎ルートは全線フル規格でなければ、九州全体の発展につながらない。与党検討委には佐賀を説得する提案が、佐賀県知事には全九州と歴史を見据えた決断が必要となる。

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