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【中東見聞録】イスラエル大連立のアクセルとブレーキ 米大統領選にらみ対立内包

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5月24日、閣議に出席したネタニヤフ首相(右)とガンツ副首相兼国防相(ロイター)
5月24日、閣議に出席したネタニヤフ首相(右)とガンツ副首相兼国防相(ロイター)

 イスラエルで5月、ネタニヤフ首相の右派「リクード」と、ガンツ元参謀総長率いる中道政党連合「青と白」の大連立政権が発足した。連立合意で当面の首相続投を勝ち取ったネタニヤフ氏は、トランプ米政権が1月に発表した新中東和平案に沿ってヨルダン川西岸への「主権拡大」を強行する構えだ。蜜月関係にあるトランプ大統領が再選を逃せば一気に逆風にさらされる可能性があるだけに、11月の米大統領選までに既成事実を積み重ねる思惑があるとみられる。(前中東支局長 大内清)

 合意によれば、大連立の期限は3年間。前半の18カ月はネタニヤフ氏が首相を、ガンツ氏が副首相と国防相を務める。後半はガンツ氏が首相に就き、ネタニヤフ氏は副首相となる。

 政権発足時の演説でネタニヤフ氏は「ユダとサマリアの地(ヨルダン川西岸)のユダヤ人コミュニティーに主権を適用するときだ」と述べ、国際法に反する西岸のユダヤ人入植地の併合を急ぐ考えを鮮明にした。既存入植地の大半をイスラエルの主権下に置くとする米和平案に沿ったものだ。

 トランプ政権は同案を「パレスチナ国家樹立への現実的な提案」だと説明しているが、実際にはイスラエルによる西岸の実質的な占領状態を追認することに主眼が置かれており、到底、パレスチナ側が受け入れられる内容ではない。少なくとも建前上は「力による現状変更」を認めないとしてきた国際秩序の大原則をないがしろにしている点でも問題が多い。

 ただし、入植を推進し「強い指導者」のイメージづくりに腐心してきたネタニヤフ氏には、「和平」の名の下に政治的レガシー(遺産)を残す絶好機だ。同氏は目下、現職首相として初めて収賄などの罪に問われており、司法判断次第では危機に陥る。演説からは、この機に求心力を回復させようとの意気込みと焦燥が見え隠れする。

 これに対し、ガンツ氏や、外相に就任したアシュケナジ氏らの「青と白」側はやや慎重だ。米和平案を実行に移すとしつつも、「平和条約を結んでいるエジプト、ヨルダンとの戦略的関係の強化が重要だ」(アシュケナジ氏)ともしているのだ。

 ヨルダンのアブドラ国王は、イスラエルが西岸併合に乗り出せば平和条約破棄も辞さないとしている。このため、「青と白」側が性急な併合に走らぬようネタニヤフ氏側を牽制している-とみる識者も多い。

 1年半後に登板するガンツ氏としては、安易にネタニヤフ氏と歩調を合わせられないことは想像に難くない。11月の米大統領選で共和党のトランプ氏が敗れれば、和平案が宙に浮き、ガンツ氏は民主党政権との関係構築に追われることになるからだ。

 逆にトランプ氏が再選を決めれば、ネタニヤフ氏の蜜月路線を踏襲するかどうかの判断を迫られる。ガンツ氏とアシュケナジ氏はいずれも軍参謀総長まで上り詰めた筋金入りの元軍人だ。マティス前国防長官やケリー元大統領首席補佐官ら規律を重んじる軍出身の高官と衝突を繰り返してきたトランプ氏と馬が合うのかという疑問もある。

 昨年4月以降の1年ほどで3回も総選挙が実施される政治空転の末に誕生した大連立。米国情勢をにらみ、アクセルとブレーキを同時に踏むような対立をはらんだ政権運営が続く。

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