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【ビジネス解読】次世代交通「Maas」 鉄道各社、“稼ぐ力”に工夫の余地

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イズコのデジタルフリーパス画面=2月9日、静岡県伊東市
イズコのデジタルフリーパス画面=2月9日、静岡県伊東市

 最新のスマートフォンアプリの技術を駆使して、人の移動をスムーズにする次世代交通サービス「MaaS(マース)」。JR東日本や東急など鉄道各社がスマホを利用した「観光型」で実証実験を重ね実用化も視野に入れるが、肝心の認知度が低く、普及へのハードルは高い。提供エリアも限られることから、顧客層はそう大きくならないとみられ、付帯サービスが広げにくく、“稼ぎ”が限定的になるとの見方もある。

 マースは「Mobility as a Service(モビリティー・アズ・ア・サービス)」の略称で、利用者のニーズに合わせて鉄道、バスなど多様な交通手段を一体的に提供するサービスのこと。利用者がスマホのアプリで交通手段の検索や観光施設、飲食店での決済などを一気通貫でできるのが特長だ。民間調査会社の矢野経済研究所の調べによると、市場規模は令和2年見通しで1940億円。それが12年に6兆3634億円と、2年見通しの30倍以上に拡大すると予測する。

 マースで先頭を走るJR東は東京や新潟、仙台などに続き、4月から群馬でも観光に便利な機能を加えて実証実験を始める。東急は静岡・伊豆での実験を踏まえ、実用化の検討に入る。このほか、小田急電鉄は新宿駅や新百合ケ丘駅(川崎市)の飲食店で使える定額制サービスと組み合わせたマースを実験。福岡市と北九州市では、西日本鉄道、JR九州、トヨタ自動車などが、鉄道の経路検索やタクシー、カーシェアリングの予約を一つのアプリで提供する。

 主に鉄道会社が成長が見込める有望市場と位置づけ全国各地で力を入れているが、実験レベルがほとんどで本格的な普及にはいたっていない。大和総研によると、東京23区に住む人を対象にした認知度は、相対的に高かった20代男性でさえ50%に届いていない。全体的に「知らない」の割合が高く、スマホ操作の苦手な人が多いとされる60代以上の高齢者層では男女とも「知っている」はほぼみられない。便利さは伝わっていないのが現状だ。

 認知度を高め利用してもらうためには、多くの人が集まり移動も期待される東京五輪・パラリンピックなど大規模イベントに合わせて実用化を告知、スタートさせるといった効果的な取り組みも必要となりそうだ。比較的旅行に時間を充てる余裕がある高齢者層を呼び込むためには、サービスの利用法を簡単にする工夫も欠かせない。

 また、サービスを本格展開する上で悩ましいのは、今のところ顧客層が小規模になるとみられる点だ。専用サイトの閲覧も移動時が中心で頻度もそう多くないとみられる。蓄積した利用データを分析し、新たな顧客獲得に役立てることはできても、サービスの幅を広げるのは難しそうだ。顧客層に厚みがなければ、他社が保有サービスの展開先を広げる手段としてマースを選ぶ可能性は小さくなるからだ。当然、他社からの取扱手数料は入らない。

 大和総研経済調査部の市川拓也主任研究員はマースについてリポートで、電子商取引(EC)サイトのように多数の顧客を抱えることを強みにして、事業者から高い割合の手数料を取るといったビジネスにはなりにくいだろうと指摘する。サービスの品ぞろえが十分でなければ、収入の上積みは期待できない。

 とはいえ、マースは移動をスムーズにして周辺産業へ好影響をもたらすのが利点とされる。

 国土交通省によると、例えば東急が実験した伊豆の交通網は、バス・タクシー運転手の高齢化や人手不足で脆弱(ぜいじゃく)という。公共交通の利便性が低く来訪者の8割が自家用車を選ぶため、幹線道路が大渋滞するなどの問題を引き起こしている。

 マース先進国のフィンランドが首都ヘルシンキに導入したところ、公共交通の利用割合が48%から74%へ大きく増加。半面、自家用車による移動が40%から20%へ半減した。マースが本格的に広がれば、〝地域の足〟がよみがえり、車の渋滞を解消できる可能性もある。

 さらに、移動の接続地点になるような駅にある飲食店や小売店などは来客数の増加が見込める。移動の不便さが解消されれば、地方・郊外の土地にも価値が生まれるとの見方も少なくない。空き家・空きビル対策に貢献する可能性もあるという。地域活性化の起爆剤になる可能性があるマースこそ、鉄道会社にとって稼ぐ力になりうるだろう。(経済本部 佐藤克史)

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