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【ビジネス解読】田中角栄元首相もビックリ! 令和版「日本列島改造論」の処方箋

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三大都市圏転入超過数の推移
三大都市圏転入超過数の推移
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 人口減少時代にもかかわらず、三大都市圏の中で東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県)のみ転入者が転出者を上回る「転入超過」(人口流入)が24年連続で続いていることが、総務省の住民基本台帳に基づく令和元年の人口移動報告で判明した。これに対し、大阪圏(大阪、兵庫、京都、奈良の4府県)と名古屋圏(愛知、岐阜、三重の3県)は7年連続で転出者が転入者を上回る「転出超過」(人口流出)だった。いわゆる「東京一極集中」にはどんな問題が潜んでいるのだろうか-。

大阪圏、名古屋圏と差開く

 昨年、東京圏に引っ越してきた転入者は49万7660人、東京圏から他の地方に引っ越した転出者は35万2084人(ともに日本人のみ)。転入超過は14万5576人で前年比9976人増と3年連続で増えている。転入超過は平成8年以来続いている。15~29歳の流入が多く、総務省の担当者は「高水準の教育や、好待遇の求人を求めている」と分析する。

 これに対し、大阪圏は転入者20万2478人と前年比2735人増えたものの、転出者も20万6335人と転出超過は3857人(前年比4050人減)。名古屋圏も転入者11万6168人に対し、転出者12万7683人と転出超過は1万1515人(4075人増)だった。大阪圏、名古屋圏の転出超過は25年から続く。

 大阪圏、名古屋圏とも全国各地からの転入者は近年、10万~20万人規模と人は集まってくるものの、それを帳消しにするほど東京圏への転出が多くなっている。さらに、三大都市圏に限らず、地方に目を転じれば、東京圏への人口流出は深刻だ。

より深刻なのは地方

 三大都市圏より深刻なのは地方だ。都道府県別では39道府県が転出超過となり、地方移住などを後押しする政府の地方創生は奏功していない。

 39道府県のうち、転出超過数の最多は広島の8018人。茨城の7495人、長崎の7309人が続いた。交通利便性の低い条件不利地域を抱えていたり、基幹産業が不振だったりするのが人口流出の要因。愛知は26年以降では初めて転出超過となった。

 全1719市町村(東京23区は合算して1市とみなし集計)のうち、転出超過は73.8%に当たる1269。前年より29増えた。

 少子高齢化で日本の人口は減少しており、首都圏をはじめ都市部に人が集まるのは効率的との考えもある。住宅や公共施設を集約し、車に頼らず生活する「コンパクトシティー」構想もこの考えに基づいている。

 ただ、多くの有識者は、東京一極集中はさまざまな弊害をもたらすと指摘する。働き手やお金持ちが少なくなった自治体は税収が減少する一方、高齢化で社会保障費が膨らみ、財政状態が悪化する。実際、北海道夕張市では財政悪化が行政サービスの低下を招き、人口のさらなる減少という“負の連鎖”に陥り、19年、353億円の赤字を抱えて事実上破綻した。

 それだけではない。災害時の機能マヒも深刻だ。ミュンヘン再保険会社の「自然災害リスク指数」は米ニューヨークの42、仏パリの25などと比べ、東京・横浜は710と突出して高い。懸念される首都直下地震が発生すれば、日本全体が機能しなくなるリスクが高いことを示している。

 首都圏では、地価や物価の高騰で生活や子育てがしにくく、毎日の通勤ラッシュで心身ともに疲弊してしまうという指摘もある。

格差を埋める秘策は

 もちろん、国も手をこまねいているわけではない。25年に約10万人だった東京圏の転入超過を令和2年にゼロにする目標を掲げて、地域産業の振興などに取り組んできたが、短期間に効果を上げるのは難しく、逆に東京圏への転入超過は増えた。

 古くは高度成長時代から首都圏と地方の格差を埋めようという施策はあった。田中角栄元首相の「日本列島改造論」だ。工場を全国に再配置し、地方と都市を新幹線や高速道路、通信網で結び、都市の過密と地方の過疎を一挙に解消する壮大な構想だった。だが、新幹線や道路をつくるほど、地方の人が都市へ出やすくなり、東京一極集中を加速させた。

 こうした中、日本総合研究所の井上岳一シニアスペシャリストが昨年10月に発刊した「日本列島回復論」が話題を集めている。井上氏は著書の冒頭、この題名には日本列島改造論への「対抗意識があった」と説明している。

 著書の骨子としては、過疎地を都市に近づけるのではなく、「田舎らしさ」に磨きを掛ける方が訪日外国人客も日本人も魅力を感じるということだ。

 訪日客は他の先進国と同じような大都市よりも日本の原風景を味わえる田舎に魅力を感じ始めている。また、都市の生活を息苦しく感じる日本人には、物価が安く自然にあふれた地方は住みやすく感じる。インターネットに代表される通信網の発達で、過疎地を含めた田舎に住むハードルを下げていると語る。

 研究・開発や学問、芸術などは、自然豊かな地方の方が独創的なアイデアを生み出しやすいとの見方もある。著書では、本社を創業の地の松山市に置き続けるボイラー大手の三浦工業と、石川県小松市で創業し東京へ本社を移しながら、教育機能や購買部門を小松市の拠点に戻した建設機械大手のコマツの事例を紹介。「本社機能が地価の高い東京にある必要はなく、松山から動きたくない女性も多い」(三浦工業)、「30歳以上の女性社員を対象にした調査では、東京都の既婚率約50%・子供の数平均0.9人に対し、石川県では既婚率約80%・子供の数平均1.9人だった」(コマツ)という両社の声も載せ、「少子化に対する特効薬は、企業の本社機能を地方移転させることではないか」と唱える。

 90万部を超えるベストセラーとなった日本列島改造論と並ぶ名著となりうるか-。(経済本部 藤原章裕)

井上岳一氏(いのうえ・たけかず) 東大卒、米エール大大学院経済学修士課程修了。林野庁などを経て平成15年から現職。50歳。神奈川県生まれ。

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