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職質への抗議が「人種差別反対」に…クルド人デモにちらついた不穏な影

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警視庁渋谷署員によるクルド人男性への職務質問に端を発した5月末の抗議デモは、6月には内容が変化。クルド人の参加はほぼなく、米国で起きた黒人暴行死事件への抗議などが主なテーマになった=6月14日、東京都渋谷区
警視庁渋谷署員によるクルド人男性への職務質問に端を発した5月末の抗議デモは、6月には内容が変化。クルド人の参加はほぼなく、米国で起きた黒人暴行死事件への抗議などが主なテーマになった=6月14日、東京都渋谷区
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 警視庁渋谷署員から威圧的な職務質問を受けたなどと主張するクルド人男性らが5月に実施した抗議デモに、警察当局が「極左暴力集団」と認定する集団の関係者などが参加していたことが、公安関係者らへの取材で分かった。デモは当初から米国で黒人男性が警察官に暴行され死亡した事件に端を発した「外国人差別撤廃運動」の影響を強く受けていたという見方があるが、クルド人の支援団体側は「われわれは別のグループの主張に便乗された」と困惑。警察当局は、さまざまな政治勢力が混乱に乗じて介入を図った可能性もあるとみて、慎重に情勢を分析している。

極左メンバーの姿も

 「主張がねじ曲げられ、最終的に取り込まれた」。日本に住むクルド人の生活支援などに取り組む「日本クルド友好協会」の日本人担当者は、こう指摘する。

 担当者によると、5月のデモに参加したクルド人らから情報収集した結果、外国人差別の撤廃などに共通の目標を見いだした「日本人を中心とした別グループ」が、デモ発起段階から関与したとみられることが分かったという。

 事の発端は、渋谷署員がクルド人男性に行った職務質問への抗議だった。

 5月22日、渋谷区内で車に乗ったクルド人男性が同署員の職務質問を受けた。男性や友人らはこのときに威圧され、署員から身体を地面に押さえつけられるなどの暴行を受けたと主張。男性の友人が様子を動画撮影してSNSに投稿、インターネット上で拡散し、約1週間後の5月30日にJR渋谷駅周辺や同署前で抗議デモが行われた。

 折しもデモの数日前、米中西部ミネソタ州で黒人男性が偽造紙幣使用の疑いで拘束された際に白人警察官の暴行を受け、後に死亡する事件が発生。動画がネットで拡散し、全米にデモが広がる展開を見せていた。

 渋谷でのデモ参加者の多くは日本人。公安関係者によると、人種差別などに反対する市民団体の関係者らが主導していたが、一般参加者のほかに、複数の極左暴力集団メンバーの姿も確認された。

 公安関係者は「『あわよくば、自分たちの運動に取り込もう』という勢力が介入していた」と指摘する。

 デモには、安倍晋三首相を「ファシスト」と位置付け退陣を求める市民団体関係者も参加。「クルド人への差別反対」の枠を超えて、多種多様な人物が入り交じっていたとみられる。

 このデモでは、渋谷署敷地内に不法侵入した疑いで日本人の逮捕者も出た。一部のクルド人参加者は「自分たちの主張とは違う」と途中離脱したという。

 デモには、立憲民主党の石川大我参院議員も参加していた。産経新聞の取材に対し石川氏側は、参加目的について「(クルド人男性らが投稿した)動画を確認し、警察による行き過ぎた行為があったと判断したので行動に出た。それ以上でも以下でもない」などと説明した。

適切に職務執行

 一方、5月22日の職務質問の経緯について、警視庁幹部はこう説明する。

 パトカーの後方を走行していたクルド人男性の車がパトカーを追い抜き、ウインカーを出さず車線変更。さらにスピードを上げた。署員が車を停車させ、運転免許証の提示を求めると男性は拒否し、車を急発進させた。渋滞で停止した車にパトカーが追いつくと、男性はすでに車から降り、中央分離帯の茂みに両手を後ろにした状態で立っていた。

 署員が所持品を確認しようとしたところ、男性が抵抗したため足をかけて膝をつかせ、腕で押さえつけた。所持品に問題はなく、車内から危険物や違法な物品も発見されなかった。男性には口頭で注意をし、そのまま帰宅させたという。

 同庁幹部は「急発進の段階で公務執行妨害容疑を適用することも可能だった事案。適切に職務執行した」との認識を示す。

クルド人参加なし

 一連の経緯について日本クルド友好協会は、クルド人男性側の非を指摘する。担当者は「一部しか収められていない動画が拡散した。男性らが前段で不適切な行動を取ったことは明白で、外国人だから不当な職務質問を受けたという理由は通らない」とする。

 同協会が活動を支援する在日クルド人らでつくる「日本クルド文化協会」も6月13日、SNS上でこう見解を示した。

 《今回の騒動の発端になったクルド人の行為は、日本の法律・慣習に照らし合わせて、擁護する余地はありません》

 一方で、デモは6月にも渋谷駅周辺で複数回行われたが、抗議内容、主催者とも変化。テーマは米ミネソタ州での黒人暴行死事件への抗議や、幅広い人種差別撤廃などに完全にシフトし、クルド人の参加はほぼ確認されなかった。

 1000人規模が参加したとされる6月14日のデモで、フランス出身の黒人男性(27)は、クルド人男性の主張は把握しているとしつつ「世界中に、黒人の命は大切だと訴えるために来た」と目的を説明した。

 「no justice no peace(正義なくして平和なし)」と書かれたプラカードを掲げた日本人女性(29)は、新型コロナウイルスがアジア人差別を生んでいるとし「中国人が『コロナ』と呼ばれていると聞く。世界が連携して立ち向かうべき問題だ」と訴えた。

偏見助長に失意

 一連の問題の中で「犯行予告」も起きた。6月10日、東京出入国在留管理局に対し、同局や渋谷署を名指しして「12日に手榴(しゅりゅう)弾を爆破させる。外国人が虐待されているからだ」などとするメールが届いた。

 不審物などは確認されなかったが、送信者は、米政府が過激な極左組織と認定する「アンティーファ(ANTIFA)で活動している者」を名乗り、警視庁が威力業務妨害容疑で捜査している。

 5月の渋谷でのデモ以降、日本クルド文化協会には「日本が嫌なら帰れ」「おとなしくしていろ」といった声が届いているという。友好協会の日本人担当者は落胆の色をにじませ、こう語った。

 「クルド人男性らの目的だった『職務質問への抗議』と米国の黒人差別は、根本的にかけ離れた問題であり、便乗されたことは間違いない。クルド人には長い時間をかけ、『郷に入っては郷に従え』の精神で日本社会への溶け込み方をアドバイスしてきたが、今回の件で彼らに対する偏見が助長されたと感じている」

クルド人 中東に住む民族。第一次世界大戦後に英仏によって引かれた国境線で居住地が分断され、総人口約3000万人がイラン、イラク、トルコ、シリアなどにまたがる地域に居住している。「国家を持たない世界最大の民族」として知られ、自治や分離独立を求める運動が相次いでいる。日本には2000人程度が暮らしているとされ、埼玉県に主要なコミュニティーがある。2015年(平成27年)には東京・渋谷のトルコ大使館周辺で、トルコ総選挙の在外投票で集まったトルコ人とクルド人の各グループ間で乱闘が起き、警視庁の警察官を含む約10人が負傷する事件があった。

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